第97話 パッデ、発見!

 しばらく放置された僕らだったけど、エアが彼についていったから、なんとなく様子が分かったよ。

 どうやらサンチャタ本人が、パッデのところに行って、なにやら交渉してるらしいです。


 「だから、強引に連れてきてしまったことは謝ります。ですからなにとぞ何とぞ、ご自身の意志で招待した私のところへ来られた、と、殿下にお伝え願いたい。」

 「はぁ?僕に嘘をつけと?」

 「それは・・・!ですが、あなたも人がお悪いです。求めている少年が、まさか王子だなんて。知っていたらこんなことにならなかった・・・」

 「いや、あなた、そんなこと一言も聞かなかったでしょう。」

 「そりゃ知らなければ聞きようがないでしょ。しかし、王子か。そんな報告は聞いてない。あの国の皇太子に第三王子?そういえば3年前、そういう式典があると・・・まさか。まさか、あなたは国に我が子を売ったんですか?」

 「・・・はあ。誰もが自分と同じだと思わない方がいいですよ?だれが我が子を売るんですか?だいたい人を売買なんて発想、あなたの良識を疑いますねぇ。」

 「な!私はそんな野蛮なこと、しません!」

 「けど、ダーを自分の子にって私に申し出ましたよね。金でも地位でもいくらでも与える、と。それ、明らかに僕に彼を売れ、ってことですよね?」

 「それは・・・それは違います。彼が雇われ商人の子など宝の持ち腐れだ、と。私なら彼に素晴らしい未来を提供できる、そう、そうです。彼の未来を与えさせてくれ、と言ったんです。彼のことを思ってです。だから、人の売買など、そんなこと考えていません!」

 「はぁ。まぁ、頭を冷やしてよ~く今の言葉を考えてみることですね。ところで、あなた、僕のところに来てるけど、ダーはどうしたんです?まさかほったらかしでここに来たんじゃないですよね?」

 「はっ!!そうだ、あなたを連れて行かなければ。ほんと、悪いようにしません。だから、あなたを強引にここに連れてきたことはどうか内密に。」

 「・・・だからさぁ・・・」


 てな、お話しがどうもループしてたっぽいですねぇ。


 で、やっとこさ、パッデに促されつつ、こちらに向かっている模様、です。


 カチャ。


 扉が開いて、さっきよりさらに憔悴したサンチャタさん。

 で、その後ろから・・・

 パッデだ!


 パッデは、僕と目が合うと、ちょっぴりばつの悪そうな顔で笑ってました。

 元気そうで、良かった。

 ん?

 あれれ?

 なんだろう?

 なんだか目の前がにじんでます。

 僕・・・泣いてる・・・の?


 バン!

 て、音を立ててサンチャタを突き飛ばしたパッデが、僕のところに飛ぶようにやってきました。

 バシっていう風音が鳴るぐらいの勢いでしゃがみ込んで僕と目線を合わせたパッデ。

 パッデは片手を僕の背中に回し、片手を頭の上に置き、不安そうに僕の目をのぞき込んでます。

 やべっ。

 心配かけるつもりはなかったんだ。

 なんだろ。

 自分でも知らないうちに、目が潤んでて・・・

 パッデの苦笑いを見るまでは、全然平気だったんだ。

 今でも、全然心の中は平気、なんだけど・・・

 何でだろ?

 勝手に涙が溢れてくる。

 全然悲しくないのにおかしいなぁ。

 泣くほど嬉しい、とか、全然思ってなくて、興奮してるつもりもないんだけど。

 なんだろう。

 勝手に涙だけが溢れてくる。

 僕の身体、どうなっちゃってるの?


 ガシッ。


 そんな僕の戸惑いが分かったのかどうなのか。

 パッデは僕を引き寄せて、その身体に僕を強く包んだよ。

 頭にお顔をガシガシこすりつけて、ちょっと痛いってば。

 ハグだって強すぎ。

 僕、つぶされちゃうじゃない。

 そんな風に文句たらたらの心の中。

 けどね、おかしいんだ。

 ヒック、ヒック、って身体が反応しちゃってる。

 小さな子供みたいに泣きじゃくった後みたい。

 やだなぁ。

 知らない大人がいっぱい見てるよ。

 なのになんで僕は・・・泣いてるの?



 しばらくそんな時間が続いて・・・

 なんとか、発作みたいなヒックは収まったんだけど・・・

 なんだろ。

 恥ずかしくって、パッデの胸から顔を上げられないや。

 泣きやんだ僕をちょっと剥がそうとするパッデの腕を無視して、僕はギュッてパッデの身体に抱きついた。


 そんな僕の様子に呆れてるんだろう。

 でも今は、顔を上げられない。

 

 苦笑しながら、誰からともなく、この場は解散ってことで・・・


 どういう話し合いがあったのかわかんないけど、僕はパッデにそのまま抱き上げられると、誰かの馬車に乗って宿屋へと戻されたみたいだ。

 馬車に乗せられたのは知ってたけどね。

 ずっと顔はパッデの胸に強くすりつけてたから、誰の馬車かわかんないままで。

 でもきっと貴族用馬車で、パッデの腕の中、パッカパッカ揺られるのは心地よく・・・

 気がついたら眠っていたんだろう。



 目を覚ました僕は、ベッドの中・・・のパッデの腕の中だった。

 涙で濡れて乾いた後のような、パッデの上着は、でも、パッデの匂いがして、僕はもう一度頭を彼の胸にこすりつけた。


 「おやおや、起きたと思ったのに、まだ甘えたちゃんかな?」

 寝てると思っていたパッデが起きて、僕を見下ろしていたよ。

 なんだろ。

 無茶苦茶恥ずかしい。

 「フフフ。しょうがないなぁ、ダーは。起きたんだったら服を替えたいんだ。一緒にお風呂に入ろうか。」

 頷く僕を抱き上げて、パッデは何も言わず、ご機嫌な様子で、バスルームに直行した。

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