第102話 宿での出迎え?
門番さんに先導されて、僕は宿へと到着しました。
みんなで迎えてくれて、その笑顔に嬉しくなります。
さあ感動の再会シーン、いざ、みんなのところへ、そう思って、グレンから飛び降りようとしたその時。
『待て、ダーよ。精霊より預かりし、あれらを我が背へと置いていけ。』
大音量の念話がグレンからやってきて、ビクッてなったよ。
え?でも、預かったあれは・・・
そう。
僕は、あのダンジョンコアのところで、とあるもの、というのもなんだけど、精霊様より持っていくよう言われて、ポシェットへ入れて連れてきたんです。
でも・・・
『早う!』
グレンが再び言います。
でも、ちょっとためらわれるんだけど・・・・
そう躊躇してると、宿の奥からなにやら騒がしげな様子が・・・・
へ?
なんで?
「・・・パクサ兄様・・・」
宿の奥から見知った顔が。
だからなの?
僕がちょっぴり呆けていたことに苛立ったのか、またまたグレンがせっつきます。
僕は慌てて、グレンの言うとおり、預かっていた方々をグレンの背にそっと置きました。
下からだったら、僕が何したかは多分わかんないもんね。
リュックのことすら兄様たちには言ってないし・・・
て、ひょっとして、グレンが迎えに来たのもそういうこと?
僕がごそごそしているのを見て、隠すのもあるんだろうけど、ラッセイが僕を抱き上げて降ろしてくれたよ。チラッと、僕がグレンの毛の中に隠したものを見て、一瞬眉をしかめたけど、地面に降りたときには、いつもどおり。
そして、パクサ兄様の前で、僕を降ろして、臣下の礼を取ったんだ。
「ラッセイ殿、大儀です。しかし、本当に赤いランセルを使役しているのですね。驚きました。」
「使役ではありません。友人です。」
僕は、ちゃんと否定したよ。
僕らは対等な友人だ。
「ああ、そうだったね。アレクの友達だ。私も挨拶をしても?」
「う、うん。」
パクサ兄様が近づいて、グレンの鼻筋を撫でる。
グレンも大人しくされるがまま、じっとしているよ。
その間、僕はラッセイと一緒に出迎えてくれたみんなのところに。
ちなみに兄様は、騎士の恰好。
そして、同じく騎士の恰好をした人達が宿の中にたくさんいたんだ。
これ、どういうこと?
「依頼の主は王家じゃしの。事が事だけに報告を入れておる。殿下はこちらで指揮を取るために調査隊共々早駆けしておいでなすったのじゃ。アレクよ。おまえさんの調査行きとすれ違わなんだかのう?グレンと二人で、ランセルが襲われた場所へと調査に行っておったろう?」
ドクが、意味深な言い方で、そんな風に声をかけてきたよ。
ふうん、そういう筋書き、ね。
さすがに、僕が一人、異界を通ってナスカッテ国へ行っていたなんて、言えないもんね。
僕の不在を、一人で調査に行った、ってことでごまかしてたってことかな?
「そうなんだってね?アレク。だめじゃないか。勝手に飛び出したりして!危ないから突入の時はお留守番って言われたんだろう?それなのに、だったらランセルが襲われたところに調査に行く、って、飛び出したんだって?」
「へ?」
どういうこと?
なんか、うちのメンバーは僕を見てニヤニヤ。
パクサ兄様は、ちょっぴり怖い顔でお説教モードです。
えっと・・・・
確かに突入の時はもともと僕はいかないことになってたし、そういう意味ではお留守番、だったよ。だけど、その前にパッデのトラブルが入ってきて、僕はあっちに行ったんだ。でも、それが、僕がランセルの巣へと勝手に向かった、ってことになってるみたい。
兄様は、危ないのに、とか、王子としての心構えが、とか、いろいろうるさく言ってるよ。まるでプジョー兄様顔負けでお説教してくる。
けどさ、心当たりはないこと、っていうか、まぁ、不在をごまかすストーリーなんだろうけど、わざわざ僕が勝手に飛び出した、なんてことにする必要ある?ゴーダンの命令で調査に行った、でよくない?
僕は憮然として、みんなのことをちょっぴり睨み付けたよ。
だって、心当たりのないこととで怒られるのは心外です。
だいたい、僕と兄様は王族。まわりは下の人ってことで、子供はしっかりその前で叱られるんだ。で、あんまり怒ったことのないパクサ兄様は、プジョー兄様と違って、迫力が脳筋的で、怖いんだよ!まぁ、プジョー兄様は冷静に冷たい目をするから、それはそれで怖いけど・・・・
「聞いてるの?!」
仲間を睨み気味で見ていたら、パチンって両頬を軽く叩くみたいに挟まれ、兄様に顔を向けさせられたよ。
じっと僕を見てる兄様は、怒っていて、それで泣いてるみたい。
あっと・・・
「ごめんなさい。」
その顔を見たら、悪くなくても悪い気になっちゃって、思わず謝っちゃった。
「はぁ。まったくもう。アレクは冒険者かもしれないけど、王子でもあるんだからね。みんなの見本にならなくちゃならないんだよ。心配かけたりしちゃだめだ。みんなの心に寄り添わなきゃ、ね。」
パクサ兄様には言われたくない、と、チラッと思ったけど、お口はチャックです。
「はぁ。で、成果はあったの?調査に行ってたんだろ?」
兄様は立ちあがって、僕の頭を撫でるとそう言ったよ。
ああ、それで、いただいた方々を出せ、って言われたのか。
うん。方々。
「グレン。」
僕が声をかけると、グレンは伏せをして小さくなったよ。
僕はパクサ兄様と、そして仲間たちにも合図をして、グレンの背に乗せてる、預かった遺体を示したんだ。
「!!」
兄様は、一瞬目を開いた。
そして、騎士たちに合図して、その2人の遺体をグレンから降ろさせた。
うん、遺体。
1つはランセルを襲ったときに放置されたものだって。
そして、もう1つは、もっと領都に近いところで偶然に見つけたって言ってた。
両方ともゲンヘに吸われて、命をなくした方のようで・・・
森の精霊は、はじめはコアのエネルギーで命を持たせられるかも、と運んでこさせたようです。二人ともはじめはかろうじて生きていたらしい。
ダンジョンの力、か、コアの力か分かんないけど、ていうか、魔力や血を吸われて干からびてミイラ化しちゃったからかも、だけど、腐ったりせずに、一応人だって分かる感じ。服だってそのまんま、みたいです。
『人の世に戻してやってくれ。これも被害者だ。そして、ランセルと森に災いをもたらした者に制裁を。』
そう言ったのは森の精なのか、ランセルの声だったか・・・
兄様や騎士の人達は、遺体を連れて行くようです。
どうやら、二人とも兄様は顔なじみだった人達みたい。
涙をこらえている、って分かるけど、気丈に指揮をしています。
兄様たちは領都に司令部を構えてる、とかで、いったん遺体を連れて、領都まで戻るらしい。
僕たちの前から慌ただしく消えたけど、最後に一言。
「アレク。今後、勝手な行為は許可しない。宵の明星の諸君。悪いがもう少し手を貸して欲しい。明後日、改めて作戦を立てよう。悪いがゴーダン殿、明後日昼に会議を行う。出席を頼む。」
「了解しました。」
そんな感じの会話をして、ほんと慌ただしく去って行ったよ。
そして・・・
「おかえり、ダー。話は中で。とりあえずゆっくり休みましょう。」
ポカンと、そんな様子を見ていた僕の手を、ミランダは引いて、宿へと連れて行ってくれたよ。
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