第106話 さて、帰ろうか?

 「今回のことでゲンヘの養殖、被害者の確保、加害者の確定、は、なったわけだが・・・」

 ゴーダンは言う。



 もともと僕ら宵の明星は、王都の国王が理事長を務める、まぁ、人々の認識から言えば王立養成校群、の行方不明事件の真相を探り、できれば解決、という依頼を受けて、養成校に個々潜入するとともに、調査団と協力介入していたわけだけど・・・

 その真相、ていうか、多分ほぼ真相かな、と思われる、ニョンチョ・ゲンヘのコンボを使った生徒誘拐からの利用、っていうルートにたどり着いて、その実行犯であるファーラー男爵たちの確保もしたし、大量のゲンヘも見つけた。

 尋問中ではあるけど、そこからさらに指示をした人たちへとたどり着くのも時間の問題、ってことになるだろう。

 そんな風なことを、ゴーダンは言って、共通の認識を持ったんだけどね。


 「まぁ、実行犯はともかく、ここからは、領や国の問題だ。俺たちの出る幕じゃねえ。てことで、この報告をすれば、お役御免ってわけだ。」

 ゴーダンは、みんなの顔を見渡す。



 そうだよね。

 今までの感じから、たぶんマッケンガー先生とか、その長兄のレージラム辺りが、その指示役だろうって思うし、そこまでメスを入れられるかは、調査団の頑張りと、上の人達の政治的な諸々、が絡むんだろうって思う。

 いっても、テッセン家っていえばこの領では中心の家。領主とも深い間柄。なんたって、領主である辺境伯の弟は従姉妹であるレーミヤさんと結婚してテッセン家を継いだ形なんだもんね。

 やらかしたのが、その時期当主と名高いレージラム、となれば、いろいろ面倒なことになりそうです。



 でもさ、ゲンヘを使って兵隊を創り出したのはそうなんだろうけど、使い方によっちゃ、やばいよね。今のところ南部の魔物討伐に使おうとした、って言い訳できるだろうけど、これを領主や王家なんてところに向けるとしたら・・・なんて怖いことにも発展しないでもない。てか、本当はその辺りが狙いだろう、って、なんとなくニュアンスで分かっちゃったよ。


 ただし・・・


 僕らができるのはここまで。

 あとは、政治家さん達のお仕事です。


 てことで・・・


 「まぁ、もうちょっと、領都の方で足止めくらいそうだが、そのあとは、王都に戻るぞ。」

 と、ゴーダン。

 「え?王都?」

 僕はびっくりしたよ。

 だってさ、王都よりトレネーに帰る方が近いし、早くおうちに帰りたいよ。

 報告なんて、ギルド通せばトレネーでも問題ないし、指命依頼だから依頼人にも、っていうとしても、パクサ兄様で充分なはずなんだ。


 「少なくとも、ドク、モーリス先生、ラッセイは、臨時とはいえ教師だし、残務あるぞ。お前も一応はまだ生徒だしな。」

 「ドクはそもそも、ずっと席置いてるでしょ?それに養成校はいつでも辞めていいはずじゃん。」

 「いや。ダーは、しばらく生徒やるぞ。」

 「え?やだよ。」

 「やだ、と言ってもなぁ。保護者がそう言ってるしなぁ。」

 「えー。僕、別に王族ったって、義務はないってことだよねぇ?いくらお父様達の言葉だって、従う必要、ないよね?」

 「違う、違う、そっちじゃねえよ。ミミたちが望んでるんだ。」

 「えー・・・」

 って、ママが養成校へ通えって言ってるって事?「たち」ってことはヨシュアも、ってこと?

 うーん。

 ママの望みはできるだけ叶えたい。でもこれがヨシュアが言ってるんだったら、僕としては、断りたいって思うんだよね。だってさ、実技は正直退屈レベル。そりゃ戦術とか言われれば、僕にも学ぶことはあるかもだけど、そもそも軍を率いる予定なんてないしさ。座学は・・・まぁ、歴史とかはちょっと面白いかな、と思うけど、政治とか礼儀とか、そういうのはもう勘弁、なんだよなぁ。


 「言っとくが、ミミの希望だからな。ヨシュアは別に学校で学ばなくても、と言ってたようだが、ミミは学校でいっぱい学んで、いっぱい友達を作って欲しい、って言ってるようだぞ。」

 うーーーーーー。

 ママが言うなら、もうちょっと頑張る?

 でもね、ママが言うような年の近い友達、なんて、できる環境でもないんだけどなぁ・・・


 「まぁ、あんまりなら辞めても良いが、ちょっとぐらい仕事抜きで楽しんでこい。いろんな若いヤツらの考え方に触れるのも、そのうち良かったってことになるさ。」

 確かに、みんな年上といっても、成人前の人も多いし、いままで僕の人生で考えても、随分年の近い人達だらけだ。今までの出会いは、ゴーダンとかせいぜいがラッセイ達の年齢ばっかりが多かったし、若くても、ちょっと特殊な環境で育った人ばかりだった環境を考えると、割とこの世界の普通の若者、っていうのと仲良くなれる貴重な場所、なのかもしれない。

 はぁ。

 そうでも思わなきゃ、行く気力は出てこないけどね。

 でも、僕の学校通いは、みんなにとっても規定事項みたいで、当然だ、みたいな視線がすごいよ。

 仕方がない。

 本当はトレネーへ帰って、ママとかといろいろ話したかったんだけど・・・


 「それにな、ダー。ミミも今頃王都に着くかどうかってとこだと思うぞ。」

 へ?

 それを早く言ってよ。


 ゴーダンいわく、今度の仕事絡みでトレネーに戻ってたから、弟のレーゼは安全を取って、アンナとリッチアーダでお留守番、だったんだ。で、ある程度目処がついたこととか、他にもなんか用ができたようで、ママは王都に向かったらしい。

 てことは、王都に行けば、ママに会える。弟のレーゼもまだ王都だ。

 新パパのヨシュアはトレネーでお仕事らしいけど、家族みんなで一緒にいられるなら、ママにお話しを聞いてもらえるなら、もちろん王都行きは大歓迎です。


 「ったく、いつまでもママ、ママだな。そろそろ乳離れした方がいいぞ。」

 失敬な。

 僕は、ママを守るナイトなんだから、ママを気にかけて当然、なんだよ。

 それに・・・・


 ママには愛する人との間に産まれた可愛い可愛い子供がいるんだ。

 僕は二人を守るナイト。

 それでいいし、それが僕の生きる道。


 ?


 僕の身体がフワッと浮く。

 なんかおっさん臭も強い、むせるようなでっかい胸にがっつりと抱かれているよ。

 ったく、誰が乳離れできないだよ。おっさんこそ、子離れできなさすぎ。

 すぐに僕をがっしりとした腕で抱え込み、無駄に強い力で自分の胸に押しつけるから、ほんと、息がしづらいよ。


 そのでっかい手のひらが僕の頭を包んでいつもみたいに乱暴に撫でる。


 「あのな。ミミに間違っても今みたいな顔を見せるんじゃねえぞ。いいか。ミミはお前を愛している。レーゼに負けないぐらい愛してる。誰の子、じゃねぇ。自分の子だ。お前のことがミミは死ぬほど好きなんだ。遠慮せず甘えてやれ。レーゼの前で遠慮なんかしたら、傷つくのはミミだ。それを忘れるんじゃねぇ。」


 ゴーダン、力が強すぎるよ。強すぎて、なんだか胸がいっぱいだ・・・

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