第105話 僕のお話?
勝手に、しかも一人で随分動いたし、みんな怒ってるよなぁ。
でもさ、移動は精霊たちのせいだし、向こうに行ったら大事なパッデがピンチだし、なんだったら内緒の村であるはずのパッデ村もピンチだし、精霊様だって・・・
僕としては、自分の行動がみんなに心配をかけて申し訳ないって気持ちはいっぱいあるけど、だからって、やったことに後悔はないんだよね。
潔く黙って怒られるのか、自分の気持ちを主張するか、それが問題だ、なんてね。
なんとなく、微妙な沈黙でバンミ達を待つ間、そんな風に、ドキドキと考えていたんだけどね。
はぁ。
僕、まだまだみんなのことが分かっていなかったようです。
「じゃあ、二人が帰ってきたことだし、って、ダー、何をそんな青い顔してるんだ?葬式じゃあるまいし、しゃんとしろ?」
バフマのお茶が配られて、なんとなく緊張していたら、ゴーダンがそんな風に言ったよ。
「いや、別に僕は・・・」
「ん?なんだお前さん、怒られると思ってんのか?」
「え?それはまぁ、その・・・」
「なんだ?怒られるようなことしたのか?」
「それはその・・・えっと・・・」
「ふん。じゃあ言い方を変えようか。お前さん、ダーは、何か悪さをしたのか?違うな。俺たちに言えんような悪いことをやった自覚があるのか?」
「ううん。それはしてない、と思う。心配はかけたと思うし、一人で無茶をしたかもしれない。けど、言えないようなことはしてない。」
「ならいいさ。お前さんが精霊のいたずらにあったのは分かってる。見てたしな。妖精だ精霊だってのは、まぁそんなもんさ。人間の都合なんか関係なく動くもんだと相場が決まってる。まだお前の関係者はまともな方だ。それにとやかくいうつもりはねえ。博士や先生なんかは、仕組みが気になってるみたいだが、それは後で存分にやってくれ。それと、向こうであったことは大体把握している。パッデに聞き込みは済んでるからな。あとは、まぁ、貴族、じゃなかったか、あっちじゃ元老だか評議員だか言うんだったな。まぁ、そのあたりとのことは残るが、それはこっちでどうにかする。お前さんには、補足で聞く程度だ。ガキの出る幕はねえよ。」
えっと・・・
てことは怒ってないってこと?
そう思って、みんなを見回すと、生暖かい目で見てるような・・・
そういやこの世界では「精霊のいたずら」「妖精のいたずら」っていう言い回しがあって、よくわかんないことの喩えみたいな、仕方がないこととか、巻き込まれ、とか、あとは日本的な言い方をすれば「狐につままれる」的なことを含む言葉だ。
それぐらい、妖精やら精霊に絡まれたら、なるようにしかなんないよ、って思われているみたい。
僕の感覚では、妖精も精霊も親切で優しい、好奇心いっぱいの子たちって感じなんだけどね。
まぁ、ほっとしたことに、パッデ関連については、僕はおとがめなしってことみたいです。よかったね。
「まぁ、商船団のやつらには気の毒だったとは思うが、そのへんはミミやヨシュアがフォローするだろうさ。特にメンダンなんかはヨシュアと仲が良いし、な。」
うん、そんなこと言ってたかも。
「どっちにしろ、商会や国、政治家なんかのことは、任せておけ。お前さんが王子と知っていろいろやらかしたり接触したんだ、むしろやりやすいさ。」
「うん。」
「ん?まだ何かあるのか?」
「いや、僕の報告を聞くって・・・」
「ああ、それか。それはさっきの話にも関係あるんだが、お前さんの移動方法についてだ。」
「移動方法?」
「ああ。どうやって一瞬でナスカッテ国へ行ったか。それは再現可能か。俺たちも含めて、だな。」
「ああそれね。」
正直、うまく説明できないんだけどね。
モーリス先生は、もともと理系な地球人だったから、なんとなく分かってくれそうなんだけど・・・
えっとね、エアがいるところってこの次元と重なる次元で、次元どうし近ければ接触できる、っていう説明は、前々からしてるんだよね。
ただ次元、という感覚はあんまりよく分かってくれないんだ。
モーリス先生を除いて、ってことだけど。
「つまりなにかい?ダー君のいう精霊さんの空間とか次元、というのは、この三次元に干渉するように存在している、しかも各々独立する次元だっていうのかな?それがダー君の魔力を媒介に接触できる、と?」
そう、それ。さすがモーリス先生。
「確かに我々三次元の世界に位置する生命体は、四次元・五次元を完全に理解することは難しいね。理屈で言えば、線が一次元、面が二次元、立体が三次元、と考えるならばなんらかの空間やひょっとしたら時間が四次元のベクトルを持っている、と推測はできるんだけどね。まぁ、その空間が我々では認知不可能なベクトル座標だとして・・・」
モーリス先生は、紙に点を2カ所描いたよ。
「2次元生命体がいたとして、この点から点に瞬間移動は不可能だ。けどね、僕ら三次元生命体だと・・・」
そう言いながら紙を折って点と点を重ねたんだ。
「ほら一瞬にして重なる地点とできる。不思議でも何でもない。これが僕らの次元よりも高次元で起こるとして、空間がこの立体移動とすると、まぁ、理屈は理解出来る。」
ね。なんて言ってモーリス先生は見せているけど、ハハハ、みんなよくわかんない、なんて顔してるよ。
でも、さすがモーリス先生だ。
僕はなんとなくそういうものかって、理解出来た。っていうか、理解することで、移動できることにちょっぴり安心したよ。
「なんか、懐かしいのう。それとまったく同じ事をエッセルが言っておったよ。理屈では出来そうなんだけど、と、リュックの中に潜り込んでたもんじゃ。」
ドクが言った。
モーリス先生は大きく頷いてるよ。
どうやら、この理屈はSF的な理論としてそれなりに有名なものなんだそうです。
「まぁいいさ。で、理屈的には精霊の空間同士をくっつけて移動ができる、ってんだな?」
「うん。でもリュックは僕じゃなきゃダメかも。ほら僕以外が入ったら死んじゃうから・・・」
「たしか宇宙空間に似せてある、と言ってたね。」
とモーリス先生。
「うん。おかげで保管も真空で絶対零度近くでできるから、便利なんだけどね。」
「ファンタジー定番のマジックバック、だね。」
「そう。あ、それで思い出した。みんなのマジックバック、作ろう!」
「どういうこと?」
みんなが訝しげな顔をしたよ。
だから、どうやらリュックの精こと宙さんの力で、複数の出入り口を作成できる、って説明したよ。ただし、一つの出入り口には一つの魔力を登録し、その人だけが出せる。ううん。正確には僕とその人、だけどね。ちなみにリュックと一緒で入れるのは誰でも出来るんだ。
ある出入り口から入れた物は、その出入り口からのみ出すことができる。これも僕以外。
僕は、あらゆる出入り口からあらゆるものを取り出せるようです。
「魔力をキーとして貸倉庫を持ってる、みたいなもんかな?で、ダー君の魔力がマスターキーってところか?」
と、モーリス先生。
確かにそんな感じかもね。
倉庫の管理人は宙さん。整理整頓も上手だし、欲しいものはすぐに出してくれるすごい人(?)僕の魔力をめちゃくちゃ持っていくのが玉に瑕、だけどね。
て、感じで、いつの間にか、みんなのマジックバックの話になっちゃったんだけど、どうやら本題はこれからのようでした。
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