第107話 パクサ兄様と一緒に

 ガタンゴトンガタンゴトン・・・

 豪華な馬車とはいえ、結構揺れる。

 やっぱり、ゴムタイヤは欲しいよなぁ。

 スプリングを使ったサスペンション自体は高価な物とはいえあるんだけどね。

 ちなみに、ひいじいさんとカイザーで昔に作ったらしく、王家には納入してたようで・・・


 この馬車は王家所有の豪華な長距離用馬車。

 うん。

 僕は今この馬車で揺られている。

 バネだけじゃこのむき出しの地面の震動の吸収はちょとむずかしいよなぁ、なんていう、しょうもないことを考えているのは、まぁ、それなりの理由があった。

 そう、目の前に座る、立派な騎士服のお兄様ことパクサ兄様のせいなんだ。



 僕らが、一応の依頼完了を報告をすると決めた翌日。

 僕らは、領都へと移動したんだ。

 で、そこでは当然ご領主たるガリザム・フォノペート辺境伯がいるし、その右腕たるディルのパパのフィノーラ子爵やら、マッケンガー先生たちの父テッセン子爵やらもいて、南部を出立いするという僕たちのお別れ会みたいな感じで、ちょっとしたパーティーも開かれることになったんだ。


 パーティーにはパクサ兄様も呼ばれ、僕らが報告のために王都へ帰る、と言っちゃったんだけど、兄様はまださらなる協力を仰いでくるし、しかも、僕らが王都に戻るなら、自分も陛下へ報告に行く、なんて言いだすんだもん。

 僕としては、一刻も早く、ママのいる王都へ戻りたい。

 てことで、3日後には、王都へ出発する、ってことになったんだけどね、その3日の間に、どうやってか、部下とか辺境伯とかに仕事を引き継いで、中間報告を行うという名目で、一緒について来ちゃったんだ。


 一応名目はね、救出した人達を手厚く看護するために王都へ移送しなきゃならないけど、それならば医療に優れたモーリス先生に同行して貰うのがベターだ、ってこと、らしい。

 実際、ロンダーさんウィンザムさんレイハーさん、といった直接の被害者と、その世話役をさせられたリリーさんそしてその双子のサリーさんも同行してる。



 「今のところは、バルボイ領の問題がほとんどなんだよ。もちろん、誘拐や殺人としての嫌疑は別だし、実際殺された生徒もたくさんいる。この殺人については、王都で捜査権は持つけどね。ただ、それがテッセン家として罰するのか、実行犯のみを罰するのか、それともテッセン家の次代たちも罰するのか、正直難しいところではある。まぁ、最低実行犯は王都に引き渡されるだろうが、その上となると、辺境伯に丸投げにするしかないと思う。」


 あんまり聞きたくないその後のことを、兄様は僕に話してくるよ。



 当代のテッセン子爵は、辺境伯の弟で、内政をほとんどやっているらしい。この人が失脚しちゃうと、バルボイ領自体がいろいろと逼迫しちゃうかもしれないんだって。

 それに、これはゴーダンたちも言ってたけど、テッセン子爵本人は、少なくとも、生徒達を誘拐して、ゲンヘで複製してる、なんてこと、知らなかったみたい。

 おそらく主犯はその長男のレージラム、なんだろうね。


 当主であるジラドム・テッセン子爵は、もともと武人というよりは根っからの文人で、武の領であるバルボイにおいて、文官をすることに誇りを持っているような人なんだそう。

 だいたい、兄である辺境伯は、金勘定なんて頭になく、強い魔物を退けて、いや違うな、見知らぬ魔物と戦うこと自体が楽しいって人。悪い人じゃないけど、言葉の裏を考えたり、駆け引きをしたり、というのは苦手、というかできなさそうな感じらしい。

 でも、そんな兄が大好きでそのままでいて欲しい、と、政治的なこととか経済的なこととか、そんなことは、一切合切、弟であるジラドム・テッセン子爵が引き受けてきたんだそう。

 ジラドムさんは三男で、従姉妹であるレーミヤさんと結婚してテッセン家に入った。けど、次男ライザムさんは、結婚をせずに、戦いの場で辺境伯の右腕として辣腕を振るっている。

 どうやら戦いの場での実質の采配をとるのはライザムさん、らしい。

 そしてもう一人、ディルのお父さんがライザムさんと共に、腹心として、辺境伯を守る、という構図。

 うん。

 ここの、政治経済を回しているのはテッセン子爵に他ならない。

 子爵が失脚しちゃうと、それはもういろいろ、いろいろ大変なことに・・・



 長い道中、そんなことをいろいろ聞かされちゃいました。


 こういうお話しは宵の明星でも話題になってたから、ある程度は知ってたけどね。

 プラスとして、ジラドムさんは好きでやってる内政だけど、その子供たちはそれをよしとしていないから、こんなことになっちゃったんだ、ってことまで話してました。



 僕は、一緒に王都へ行く、という兄様の命令で、ここ、兄様の馬車で揺られてます。

 もちろん僕たち2人だけってわけじゃなくて、兄様の近衛に僕の近衛も一緒。

 そう、ミランダとラッセイも一緒なんだけどね。


 たぶん、兄様は僕に話しているようでいて、ミランダたちに話しているんだって思う。

 この二人はもともと貴族の家に生まれたからね。

 特にミランダは、この国でもそれなりの有名な貴族家のご令嬢だった、らしいし。あ、ラッセイは外国から来たんだ。でも、それなりのおうちのお坊ちゃんだったらしい。


 でね、どうやらミランダのおうちは、辺境伯ともそれなりに親しいんだそうです。

 ミランダ自身は知らなかったようだけど、パクサ兄様のお話で、バルボイ領の今後を相談しないとな、的な話の中に、ミランダの実家の名前を織り込んでたよ。

 まぁ、ミランダは聞こえないふりをしてるけど、本当はミランダから一言親に口添えして欲しいんだろうなぁ。

 でも、ミランダは実家とお付き合いがないからね。無駄だよ?

 それに僕からミランダへお願い、なんてのもやんないからね?

 男尊女卑のひどい実家が嫌で飛び出したミランダに、そんな役目、やらせられるわけないじゃん。


 パクサ兄様の今回の事件の考察とか、まぁ、いろんな思惑もありそうな話題に生返事をしつつ、早くついてくれないかなぁ、って僕はげんなりしていたんだ。


 

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