第101話 もう一人の精霊様
「ひゃん。いったいここどこだよ~。」
ポシェットを出たらリュックの先、のはず、だったんだけど・・・・
僕はちゃんと宙さんの空間に入って、で宙さんの言うとおりに進んで外に出たはず、だったんだ。
でも僕の目には何も映らない。
ううん。違うか。
なんていうか、重苦しい空気で、なんとなく地下っぽい匂いがする。
たぶん光がなくて、なんにも見えない地下の洞窟、みたいな?
なんでこんなところにリュックを持ってきたんだろう?そう思ってキョロキョロして、見えない視界で足下を探ってみる。
やっぱりゴツゴツしてて、岩場っぽい。
周りに人の気配はしないし、みんなどこにいるんだ?
僕はちょっぴり不安になって、「宙さん。」て呼びかけた。
宙さんの返事はない。
が、代わりに闇の向こうで何か身じろぐ気配がした。
と同時に獣の独特の匂い。
何かいる!!
僕は、剣を腰から抜き、気配のある方向へと身構えた。
ずしりずしりと、近づく大きな獣の足音。
キラン。
2つの玉が上空で輝いた。
あれは目だ。
獣の一対の目だ。
ごくり、と、僕は固唾を飲む。
目の位置がアレだとすると、相当でかいぞ。
てか、ここ、なんだよ。
真っ暗で何も見えない。
リュックもまだ見つけてないけど、ひょっとしてみんなあいつにやられたんじゃないだろうな。
心臓がうるさいくらいにドクドクって言ってる。
息を潜めても、この音がやつに聞こえるんじゃないか、なんて思いが、せり上がってくる。
それにしても、この暗闇ではすっごく不利だ。
そうだ。光!
光があれば僕は見える。ひょっとしたら近くにみんながやられて横たわっているかも知れないし、リュックだって落ちてるかも。
それに・・・
この暗闇でこっちを見てるんだ、急に光が瞬いたら見えなくなるんじゃない?
「ライト!」
僕は自分がまぶしさに目をくらまないように目を瞑って、強い光を呼び出した。
「キャン!」
犬みたいな鳴き声。
効いてる!!
僕は素早く辺りを見渡し、そこがやっぱり洞窟みたいなのを確認する。
目に入る限り、誰も倒れていないし、リュックもない?!
疑問に思いながらも、目が光ってた方を見ると・・・
「へ?グレン?」
そこには、見知った赤いオオカミの姿が。
『ダーよ、突然ひどいではないか。』
え?なんで?なんでグレン?
僕はちょっと混乱する。
しばらく経って・・・
僕はグレンの背に乗って話を聞いていた。
『ここは、我らの巣の奥にある。人間はダンジョン、と言うておったか?』
「ダンジョンだって!」
『うむ。そして精霊の住処だ。』
「へ?」
『そこは私が説明を。』
と、突然話しかけてきたのは宙さん。ていうか、話が出来るなら初めっから教えてよね。
『どっきりはみんな大好き、とマスターが言ってましたが?』
いや、いつの話だよ。TPOを考えてください。
・・・
もしもし。なんでだんまり?
『説明はいるのですか、いらないのですか。』
「・・・・お願いします。」
『了解しました。まずここは、先日争ったランセルの巣であり、小さなダンジョンの奥でもあります。そして、そのダンジョンコアのエネルギーを使うことでかろうじて存在を保っているのが、この地に存在する森の精霊、というわけです。』
宙さんの説明によると・・・
どうも森の精霊はなんとなく存在する、不安定な存在だったらしい。
でも、森を愛し、森に暮らすすべての生き物を慈しむような、そんな存在で、大きな母性のような父性のような、そんな存在だったのだそう。
あるとき、そんな漂うような微々たる存在に強烈な思いがぶつけられた。
それはグレンの父であり、また父を起点とするランセル全体の祈りみたいなものだったらしい。
ちなみに花の精霊である華さんも、似たような産まれ、だった。その祈りはランセルじゃなく、咲き誇る小さな花々の思いだったけどね。
精霊は人間の祈りでも個を確立できるけど、純粋な思いが必要ってことで、人間にのみよるものじゃないんだって。
ここの精霊様は、森に住むすべての命、そしてグレンの仲間の祈りに答えて、具現化したって感じかな?
その本質は守りたいって気持ちみたい。
理不尽に殺された怒りと、それを上回る子供を守りたいって気持ちがコアになって
森の精霊は森の精霊としてはっきりとした自我を持ったんだ。
でも、さすがにそれは弱くって、存在を守るためにたまたま近くにあったダンジョンへと引きつけられた。そしてコアのエネルギーを使うことによってかろうじて存在を保ったんだって。
で、僕とグレンたちと出会い、グレンにはたくさんの魔力を分け与えた。
その時に精霊の眷属みたいな森の妖精たちにも、魔力をあげた。
それによって、精霊様はさらに存在が確立され、間接的に僕の魔力をうっすらと帯びたらしい。
『ということで、私たちとの交流も可能となりました。エアが眷属の妖精と触れ合っていたのはご存じでしょう?』
・・・
まぁ、それは知ってたよ。
グレンと、キラキラの森の精と、よく遊んでたみたいだもん。
そういえば森の精霊の話も、エアから聞かされていたっけ?
静かなおじいちゃん、っていうイメージだったけど・・・
『大変でしたが、マスターの魔力を帯びていたため、なんとか次元を近接することに成功、ここに繋げてマスターを送り届けたのです。』
エッヘン、ていうドヤ顔が見えそうな、そんな雰囲気で言ったけど、いやいや、その必要あった?
直接リュックでいいよかったよね?
『マスターの魔力を与えれば、精霊は力を増し、こことも次元を重ねることが出来ます。』
いやいや。
その当たり前でしょ?みたいな雰囲気を出されても・・・・
『ダー。ダーの魔力を与えるのはイヤか?』
黙って聞いていたグレンが聞いてくる。
なんか諦めた様子が、胸に来るよ。
どうしたの?グレン?
『いや、いい。ダーの好きにすれば良い。詮ないことだ。』
・・・・いやそんな凹んだ様子を見せられても困っちゃうよ。
魔力を分けるぐらいどうってことないし、そんな寂しい顔、しないでよね。
僕は、グレンに森の精霊のところに連れて行って、って言ったんだ。
グレンは嬉しそうに、僕を背に乗せて、どう見ても岩壁、っていうところに進んでいく。
ぶつかる、って思ったけど、スッと結界特有の抵抗がちょっとあっただけで、僕はグレンと共に岩の向こうに入っていた。
そして・・・
目にしたのは小さなダンジョンコア。
そしてその下には・・・・
緑のランセル?
ランセルとしては、まだ小さいグレンよりもさらに小さなそのモスグリーンのオオカミは、ユラユラとゆらめくように存在していた。
うん。なんか蜃気楼みたいだ。
コアの下にうずくまるように寝ているそのランセルは、僕らに視線だけを向けてきた。
老齢すぎて動くのが億劫だ、そんな雰囲気に見える。
華さんや宙さんみたいにどこかの異空間に、その居を構えるでもなく、不安定な姿で揺らいでいる。
「えっと・・・森の精霊様?」
『ああそうじゃ。人の子よ。我を討ちに来たか?』
「え?そんなこと!」
『ホホホ、冗談じゃ。我らの森の子が大人しく背に乗せている子じゃ。善き関係を築いておるようじゃのう。』
「・・・はい。」
『して、ここには?』
「その・・・・精霊様に僕の魔力を・・・」
『ほぉ。そういえばその魔力。子供たちに与えてもろうたものと同じか。妖精たちがべた惚れじゃったが、ほうかほうか。坊が与えてくれたのか。』
「たぶん・・・」
『ホホホ、たぶん、か。ん?坊はすでに精霊と絆を結んでいるようじゃのう。これは珍しい。なるほどのぉ。その仲間に儂も入れてくれるか。ほうかほうか。』
「えっと、いいですか?」
『ほうよほうよ。儂に否やはあるかよ。儂に恵んでくるのか。長生きはするもんじゃのう。』
はっきりとした意志を生じたのは最近だけど、どうやらそのたゆたう存在としては、ずいぶん長いんだ、そんなことを精霊様は言ったよ。
僕は許可を得て、小さなランセルの身体に手を触れて、ゆっくりと魔力を流したんだ。
しばらくして、僕は、グレンの背で揺られていることに気付いた。
どうやらものすごいスピードでグレンは森の中を駆けているみたい。
僕は、精霊に魔力を流すうちに、どうやら気を失っていたみたいです。
魔力欠乏、っていうよりも、なんか疲れが出たみたい。
おかげで、欠乏の症状が出る前に寝ちゃったから、体調に問題なし、ってことだって宙さんが解説してくれたよ。
グレンは駆ける。
なんかね、僕の不在が各所に知られちゃったから、リュックを通って室内に姿を現すより、こっそりと外出してたけど、戻ってきたっていう体で、外から戻った方がいいっていうのが、みんなの結論だったみたい。
本当はリュックをちょっと離れた場所に持っていく予定だったそうだけど、それならって、エアを通じて、ランセルの巣に現れることにしたんだそう。
なんでこれが僕に内緒なのか、まったく分かんないです。
ていうか、エア、教えておいてよ。
グレンは早い。
走って走って走って。
何度かご飯とか休憩のために休んだけど、気付いたら、出発地の町の門。
ワラワラと、門兵さんがグレン、と、僕に気付いて走ってきたよ。
なんか一番偉い人、らしい人が僕を先導して、泊まっていた宿へと送り届けてくれたんだ。
なんか問題児みたいな扱いで、ちょっぴり不満。けど、文句も言えない、複雑な気持ちです。
でも・・・・
しばらくぶりに会うみんなの笑顔は、疲れた僕の大きな癒やしになったようです。
ただいま!!
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