第98話 パッデがいる!
パッデがいる。
いつもと変わらないパッデが。
フフフ、と僕はなんだか嬉しくて、メンダンさんのお小言にずっと頭をへこへこさせてるパッデを見ながら、朝ご飯をもそもそと食べてます。
僕に言えなかったこと、爆発してるようです。ってか、大概、僕にも言ってたけどね、メンデンさん。
「うれしそうね。」
そんな僕の側で、僕がご飯を食べながらパッデたちを見ているのを眺めながら、レーが言った。
「ん。」
僕は短く返事をする。
なんだかんだで、家畜奴隷仲間は家族みたいなもん。実際、血の繋がった子は多いしね。
いっぱい苦労した人達。僕たちがなんとか救い出したときには、たくさんの人々が命を散らしていた。生き残ってくれていた人には、ただただそのことだけで感謝したよ。
アンナがね、とってもとっても彼ら彼女らを大事にしようとしている。だから僕だって彼らは大切に思う。彼ら一人一人のおかげで僕はなんとか生きてこられたんだ。
レーは、ママがあんまり好きじゃなかったんだって。
ママは1歳の半ばから、アンナに連れられて奴隷になった。
だからね、教育とかなんもないまま大きくなった。
当時、アンナは、商会のことに頭がいっぱいで、ママのことをそんなに気にかけてあげられなかったんだって。
アンナだけじゃなく、自分で精一杯の人達は、赤ちゃんを気にかけることなく、話しかけたりもほとんどしなかったらしい。そういうこともあってか、ママは言葉をなかなか覚えられなかったみたいだ。
アクゼ、つまりは僕ら奴隷の子たちの父親が、そういう行為をやるまでは、赤ちゃんはいなかったらしい。ママが第一号、かな?
ただ、借金のカタに子供ながらに売られてくる子もいて、そんな中の一人が7歳のレーだったんだ。
レーは年の近い女の子であるママが気になって最初は頑張って話しかけたそうです。でも、ろくに受け答えもせず、へらへらと笑っているだけで不気味だった、らしい。
そんなママは子供たちの攻撃対象になりかけるんだけど、世話はろくにしなかったって後悔しているアンナの言うほど、放っておいたわけじゃなく、ママをいじめかけたらすぐにアンナがやってきて、ママを庇うんだって。
そんな特別扱いのママが嫌いだった、レーはそんな風に言ってたよ。
で、僕が産まれて、ママは変わったそう。
喜怒哀楽がほとんどなく、なんかヘラヘラしていただけのママの瞳がキラキラしだして、みんなママがきれいだって気付いたんだって。
ママは強くなった。
そんなママにレーはなんか眩しい物を感じて、で、買われていったママと僕のことがずっと頭を離れられなかった、って。
再会したときは、すぐにわかって、で、良い生活をさせてくれるようになって、今は感謝しかない、なんて言ってくれてます。
だからね、ママがいないところでは、レーは僕のママの替わり、なんて言って、すぐに抱きしめたりするのは、ちょっと困ったもんです。
まぁ、あの家族たちは大なり小なりレーと同じで、みんなが僕のパパやママだったり兄姉だったりするんだけどね。
レーは、そんな話をぽそぽそとしながら、ちょっぴり遅く起きちゃった僕の朝ご飯を用意してくれました。
僕が起きたときには、メンダンさんによるパッデへの説教タイムが始まってたよ。
パッデが捕らえられたことかと思いきや、なんか、ずっと僕の教育がどうとかって、ループしてるし・・・
触らぬ神に祟りなし、ってことで、僕はレーの朝ご飯に夢中、ってことにさせて貰います。ごめんね、パッデ。
散々怒られてたパッデだけど、僕が食べ終わった頃、メンダンさんは用事があるとかで、出ていったから、どうやら解放されたみたい。
「いやぁ参った参った。」
にやにやしながら、パッデがやってきて、レーさんが改めて入れてくれたお茶をお礼を言いながら受け取ったよ。
「なんか、僕のこと?ごめんね?」
「ああ、いいのいいの。初めて一人でダーの暴走を止めなきゃって思ったら、そりゃストレスも溜まるって。メンタルケア大事って、モーリス先生も言ってただろ?」
「そういう問題?」
「そういう問題。僕も初めてダーと行動したとき、どう扱えば良いのか、かなり悩んだもんなぁ。懐かしい、って思ったよ。」
「どういう意味だよ。」
「いやさ、冒険者の手伝いでダーの父親役やって、って言われただろ?初めっからダーが何をやっても大丈夫だから、ただ側で父親だぞ、ってデンと構えてろ、なんて言われてもさ、そりゃ何かあったら自分が守んなきゃ、って思うんだよ。僕なんかダーは小さくても冒険者として仕事するんだから、ちゃんと自己責任できる、って散々言われて、しかもさ、怖くてもちゃんとダーが守ってくれるから、なんて、説得されててもさ、はいそうですか、って気持ちにはならないって。特に拉致されたあとはさぁ・・・そりゃ、なんとしてでもダーだけは守る、って悲壮な覚悟だったんだからね。」
「そんなの・・・・パッデってば弱々じゃない。」
「そうだよ。僕は剣も魔法もできないよ。行商人でやっていくからには、ちょっとは鍛えてたけどさ、そりゃあの頃のダーにだって足下にも及ばない。そんな僕でも、こんな可愛くて小さい生き物は絶対守らなきゃ、って思うんだよ。それがさ、メンデンさんは、あのとおり腕っ節には自信があるタイプだろ?僕よりよっぽどか守る、って気持ちは強いんだと思うよ。考えてもみなよ。ダーだって護衛の経験あるんだろ?護衛の対象者が、こっそり抜け出して危ない場所で遊んでたら、ダーはどう思う?」
「それは・・・・メンデンさん、僕の保護者、って言ってたもんね。」
「そっか。」
「迷惑、かけちゃったかな?」
「ものすごくね。」
「謝らなくちゃ、ね。」
「そうだね。」
「はぁ。」
クスクス、っとそんな僕を見て、パッデは笑ったよ。
「でもさ、周りが見えないほど、僕の心配してくれてたんだ。」
「そんなの当たり前だろ。」
「ん。ダーにちゃんと家族と思われてるんだ、ってすっごく嬉しいよ。助けに来てくれて、ありがと。」
パッデは僕を膝に抱いて、ギュッとすると、お顔を頭にグリグリとこすりつけてきたよ。
もう。
いつまでも子供扱い、やめてよね。
僕は、身体をねじりながら、なんとかパッデの腕から飛び降りたんだ。
「ダー。僕はダーのお陰でとっても幸せだよ。こうして外国でたくさんの経験が出来てる。ありがとね、僕のこと、家族に入れてくれて。それと、ダーが僕のことを思ってることと同じぐらい僕はダーを思ってる。メンダンさんも同じだよ。ダーと会ってダーを守りたいって思った。ダーだってメンダンさんを守りたいって思ったでしょ?ダーもメンダンさんも同じだけ相手を守りたい、って思ってる。だからメンダンさんは怒っちゃったりするんだよ。暴力は、まぁ、許してやって。そうやって育ってきたからそれしか知らないんだ。でもダーのことは大切に思ってる。だからダーがめちゃくちゃなことをやってるのは、僕ら周りの大人のせいだって、僕を叱ったんだよ。ダーのことを大切に思ってなきゃ、僕は怒られなかった。だからさ、これはメンダンさんには内緒だけどね。ダーのことで怒られて、僕は嬉しくて笑みがこぼれないようにするのに必死だったんだ。この人、こんなにダーのことが大好きなんだ、って思えたから、ほんと、幸せで笑みを押さえるのに苦労したよ。」
あー・・・
ま、まぁ?パッデがいいならいいや。
メンデンさんは怒りん坊だけど、良い人だ、それでいいんだよね?
「あ、それと、ダーは覚えてるかわかんないけど、今日は昼からパリミウマム様のところに行くから。改めてお話ししようってことになってるから、ダーもそのつもりでね。」
え?
そんなことになってたの?
はぁ。
まだお貴族様とお話し、とか、いやだなぁ。
「あのね、僕のことで、で、申し訳ないけど、いろいろお世話になったんでしょ?人として、そこはちゃんとしなきゃ、だよ?」
・・・・
はぁ。
どうやら、もう一度続き、は、確定みたいです。
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