第114話 ウィンミンさんとアーチャ

 ラッパオ集落でいたら、いつの間にかアーチャのお母さんであるウィンミンさんがやってきたよ。

 リッテンド集落の時もいろんな人から聞いたけど、ウィンミンさんって同年代の人達からマドンナ的な扱いをされているし、しかもいろんな意味で優秀な人なんだ。

 ウィンミンさん人気はこの集落でも変わらず健在のようで、皆さんなんかそわそわしちゃってます。


 「ダーちゃん、貰って良いかしら?」

 ニッコリと微笑んでそう言うウィンミンさん。

 えっと、僕は物じゃないんだけどなぁ、なんて思ってたけど、みんな「どうぞどうぞ」って、完全に貢ぎ物扱いです。

 そんな皆さんににっこりとお礼を言ったウィンミンさん。

 おもむろに僕を抱き上げると、この地上建物にある個室へと、一人入って行きます。



 えっとね、リッテンド集落には何度か行ってる。

 それにね、アーチャの母親でもあるんだ。

 にっこりって時のウィンミンさんに逆らっちゃいけません。


 その昔、まだまだ子供だったとき、アーチャは口では言えない恐ろしい目にあった、らしい。内容は知らない。

 でもね、以前、もう少しで虎の尾を踏みそうな僕に、慌ててアーチャが飛んできて、ウィンミンさんに謝りながら、僕を叱りつけたことがありました。で、そのとき、ウィンミンさんから離れたあと、僕に言ったんだ。ああいうにっこりと笑うときには絶対に逆らっちゃいけないってね。


 僕はアーチャからアドバイス受けてたから、その「口では言えない恐ろしい目」ってのにあったことはない。けど、ウィンミンさんの、、はちゃんと覚えてる。うん、まさに今僕を座らせた、その顔、だよね。

 僕は、怒らせないように慎重にウィンミンさんと相対しなきゃなんないね。これは結構たいへんだなぁ。はぁ。



 「モールス、っていうのは本当に便利ね。ダーちゃんは本当にすごいわ。」

 「えっと・・・モールスで僕がここにいるって聞いたんですね?その・・・モールスは僕が作ったんじゃないけど、ナッタジ商会の者として、褒めてくれてありがとうございます、と言わせてもらいます。」

 「んもう。何、余所行きの言葉使ってるのよう。おばちゃん、悲しくなっちゃう。」

 「えっと、その、そんなつもりはなくて。えっと、使ってくれてありがと?」

 「フフ。どういたしまして。おかげで、ここにダーちゃんがいるって分かったけど、なんでも樹海の奥にいたんですって?いったいなにがどうしてそうなったのかしら?」

 キラン、て、目が光った、よね?

 アーチャもね、怒るときに、よく質問から始まるんだ。でね、キラーンて目を光らせる。なんだか、こんなところに親子って出るんだね、なんて、考えてるのは、はい、いつもの現実逃避、です・・・・


 「話せば長くなる、ていうか。」

 「そ。じゃあゆっくり聞きましょうか。」

 「うっ・・・えっと、守秘義務っていうの?その、冒険者っていろいろ内緒があって・・・」


 カラン・・・


 僕がしどろもどろで答えてたら、ウィンミンさんってば、ポッケから魔石を1個取りだしたよ。


 「これは、アーチャの魔力を封じた物よ。これがあれば念話、できるわよね?」

 あらら・・・

 そういえば、ドクとも知り合いで、集落に設置型の魔導具、渡してたよね。

 この人も、僕がベルトの魔法陣で遠話できるの知ってるし、これがあればアーチャと話はできる。もっとも、アーチャが魔導具の近くにいなきゃだめだけど・・・


 「アーチャにモールスで、ダーちゃんと念話ができる状態にするよう言ってるわ。」

 まさか、ここに来る前にそんな段取りまで?

 確かに、ドクが僕と念話するために小型の魔導具を持ってるし、さっきまで使ってた。ドクとアーチャが一緒にいるならもちろん遠話できるだろう。僕の魔力が入った魔石ならあっちにいっぱいあるはずだし、ね。


 それにしても、アーチャとモールスって、多分直通は持ってないはずだから、いくつか経由したんだろう。ってことは、経由地でいろいろやきもきしてそうで、不安です。だって、モールスの方は、魔導具同士がペアになってるから、直接繋がってないなら伝言ゲームよろしく、次々とペアの魔導具を打ち込む必要があるんだ。


 リッテンド集落のモールスってどこと繋がってたっけ?

 たぶん、商会じゃなかったと思うから、どっちかの領事館だよねぇ。

 ちなみに、僕の与えられた領事館は2つ。ミモザとザドヴァーヤってところにあるんだ。

 もともと別の領だったってのもあり、2つとも残したままにしてる。場所的にも離れてて、あると便利だしね。

 うん王子として与えられた領地にある、もともとあったやつをドク達が魔改造してるんだけどね。


 たぶんとっちかの公官=領事館に繋がってるでしょ?で、モールスが入ったら、アーチャのいそうなところへきっと繋げる。

 わかんなかったら、ダンシュタのナッタジ邸。で、そこから、下手したらナッタジ商会経由?それとも直で、ドクの携帯魔導具へ行くかな?ナッタジ邸には魔導具に張り付いてる人、いないし、商会が可能性高い?


 少なくとも、経由したところでは、全部内容が把握されるわけで、内容がどんなのだったか知らないけど、少なくとも、僕が遠話=ウィンミンさん言うところの念話をアーチャにするってことが、なぜかウィンミンさんから伝えられるんだよね。ってどういう状況?ってなるよね?

 誰が目にするかわかんないけど、いろいろあとで説明、求められるんだろうなぁ。

 ドクかアーチャに丸投げできればいいんだけど・・・・



 そんなことをボーっと考えつつ、魔石を見てたら、ツイって、魔石を僕の方へ押してきたよ。


 はぁ。


 断る、のは、あの笑顔を見たら無理そう、だよね。


 僕は、アーチャの魔石をベルトに取り付けて、魔力を流し込んだ。


 『ははは、ちょっと面倒そうだねぇ。僕が直接話すよ。』


 繋がったとたん、アーチャがそんな風に言う。状況はある程度把握してるようで、よかったよ。

 僕は、ウィンミンさんに、僕に触れてって言ったら、なぜか抱っこされました。ま、今更拒否はしないけどね。

 で、僕は、できるだけ気持ちを無にして、アーチャとウィンミンさんの交信を仲介します。ある程度念話できる人って心を読むことができる。特に触れてたらね。で、念話と同じ機能があるこの魔法、アーチャは僕に念話を届けるけど、その届いた念話を心を読むのと同じ方法で聞けるんだ。だから実際には、アーチャと僕、僕とウィンミンさんでそれぞれ念話してるけど、僕が黙って聞くなら、二人で会話するのと同じ状況になります。

 ちなみに念話とか心を読むとかって、能力次第だけど、何でも読めるわけじゃなくて、読まそうと思ったことなら簡単に読めるし、隠す場合は能力差で隠せる内容は異なります。念話はお互いに読むことを前提にしてるから、かなり細かく会話が出来ます。


 僕も参加して、三者通話、なんてのも普通にできるけど、あちらの打ち合わせがどうなのか分かんないから、僕としては完全に仲介機と化すつもり、なんだ。


 てことで・・・・


 『もしもし母さん?アーチャだけど。』

 『時間がないのは分かってます。で、どうしてダーちゃんが一人で樹海の奥にいるのかしら?守秘義務とかなら聞かないけど、その場合、お迎えがあるまでダーちゃんは私が預かるわよ。』

 『はぁ。そう言うと思ったよ。詳しくは言えないけど、ダーは精霊関係で今動いてる。精霊はダーをご指名だ。彼らを敵に回す気なら、セスの好きにしたら良い。』

 『あらま、精霊?そういえば、この辺りに精霊が隠れ家を作ってたわね。そう。そういうことならいいわ。でも、そうね、セスが手伝えることはない?全面的な協力を申し出ます。』

 『分かった。そういうことなら、ダーに従って。ダーもいいね?』

 『うん。』

 『じゃあそういうことで。』

 『あ、ちょっと待って。アーチャ、新しい魔石、寄こしなさいね。それと、ダーちゃんの魔石も貰って良いかしら?』

 『それは、まぁ、いいけど。』

 『そ。じゃあ、あなたもたまにはこっちへいらっしゃいね。』

 『分かりました。』


 魔導具が解除される。


 「さ、話は分かったかしら?で、どうしましょうか?ダーちゃんの指示に従うわよ。」

 「えっと・・・とりあえず、僕がデンマーさんたちと会ったところにもう一度行きたい、って言ったら?」

 「ええ、いいわ。でも、護衛はつけさせて、ね。」

 「別に護衛は・・・」

 「つけさせて、ね。」

 「は、はい。お願いします。」


 にっこり、は怖い、アーチャの教えには従おう、そう、僕の本能が言ってる気が、したよ。

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