第100話 戻ろう

 無事パッデ村まで戻ってきました。

 はぁ、大変だったよ。

 パッデ、メンダンさん、レーも一緒です。


 僕はパッデとパリミウマムさんのおうちに行って、お互い手打ちにして、特別な書類を貰って、宿に戻ったんだ。


 特別な書類。


 勝手に国に入って良いし、商売もしていいっていうお墨付き。

 それがパリミウマムさんとロッシーシさん、そしてサンチャタさん3名の連名で保証されている証書です。

 どうやら評議員1名でも、入国とか商売の保証ができるんだって。

 なのに3名の連名。

 これはほぼ国からの保証に等しいのだとか。

 いわば国のお墨付きで、入出国と商売をやっていいよってこと。それにともなって、特に入出国の税金はいらない、ってことになるみたい。


 しかも、この証書のすごいところは、商売、も入っていることだね。

 本来は物品によっては関税なんかをかけて、自国での流通を制御するもんなんだ。なのに、今後ナッタジの商品に関税はかけないんだって。

 これはトゼの港を使うなら、僕が持つ証書がなくても保証する、ってことみたい。まぁ、売買したときには税金がかかるんだけどね。それでも自国の商人と同じ税金しかいらない、っていうんだから、どれだけのことか、想像はつく?


 宿に戻って、この証書を見たメンダンさんの顔、面白かったなぁ。ハハハ。

 怒るに怒れないけど怒りたいし褒めたいし、みたいな、とっても複雑な気持ちになるとあんな百面相になるんだ、って初めて知りました。



 まぁ、パッデも無事にこっちに戻ってきたし、トゼにもう用はない。むしろ長居は禁物、ってことで、速攻、パッデ村に戻ることに。

 無事戻って、商船団の団長カッチェーさんたちとも無事合流。

 ここまでは、まぁ、特になにもなく・・・だったんだけどね。



 しっかし、メンダンさん、相当ストレスだったようで、お父さんでもある団長殿にあることないこと・・・嘘です。あることを、まぁ、弾丸トークで話す話す。

 僕がいかに守護を無視したか、いかに言うことをきかないか、って、まぁ、色々・・・

 確かに、ちょっとばかり僕も焦ってて、メンダンさんに迷惑かけた自覚はあるんで、黙って縮こまって話を聞いていたよ。


 「坊ちゃん、ちょっと来て貰っていいですか?」


 そんないたたまれない時間を、救世主な声が破ってくれました。

 どうやら、僕らが無事パッデ村へと戻ったことを本店にモールスで報告してたみたいです。

 で、相手が僕と話したい、と言ってるそうで、僕ってばこれ幸いと、その人について、船へと走ったんだ。

 本店、てことは、ママかな~



 〈速やかにバルボイ領に戻るように。〉


 モールスで言われたのは、そんな言葉でした。

 相手はママじゃなくてパパ。うんヨシュアだったよ。

 どうやら、南部で進展があったようで、僕があまり姿を見せないのはまずいかな、な状況になってるようです。

 そりゃある日、王子が消えたら問題になるか。

 普通に戻るわけにもいかないから、ポシェットからリュックへと移動、だね?

 せっかく久々のパッデだし、ゆっくり船旅、なんて思ってたけど、さすがに無理なようです。

 こっちでの報告はパッデたちに任せて、僕は、とっとと帰ることにしよう、そう思ったんだけどね。


 やっぱり、この移動方法って、かなりやばい、よね?

 僕のことを神様扱いするパッデ村の人に口止め、はできても、やっぱりいろいろ知らせちゃうと、迷惑かけることもある。それは商船団の人も同じだよね。

 て、あっそうだ。パッデのことで忘れてたけど、兵隊さんがパッデ村に来た、ってことは隠れ里がバレたってこと?それと花の精霊様の世界への入り口とか・・・

 あそこは結界的な意味でも隠されているけど、最近はパッデ村の人を中心にいろいろ招いているから、人間たちが入りやすくなってるって言ってた。

 僕は、まず、村長さんのところに行って隠れ里がバレたみたいだけど、どうする?って聞きに行くことにしたよ。


 「心配は無用ですぞ。ここの里はそう簡単に見つかりません。この前のことで精霊様のご加護がいただけるようになりましてな、村人以外が近づくと、妖精たちが化かしてくれることになったんですよ。」

 村長のヒコさんは、そんな風に言って笑ったよ。

 いつの間にそんなに精霊様と仲良くなったんだろう、って思ったら、宙さんが華さんに直接聞けって念話してきたよ。


 僕は、村長さんに、精霊様のところへ行ってから帰ります、と、行き先を曖昧にしてお暇を言い、こっそりパッデを呼び出して、精霊たちの異界を通るワープの話をしてから、その道で帰るから後をよろしくって頼んだんだ。

 さすがにパッデもビックリしてたけどね。

 ただ、こんなにも早く僕が南部からナスカッテに現れたから、何かからくりはあるだろうって覚悟してたそうで、詳しくは次に会ったときに、って送り出してくれたよ。

 気になっても優先順位は僕にしてくれるから、パッデ、大好きです。


 僕は村をちょこっと出て、誰の目にも触れていないってことを確認すると、ポシェットに潜り込んだんだ。


 宙さんに連れて行かれて出たのは華さんの異空間の中でした。


 「パッデ村の皆さんが、私のことを思って祈ってくれるから、存在の力が何倍にも増えました。村に加護を与える、というのは、精霊に宿った力の一つ。これだけ祈りを捧げてもらえれば村の一つぐらい隠すのは簡単ですよ。」

 華さんは、そんな風に言って微笑んだよ。

 祈りは力になる、というのは何度も聞いたけど、想像以上に即物的、っていうか、直接的なものだったんだね。

 とりあえずは、村のみんなが精霊様を大事に思って、愛してくれる間は、村の加護も途切れない、とのことでした。


 しかし・・・・


 華さんが僕に言ったのは、この国の執拗な精霊捜索をしている人たち、のようです。

 魔力が強かったり、使える魔法によっては、精霊のつくった異界への入り口を発見し、強引に入って来ることもできなくはないんだって。

 実際、昔の戦いの時に、人間たちに巨大な力を持つ兵器、みたいな扱いをされて、戦いを拒否し異界に引きこもった精霊が何人も、強引に異界から連れ出され、戦いに繰り出されたんだそう。そのためのノウハウっていうのかな、そういうのもナスカッテ国の重鎮たちは持っているだろうってことです。


 「僕に何かできることはある?魔力をもっと渡したほうがいい?」

 そう聞いたんだけど、華さんは首を振ったんだ。


 「宙さんとお話しをしたんです。宙さんの結界はダー様しか生きることが出来ないんだとか。」

 「うん。なんか宇宙空間みたいになってて、生き物は生きられないんだ。僕は自分の魔力でできた世界だから大丈夫、なんだよね?」

 僕は横にいる宙さんに、聞いたら、満足そうに頷いたよ。


 「そこで、私の結界の入り口と宙さんの結界の入り口を重ねる許可をいただきたいのです。」

 「?許可?」

 「はい。私たちの結界はいずれもダー様の魔力に頼っています。ですから親和性が高く、重ねて存在することが出来ます。」

 うん。だからこそ、僕がこんなワープみたいなことできてるわけだし・・・・


 「マスター。マスターはここが次元が異なる世界である、と理解していますね。正確には並列存在の空間です。マスターの許可さえあれば、マスターの次元と私の次元、そして華さんの次元を同じ場所に重ねることが可能です。」

 「えっと、よくわからないけど、その許可があれば華さんは助かるの?」

 「ええ。」

 「是、です。すなわち、マスターの次元から異界に踏み出した人間は、華さんの異界にいくつもりで私の異界に足をすすめることとなります。」

 「ゲッ。いきなり宇宙空間に放り出されるってこと?」

 「はい。ただし、一度はチャンスを与えます。華さんの異界にも私の異界にも行けるルートです。まずは華さんの異界へと繋げていますが、危害を加える場合、警告を与え、聞かなければ、重なった私の異界へと放り出します。」

 「怖っ。・・・でも、華さん達を守るには必要、なんだよね。」

 「是。」

 「その判断は誰がするの?」

 「基本的には華さんです。私は通常、マスターの側に意識を置いていますので。華さんが必要と思ったときにいつでも次元を重ねられるように設定いたします。」

 「・・・華さんもそれでいい?」

 「はい。」

 「分かった、許可するよ。でもできるだけ現実の次元へと放り出して欲しいなぁ。」

 「ええ、そのつもりです。ですが次元の重なりは一度分かると、強引に突破できます。ですので・・・」

 「うん、分かった。華さんの方が大事。ちゃんとこの世界を、このきれいな場所を守ってください。」


 華さんはにっこり笑ったよ。


 悪さする人が、精霊を兵器だとしか思っていない人が、現れたら、僕はそんな人を守るつもりはないんだ。僕は聖人君子じゃない。大切な人が笑っていられればそれでいい。そしてその大切な人には華さんたちも当然含まれている。


 なぁんて、柄にもないことを思いつつ、でも、できるだけ誰も悲惨な結末を迎えませんように、って祈っちゃいます。誰にたいしてか、は分かんないけどね。


 さてと、では改めて、南部へ戻ろうか。


 「YES,MY MASTER!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る