第112話 樹海での出会い

ビューン!


ビシューン!


ビヨヨヨヨーン・・・・



 ぶらーんと襟首を咥えられ、空中に浮いた僕。


 目の前の、ビロロロと揺れている棒を見て、背中に冷たい汗が流れたよ。


 揺れる空間を見ながら、土魔法で作った石のつぶてを発射しつつ、遠距離念話をしていた僕は、その棒が飛んでくるのは、一切気付いてなかった。

 グレンに引っ張られなきゃ、って思うと、もう、ゾォーっだね。


 それにしても・・・・



 その棒は矢だ。


 えっとね、こっちの世界でも弓矢はあって、和弓とも洋弓ともちょっと違う、どっちかっていうと、原住民の人とかが持ってるような、木に弦を張っただけのやつが主流です。

 で、特に矢、なんだけどね、矢は羽がついているのももちろんある。

 ただ、羽のついてないのもあって、そうなると棒の先を尖らせただけ、なんてのもある。まぁ、人によって、棒のどこか(人によって先っぽだったり、真ん中だったり、羽をつける部分だったりいろいろだけどね)にスクリュー状のねじりを入れてる。

 こういう棒だけのやつってのは、魔法が得意な人が使うことが多いんだ。風魔法が多いけど、火とか他の魔法を矢に纏わせて威力や魔法を加えるんだって。

 僕は、体力的に弓は向かないから使ってないけどね。あれはしならせるほど威力が増すから、身長が高い人が有利なんだよねぇ。なんせ腕の長さがものをいう。


 まぁ、それはいいや。

 この世界での矢は羽がついていないのも多いって話。

 何でかっていうと、羽は基本的に鳥とかの羽を使う。矢の棒の部分は木が多いけど金属のこともある。つまりは、棒と羽の部分の素材が違うことが多いんだ。

 羽はバランスを取ったりするのには有利だけど、少ないながら空気抵抗があり、まぁ、それをも計算して、威力を出すのに役立つけど、少なくとも魔力を通すには同素材の方が有利だ。素材が違うと魔力を通す流れが変わるから、繊細なコントロールを要求される弓術にとってマイナス要因になるんだって。

 地球の人に説明するなら伝導率が違う物体に電気を流したときに、アウトプットされる電気を同じになる道具を作りましょう、って言ってるようなものって思ってもらったら近いかも。それを手動でやるんだ。ね、大変でしょ?

 それだったら、羽をなしにして、バランスが取れるように腕を上げたり、棒を工夫した方がいい、ということで、多くの魔法を使う人にとって、棒だけの矢、ってのが主流になってるようです。


 それはいいとして・・・・


 今、僕の目の前で木に刺さってボヨンボヨンしてる棒は、矢で間違いない。

 先っぽがちょっとねじった形になってるのは刺さるのに特化してる、のかな?


 「撃つな!子供がいる!!」


 矢が飛んできた方向に、僕を咥えたままグレンが振り返ると、そんな怒鳴り声が聞こえた。

 ひょっとして、僕に気付かず、魔物だと思ってグレンを狙ったんだろうか?

 それにしても、こんな樹海の奥に人が来るなんて、大誤算だよ。


 『どうした?何があったんじゃ!!』

 念話でちょっと焦った感じのドクの声が聞こえた。

 『大丈夫、だと思う。グレンに気付いた人が矢を撃ってきたんだ。僕に気付いて、攻撃は止んでる。・・・て、そろそろ魔石も限界かも。またあとで連絡するよ。』

 『分かった。気をつけるんじゃぞ。』


 ドクとの会話を切った僕は、咥えられたまま、そろそろと近づいて来る人を見る。

 なんとか視認できたのが、3人いや4人だ。うち2人が矢をつがえた弓を引いている。


 「撃たないで!このランセル、ウルフは僕の友達です!!」


 「!」


 僕が大きな声で言うのが聞こえたんだろう、4人はびっくりしたように動きを止めたよ。顔はこっちに向いたままだけど、たぶんお互いに伺ってるような感じ。こんなとこまで来るだけあって、練度の高い兵士たちだなぁ、なんて、思ったりするあたり、僕には余裕があるのかなぁ。


 僕は咥えられたまま手を大きく頭の上に上げて、グレンの鼻筋を掴むと、バク転の要領で身体を回転させて、グレンの首筋に立ったんだ。もしも身体がグレンから離れちゃったら、隙と思われて、グレンを撃たれちゃ叶わないから、できるだけ、グレンにくっついて移動したよ。グレンもそれを分かって、ジッとしてくれてる。

 で、そんな僕らの様子を見て、本当にグレンが僕の友達だと理解したんだろう、一番前にいた人の合図で、構えていた人達も弓を降ろしてくれたんだ。



 僕がホッとしていると、コソコソって向こうで何か話したと思ったら、合図していた男の人が一人、ゆっくりとこちらに歩いてきたよ。

 「君は、君たちはなんだ?なぜこんなところにいる?それに・・・」

 その人は、僕から大人の人2人分、つまりは4メートル弱のところまで近づくと立ち止まって、そう言いながら、ユラユラの空間、僕、そして僕の周りをゆっくりと眺めた。


 そっか。

 この人、見えるんだ。

 ユラユラも、僕の周りでファイティングポーズ?とってる花の妖精3人とグレンの頭に抱きついてるエアのことが・・・・

 『んとね、エアたちの事は見えてないよ。光、ぐらいかなぁ?』

 だって。

 エアが言うには、どうやらせっかくのファイティングポーズ、見えてないってさ。フフフ。


 「なんだ?何がおかしい?」

 あ、思わずエアに反応して笑っちゃったじゃないか。

 怒られちゃったよ。


 「あ、えっと、なんでもないです。話しにくいんで降りても良いですか?グレン・・・このウルフのこと、攻撃しないでくださいね。」

 「ん?分かった。降りてきなさい。」


  僕が了承を受けて、グレンの前へと飛び降りると、どうやら僕が思っていた以上に小さくてビックリしたみたい。失礼しちゃうな。

 なんか、走ってきて、片膝ついて目線合わせてくるし、僕、そこまで子供じゃないんだからね。

 でも物わかりのいい良い子だからね、僕はとっておきの笑顔で小首を傾げておきました。これをするとセリオは「それ、ひきょーだ!」って言うんだ。ピーレには好評なんだけどね。まぁ、猫かぶりには一番定評ある、とっておき、です。


 「ん・・・その。あ、お嬢ちゃん。なんで、こんなとこに一人で・・・」

 とまぁ、お兄さん、しどろもどろだね。

 でもブブー!お嬢ちゃんじゃないし・・・

 クックッと、グレンが笑ってるよ。それ、知らない人から見たら唸ってるようにしかみえないからね。

 ほら、案の定、青い顔で、お兄さんってば、グレンを見上げたよ。


 「ひとりじゃないし、お嬢ちゃんでもないです。お兄さん、セスの人?」

 まぁ、こんなところにいるエルフっぼい男の人だもん、セス、だろうね。ちなみにアーチャってばセスの若者で200歳ぐらいらしいから、この人、見た目、30代半ばだし、本当はおじいちゃん、なんだろうけど、お兄さん、でいいんです。冒険者ギルドでの教育の賜、ってやつ、かな?


 「あ、ああ。セス、がわかるのか?で、君は?」

 「僕は、冒険者・・・見習いだけどね。ダーっていいます。」

 「ダー?ダーっていえば・・・ひょっとしてアレクサンダー・ナッタジ?リッテンドの?そういや、その髪・・・」

 「アハハ。どの、かは分からないけど、そのアレクサンダー・ナッタジです。僕、リッテンドの子になってるの?」

 リッテンドっていうのは、アーチャがいたセスの集落なんだ。

 僕がセスと出会った最初の人達ってのは(ドクは別として、ね)リッテンドの集落の人達だった。セスでも最前線の人達が集まる集落で、そこそこデカいんだよ。


 「いや。ウィンミンたちが連れてきたセスの仲間だと聞いている。こんな小さな子だと思ってなかったから、気付かなかったよ。私はラッパオ集落のデンマーという。それにしても・・・人族、だよな?いくつだい?」

 「はい、人族の10歳です。」

 「10歳?その・・・まぁ、若く、見えるんだな・・・それにしても、噂のダー少年が、こんなに小さな子供とは。少年、とは聞いていたが、せめて成人してると思ってたからなぁ。ハハハ。これはこれは・・・」


 はぁ。この年で若く見える、は、嬉しくないです。

 ていうか、成人前で10歳なんて思ってたより若かった、と言ってると取るべき、なのかなぁ。

 長老会でセスの仲間として僕を受け入れてくれて、それを周知してくれてる、なんて言ってたけど、どんな風に言ってるんだろうね。

 まぁ、今までは、いわゆる「セスの村」って知られている、街道の突き当たりにある村と、アーチャの故郷リッテンド集落以外はまともにセスの集落を訪れてないから、知られてるだけでもビックリ、なんだけどね。


 「まぁ、いい。ダー君。とりあえず話を聞かせてくれないか?ここは危険だから、我々の集落まで一緒に行こう。その、君の友人も一緒でかまわないから。」

 ちらりとグレンを見て言う。

 僕は、グレンと顔を合わせて頷くと、デンマーさんのあとに続いたんだ。

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