第99話 それぞれの思惑

 どうやら、僕がグダグダやっちゃってた間に、日を改めてお話ししましょう、ってことになってたみたいです。

 てことで、僕とパッデで、今度はパリミウマム邸へと向かうことになりました。

 徒歩、ではなく、またまたお迎えの豪華馬車がお宿に来ちゃったよ。


 まぁ、ここのお宿の人も僕がどうやらVIPだってのは了解してるみたいです。あと、一応はナッタジ商会の人達が貿易に来た時の定宿にしてるらしくって、メンダンさんなんかは、顔なじみらしい。

 で、そのメンダンさんから、うちの商会の坊ちゃんで、お迎えは学校のお友達だ、って言ってくれてたみたいでね、そりゃ、うちの国へ留学するような子のおうちなら、お金持ちの偉いさんだよね、って納得してくれてるようです。

 殿下、王子呼びは・・・まぁ、ごまかされてくれてるのかもね。

 一応「うちの殿下、王子様だからね、ハハハ。」なんてごまかしてくれたみたいだけど、わざわざお友達のおうちの人がそんな呼び方するはずはないし、まぁ、大人の反応をしてくれてるんだろう、って思います。

 うん、良いお宿ってことだね。

 うちの商会の定宿はこれからも是非、って感じ。これからもお世話になります。



 てことで、お迎えの馬車に乗って、パリミウマム邸へとやってきました。


 すでに、昨日のメンバーであるサンチャタ&ロッシーシさんは来てたよ。てか、僕が遅れて呼ばれたらしい。お国の人だけでお話してたみたいだね。


 サンチャタ・・・さんは・・・まぁ、萎れてました。

 随分搾られたみたいだね。

 そりゃ、自分が産まれる前から評議員としてバリバリやっていたお歴々。スキルも情報量も、まったく話しにならないみたい。


 サンチャタさんにものすっごく謝られたのはもちろんだけど、他の二人からも謝られました。


 この謝るときでもお歴々とひよっこの差は出てたよ。

 だってさ、サンチャタさんは謝ったんだ。

 でもね、他二人はまず、パッデに謝った。それから、僕の家族に迷惑かけてごめん、っていう感じで、僕にも謝ったんだ。あくまでパッデがメイン。僕は動かざるを得なかった労力に対しての謝罪。

 サンチャタ君、こういうところだよ。しっかり勉強した方が良いと思うんだ。

 ん?

 僕も、ちゃんと学習しなくちゃね。うん、分かってます。


 でもどうして、そんな、スキルの低いサンチャタさんが、こんなこと出来たんだろうって不思議だったんだ。けど、蓋を開ければ簡単で、ザドヴァからの帰還者の件、ていうのは、どうやら国としては重要度が低かったらしい。


 あのね、この国はザドヴァやうちの国なんかとは、大陸が分かれているだけじゃなくて、僕ら南の大陸の人ってのは、自分たちより下等な人々、逃げた人々って意識が強く、まぁ、上から目線、なんだよね。

 実際、この大陸の魔物の多さから逃げ出した人々が、海を渡って南の大陸に住み着いた、とされてるし、これは事実らしいんだ。


 てことで、外交官、って前世の記憶がある僕からは、知的で優秀な人のイメージがあるんだけど、少なくともここ北の大陸ナスカッテ国にとっては、閑職の一つ、どっちかっていうと、自分の国以外のことも知識として知るために就く、若い人の勉強用のポジション、らしいです。

 この国はこの国でほぼ完結してるからね。

 重要なのは、この国の中での地位の確立、そして、人類の版図の維持、いやできれば拡大、ってところ、なんだそうです。



 で、サンチャタさん。外交官だから外国での出来事にアンテナを伸ばしています。

 で、ザドヴァの事案でしょ?

 魔力の弱い人種どもが無駄なあがきをしている、ってぐらいにしか最初は思ってなくて、他の評議員とかも、ほぼそんな感じでの無関心に近い感じ、なんだそうです。

 ただね、さすがに海外に目を向けているだけあって、ザドヴァが宵闇の髪の子供を探している、っていうのは知ってたみたい。そのほかにもチラチラと宵闇の髪の子供の噂、は、外国筋から入ってくる。

 どうやら、すごい魔力を持った子らしい、そんな子、自分のものにしたいなぁ、なんて漠然と思ったんだって。


 この国ではね、魔物が強い。

 だからこそ、魔力の強い人は歓迎されるんだ。

 で、評議員っていうのは、どれだけ役に立つ人間を抱えているかで、評価が変わるんだって。

 僕を確保して、しっかり育てれば、ひょっとしたらいっぱい魔物退治させられるんじゃないか、セスみたいにすごいことやってくれるかも、なんて、妄想してたようです。


 あ、この場合のセスっていうのは、昔いた人族の人ことです。

 セスさんっていう人族を隊長とする部隊がいて、魔物が押し寄せるのを防いだんだって。かなり戦線を押しやり、結界まで作って、人類の居場所を守ったんだ。

 今のセスの一族ってのは、この部隊の人達とその子孫で作られていて、このときの結界を保持しつつ、魔物を間引くことに人生を捧げた人たちのことを言うんだって。

 ちなみに、セスさんはこの国では伝説の英雄であり勇者、みたいな扱いなんです。



 僕が、なんだかんだで、あちこちから欲しがられるってのは、セスさんみたいな人がいたからってのもあるんだって。

 この世界、魔力って基本的にはやっぱり長寿の種族が大きかったりする。特にエルフだね。

 ただ、なぜか突然変異的にすごい魔力を持っていて、歴史を変えちゃうような人ってのは、人種に現れることが多いんだって。

 セスさんは、人種なのに、どんなエルフよりもすごい魔法を使い、力持ちの獣人やドワーフと剣を交えたって勝っちゃうような人だったらしいです。創意工夫の人で、カリスマがあって・・・・てまぁ、もう物語の人だから、どこまでが本当か分かんないけど、とにかく英雄は人種から出る、って思われてるんだ。

 エルフたちからしたら獣人と変わらない短命種だけど、で、基本的には馬鹿にしてるみたいだけど、たまに現れる英雄がいるから、人種は表だって差別されることは少ない、みたいだね。


 ちなみにエルフの中では、英雄を発見し育てた人、ていうのは偉人ってされるんだそうです。また、英雄と肩を並べて戦う人もね。

 でね、人種ってのは、他の種族とも子供を作りやすいそうで、英雄を家族に引き入れる、ってのは、大推奨事案、なんだそうです。


 長い人生の中で、人種と生きられるのは、ほんの短い時間だそう。でも、彼らには生き急ぐような人種の人生を見るのは、とても素敵なことらしく、刺激的、なんだって。


 そんなこともあって、この国の偉い人は、魔力の多い人種は、見つけたら保護して、自分の影響下に置きたいようなんです。


 そんな事情もあって、どうやら帰還者たちの救出に関係しているらしいのが、噂の宵闇の髪の子供ではないか、ひょっとして自分に運が向いてきたんじゃないか、ってサンチャタさんってば、思ったみたい。

 子供を育て、あわよくば英雄に、ダメでもそれなりの兵士に育て上げれば、株は上がるんじゃないか、そんな風に思っちゃったんだって。



 が、残念なのは、その子供が、他国の王子にさせられてた、しかもそのことを知らなかった、ってことだよね。

 当然、王子を掠ってきて育てたなんてことになったら、それこそ国際問題。

 さすがに他の評議員も黙っちゃいない。

 ううん。むしろこっそりと美味しそうな子供を手に入れたライバルの足を嬉々として引っ張るネタにするんだろうね。

 しっかりと外国にアンテナ張ってるんなら、僕のことも知ってそうなもんだけど、そのへん脇が甘いっていうかさ、このサンチャタって人も、この国の大半の人と同じで、南の大陸で起きてるちょっとした出来事なんてかまってられるか、って気持ちが強かったんだね。


 そりゃ、考えてもみて。

 外国の王様の孫に、冒険者の子供がなったようです、なんてネタ、誰が興味ある?そういうことです。


 そういうことだからね、まぁ、ここにいる他の二人が、ある意味すごいんだよね。

 なんで僕に気付いたか、って話だよね?


 2人は、そのあたりも説明してくれたよ。

 この国で僕に目を付けている人は、そんなに多くないはず、っていう根拠としてってことでね。


 まずロッシーシさん。

 彼は、そもそも、僕と面識があった。

 一度、ご飯を一緒に食べたしね。

 どうやらその時に、人族の濃い髪色の子供、ってロックオンしたんだ。

 しかも、自分の関係部族であるセスとの関係。そこでも自分に内緒の何かが起こった、ってことは、長年の勘で気付いてたらしい。

 その辺のことは今どうなってるのか僕は聞いてないし、ロッシーシさんも匂わせさえしない狸です。


 で、パリミウマムさん。

 彼は、娘の従者がたまたまザドヴァの被害にあった。

 従者っていっても、かなり近い存在。まぁ、身内的な部下だ。

 相当心配して探したりもしていたようで、戻ったときには、みんなで大いに喜んだそう。

 で、その被害者=サスティの話を聞く中で、ほんの小さな子供があり得ない魔法を連発した、なんて、話をきく。彼女が自分たちに嘘を言うはずも、必要もないからね。

 少なくとも、サスティには5歳前後の子供(失礼な。6歳だったよ!)が魔法を使ったように思った、というのだから、気になるというもの。

 だが何よりその話を聞いた娘のライライさんが、まるで物語のように助け出されたのだ、と、憧れたんだって。

 自分よりも小さな子供。でも人族なら簡単に追いついて追い越していく。だから、自分はその人のお嫁さんになる、なんて言い出したんだって。


 その頃は、ただ幼なじみの侍女の冒険譚を聞いて、夢見てただけだったんだけどね、そこは有力者のおうちだ。

 すぐに、とある招待状が国に届いたことを知る。

 うん、僕の即位式っていうのかな、お披露目式?

 あのときは、皇太子様の子供になるっていうんで、国中、どころか、外国にも招待状が送られたんだ。


 当然、この国にも招待状は来た。

 それをパリミウマムさんは見て、ライライさんやサスティさんたちに教えたんだって。この王子になる子って、サスティさんたちを助けた冒険者じゃないかって。

 パリミウマムさん本人も気になったってことで、強引に使節団に入り、ライライさんやサスティさんを連れて列席してたって言うんだ。

 サスティさんには、まぁ、面通しっていうの?あの王子になる子がザドヴァにいた冒険者か、って確認ね。

 で、見れば当然僕って確定。

 さすがに王子じゃ手を出せん、と思ったパリミウマムさん、だったんだけどね。

 その場でライライさん、決断したらしい。

 年が違うから一緒に学べないだろうけど、とにかくこの国に留学させて欲しい。僕についてもっと知りたいんだ、この国に来て王族と交流するには、治世者養成校は打って付けだって、すごい勢いで、その日のうちに留学を勝ち取ったそうです。


 何がライライさんをそこまで引きつけたかわかんないんだけどね。

 とにかく、僕が治世者養成校へと入学したときは、ものすごい喜びようで興奮してた、らしいです。全然気付かなかったよ。


 まぁ、そんなこんなで二人は僕のことを知っていて、サンチャタさんがやらかしたことを聞いて、頭を抱えたんだって。


 まぁ、パッデは許すって言ってるし、関係のない(?)二人も頭を下げてるから、とりあえず今回のことは貸しってことにします。


 「この借りは、ナッタジ商会を優遇する、ということでいいかのう?そうそうパッデ村やセスの村への密入国その他もろもろ不問にした上で、今後もフミギュ川の自由な渡航および入国を認める、というところで、どうかのう?」

 ニヤッと笑ってそう言うロッシーシさん。

 パリミウマムさんも、同じような悪い顔をしてニヤニヤしてるよ。


 はぁ。

 なんていうか、やっぱの狸が二匹いるね。

 僕は差し出された手を握り、握手した。

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