第104話 救出劇のお話し

 男爵の姪の従姉妹で行き場のない双子だったリリー&サリーさん。

 とくに、おつむに問題があったリリーさんは、なんていうか、命令されたことは愚直にできるんだそう。


 えっとね、魔力の通り道、ってあるでしょ。

 これを通すには、基本的にはイメージの力が必要なんです。

 でもね、リリーさんにはイメージをするだけのおつむがないんだって。

 だから魔力の通り道は通せないんだ。

 だけど無理矢理通そうとはしたみたい。で、通り道は壊れちゃって、魔力が使用できない状態になっちゃったんだそうです。


 そもそも、魔力量もきわめて少ないみたい。双子のサリーさんはまぁ普通にそれなりの魔力量を誇っている。

 双子でそっくり。違うのは髪の色だけ、ってことだったみたい。

 この世界の不思議で、魔力量や質は髪に反映されちゃう。

 リリーさんは、金髪の人が年老いて白髪になった感じの、ほぼほぼ白だけどよく見れば黄色。サリーさんは薄い赤茶。ラッセイが砂を浴びちゃった時と似てるかな?ぐらいの赤です。


 えっとね、サリーさんはもうすぐ成人、らしいです。

 で、2年ちょっと前に、男爵のお屋敷に来たんだって。

 で、その半年後ぐらいに、リリーさんには、時折特別任務が与えられていたらしい。

 これは、でも、その時サリーさん知らなかったんだって。

 まだ特別任務といっても、お世話係っていうより、回収係だったそう。



 えっとね、ゲンヘは血と魔力を吸って、その吸ったものに化けます。

 知識とか能力もコピーしちゃう。

 で、吸われた人はひからびちゃって、最終は死ぬ怖れも。

 まぁ、1匹程度なら死ぬまで吸われないけど、複数だと本当に危険。


 男爵家では倉庫に大量のゲンヘを飼ってます。

 そこに被害者の少年達は放り込まれるんだ。

 そして、ヤバイ干からびて死んじゃいそう、な直前まで放置され、その後回収されます。

 その回収だけど、魔力の通り道が壊れて、ゲンヘにとってエサにならない人が、大量のゲンヘの中から、被害者達を回収=運び出す。普通の人だと、ゲンヘにたかられちゃうからね。

 その要員として、リリーさんが魔力の通り道が壊れてることを知っていたシシリーさんに目が付けられたみたいなんだ。

 シシリーさん本人は、単に男爵から、「魔力の通り道が壊れてるやつを連れてくれば、お金をやる」といわれて、双子を思いついたみたいだけどね。

 だから何をやってるかは知らないと思う、ってサリーさん言ってました。てか、サリーさんもリリーさんがどうなってるのかを知ったのって、今回初めてだったみたいです。



 僕がお留守の間に、この被害者を倉庫へと放り込むって日があったみたい。

 干からびちゃった人達は、薬やらいろんなノウハウである程度戻して、その後また倉庫へ、なんていう、非道なループを行っていたことは掴んでたんだけど、その後もちゃんと監視して、倉庫へ入れられる直前に、うちの人達、と、グレンが、突入したんだそう。うん、これは計画通りだね。


 一応、倉庫に放り込まれるぐらいには、肉体的魔力的にはそれなりに元気になってたけど、当然、精神には異常を来していた4人は、丁寧に救出したようです。

 リリーさん以外の3人は、やはり養成校の捕まえられた人たちで、魔導師養成校のロンダーさんとウィンザムさん、そして剣使養成校のレイハーさんって分かったそう。

 この救出劇のときに、男爵は捕らえ、倉庫に入れる日だということで、化けたゲンヘを連れて行くべく集まっていた数名の男女たちも、同様に確保、もしくは、殺しちゃったみたいです。


 大捕物でもあるし、遠征から戻ったサイザムさんジュートローさんといった辺境伯の息子達も参加したんだって。


 えっとね、あとでこっそり教えて貰ったんだけど、グレンのお父さんを殺されたときにいた人達は、みんなお亡くなりになったみたい。原因はグレン、だそう、だけどね、ハァ。


 そんな感じで、グレン的にも問題解決。あとはいくらでもお手伝いするよ、って感じのようで、捕り物の時の凶悪な魔物の姿は、みんな、なかったことに、って、ご領主の息子さん達からお言葉があったそうです。



 それにしても、今回は未遂で救出したとはいえ、今正にゲンヘの群れの中へと放り込もうとしていた現行犯です。

 領としても、随分焦ったみたい。

 しかも、これが、王家から依頼を受けた宵の明星の調査で分かったってことなんだから、当然、領としてはまずい、ってなるよね。

 さらには、うちの人達、王都に、突入計画の報告も上げてたみたいだし・・・


 まぁ、突入自体には間に合わなかったんだけど、パクサ兄様、急いでやってきたみたい。その案内役としてナハトをつれて来たんだそうです。なんでナハトがいるのかって疑問だったけど、いつの間にか兄様達と仲良くなっていたみたい。先に王都へ帰したのは拙かったかなぁ。


 とりあえずは、辺境伯自らこの問題にとりかかるとのことで、救出された4人は丁寧に領都で治療を受けてるらしい。

 逆に捕らえられた人は、領の威信をかけて尋問中。

 パクサ兄様が来てからは、もちろん調査団も尋問に加わっていて・・・


 そんな中、僕がいない、ってことでパクサ兄様が大騒ぎしだしたらしい。

 それが一昨日のこと。

 で、宿でウロウロしだしたパクサ兄様たちの目を逃れるためにどうしようって話し合っていたら、宙さんが気付いて、森の精霊経由で戻るようにって話になったみたいです。うん。この時点で僕に報告できたよね?


 まぁそういうことで、パクサ兄様を納得させる言い訳として、突入のときお留守番を言われた僕が、グレンと一緒に飛び出してっちゃった、ってなったみたい。

 ちなみにグレンが、自分から僕のお迎えを言い出したらしいけどね、それにみんな乗っかって話を作ったんだそうです。


 おかげで、無駄に兄様に叱られちゃったんだけどね、それのフォローもグレン、だから怒るに怒れないよ。


 だってね・・・


 森の精霊に魔力を注いで寝ちゃった僕。そのとき、ダンジョンコアの中に寝かされた2人の遺体をポシェットに入れてくれたのは、グレンだった。

 この二人がどうやってコアのところに来たかは、魔力を注いでいるときに、森の精霊が僕の中にイメージを入れてきたから知ってたけどね、連れて帰ってやって、って言われた時は僕が自分が起きてたかはよくわかんない。

 でも、この人達を渡せばパクサ兄様が僕を褒めてくれる、一人でいなくなったからって怒られない、なんて、グレンは思ってたみたいで、しかも、ポシェットの隠蔽のために、遺体を自分の背に隠すよう指示したようです。

 うん。賢いんだ。

 グレンはとっても賢い。


 ただね。

 今のところ、ゲンヘ関連の僕への報告は終了した。

 後は、こっちの報告だよ、って、そろそろみんなの目が険呑です。



 あ、サリーさんだけど、実は捕らえた人の中にいたんだって。

 ただ、犯罪とは関係なさそうだし、何よりリリーさんとそっくりだから、ってことで、リリーさんのところに連れてこられたんだって。


 そのとき、パクサ兄様と、そしてナハトも兄様に従ってたようです。

 ナハトはリリーさんを見てなんとなくどこかで見た気がしてたんだけど、そのときはっきり分かったらしい。

 時折バンミにアタックかけていた女子生徒。

 それがサリーさんだったんだって。

 バンミと一緒にいるのをナハトは何度か見てたみたいで、南部の情報収集中だったことから、付き合って情報を引き出せ、とつついてたようです。

 確かにそんなような話、聞いたことがあったような・・・


 そんな説明を兄様にナハトがしていたところ、バンミにならすべて知ってることを話す、なんて言い出したサリーさん。

 で、連れてきちゃったそうだけど、その道中、事件の話を聞いてリリーさんの置かれている状況を知っちゃったんだって。

 最初は回収係、とはいえ、そのうち、他の仕事も振られ、結局は3人のお世話係として、牢屋の前で暮らすようになったリリーさん。同じように捨て置かれたから、食べたりすることも一人ではできず・・・


 その間、サリーさんは養成校の生徒として、有望そうな子弟を見つけ出し、それをシシリーさんに報告する、という役目を得ていた、とか。

 ただしバンミに関しては、自分の本気だったとかで、任務の合間の癒やし、としてちょっかいかけてきてたらしいです。

 バンミ?

 興味ない、ってそんな・・・ハァ。

 恋愛のことには頭を突っ込みません。それこそ僕は、ですから。 


 ちなみに、療養所でサリーさんが吐いちゃったのは、その3人の中に覚えがあった人がいたからだそう。南部でも役に立ちそうな有望な人、として、報告していた中の1人がいたんだって。

 その後の調査で、サリーさんみたいに報告させられていた人は何人もいた、とのことが分かりました。

 一人報告ごとに報奨金が出てたようです。

 そのことと行方不明者のことを、本人達は結びつけて考えたことがなかったようだけどね。



 サリーさんを、バンミとナハトが、領兵さんのもとへと送り届けます。

 帰ってきてから、と、僕の報告は棚上げ中。

 今、部屋は、身内だけって感じだね。

 うん。なんか、緊張してきたなぁ・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る