第95話 評議員たちの牽制
翌朝。
僕から訪れる予定だったのに、なぜか豪華な馬車が2台、お宿の前に止まって睨み合ってます。
ほぼ同時に到着したらしい、パリミウマムさんとロッシーシさん。
なんと、二人とも本人がお迎えに来ててビックリです。
ビックリしてたのは、僕の同行者2人も、だけどね。
特に、メンダンさん。
だってさ、昨日あれだけプンスカしてたのに、すっかり恐縮しちゃってるんだもん。
まぁ、この国でも有数の有力者がゴージャスな馬車で乗り付けるんだもんね。目立ってかなわないよね。遠巻きで通りすがりの人も何事かって覗いてるし。
それなりのお宿に泊まっているから、お宿の人は当たり障りのない対応してるけど、内心バクバクものだと思います。
ほんと、ちょっとは周りの迷惑考えてよね。
「お迎えに上がりました、殿下。」
「お迎えに上がりましたぞ、王子。」
僕の顔を見て、ほとんど同時に貴人に対する礼を取ったのは、そのご当主様二人でした。
えー!って、通行人さんたちが目を剥いてるよ。
うん分かる。
冒険者の恰好をしたガキンチョに、自分らでも知ってる偉いさんが深々と頭を下げてるんだもんね。しかも殿下だ王子だって、何事、ってなっちゃうよねぇ。
てか、この二人、分かっててやってるよね、絶対。
嫌がらせ?
僕への嫌がらせか?
と、思ったけど、違うようでした。
「冒険者として参られているのは重々承知しております。しかし、王子はお身内を取り戻し、灸を据えたいと、考えておられるんじゃろ?」
と、ロッシーシさん。
そうだけど、さ・・・
「では、隣国の王子アレクサンダー様として参上なさる方が、今後面倒はないかと愚考いたしまする。」
と、パリミウマムさん。
そういや、二人ともなんかちゃんとした恰好、っていうのかな?お城で会ってもおかしくないような恰好をしているよ。
確かに、僕が王子になったのって、こういう身分の高い人に対抗するのに便利だって説得されてのことだったね。
そっか。
王子として、訪ねた方がいいのか。
その発想、まったくなかったです。
ていうか、この二人は、当然のように僕が王子になったって知ってる。
でも、今までの調査とかこの二人の様子から見ると、これから会う予定のサンチャタって人と、その情報知らない感じじゃない?
自分で情報通、って思ってるとは思うけど、この妖怪たちから比べたらひよっこ扱いされる、ってのはこういうところなのかもね。なんか、お前も気をつけろよ、って言われてるみたいで、ちょっぴり気を引き締めました。
「やっぱり、この恰好じゃ、まずいよね?」
僕としては、普通に冒険者のつもりだったから、全然変じゃないって思ってたけど、二人を見ると、もっと王子っぽい恰好の方が良さそうです。
「そうですな。」
「お召し替えの間、お待ちいたします。お着替えをご用意いたしましょうかな?」
「いえ。持ってます。」
「そうですか。では、儂は前触れに先行いたしましょう。前触れ、なされておらんのでしょう?」
「ええまぁ。」
前触れ。
まぁ、アポ取ってるかってことだよね。
普通は、アポをとるべき、ってのは知ってる。
行ってもいないかも、だしね。
ただ、エアに見張ってて貰ってるから、彼が在宅なのは知ってたし、どこかへ行っても追いかけられるから、気にもしてなかったんだ。いや、むしろ突然行って、ビックリしてる間に事を済ませちゃおう、って思ってた。
前触れ、とか、先触れ、って言われる、このアポは、貴族同士ならやらなきゃ失礼に当たるんだ。といってもそこは上下ある世界。上から下への訪問は割と自由だ。今から行くから、レベルの話でも、在宅して迎えなきゃならないのは、下の人の悲しいところ。前触れの使者が在宅を確認していたのに出かけちゃったら、大問題になっちゃうからね。
出かける先の相手と比較検討した上で、偉い人の方を取るっていう決断が必要になっちゃう。
友達と遊ぶ約束してて、いざ出ようとしたら、上司が今から行く、って連絡あったら、泣く泣く遊びをキャンセルしなきゃ、みたいな感じです。
ちなみに遊び相手が、上司からしてお偉いさん、ていうなら、すみません○○さんと約束あるんです、って連絡係の人に断ります。これをせずに出かけたら、下手したら
で、本来、こういう前触れっていうのは、使用人がするものです。
ちなみに前触れ、っていうのは「行くから。」ていう一方通行の報告。先触れっていうのは「行くつもりなんだけど?」って、ちょっとしたお伺いを立てる感じかな?どっちにしろ上からの要求には応えなきゃ、だし、混同して使われているけど、先触れの場合、若干時間的余裕がある、って思えばいいかも。あくまでもニュアンスだけどね。
あと、すっごく上下間に差があれば、前触れ、って使うかな?
さっきのロッシーシさんの言葉では、たぶん王子と平民、ってつもりであえて使ったんじゃないかと思う。
この国では一応貴族っていなくて、代表制の政治形態だから、ね。評議員って言っても平民は平民、ってことになってる。
本当は全然そんなことないんだけどね。
評議員は他国へ行けば、外国貴族のVIP扱いだしね。国内でも、評議員=貴族みたいな特権階級扱い。そもそも、代表者の変更、なんてのは事件レベルでしか起こらない。特にエルフ、ってのはね。
長く評議員をやっている人ほど、序列が高いっていうのは暗黙のルールらしいです。本人たちはみんな同じで序列ないよ、なんて言ってるけど、厳然と序列があるのは、間違いないんだ。本当はあるけどないことになってる、って、まったく面倒です。
でね、前触れは、本人の依頼を受けて親しい人が行くものです。
普通はお屋敷の使用人だね。
なのに敢えてロッシーシさんが名乗り出た、ってことは、自分は僕と親戚みたいなものだから、僕と近しい自分が前触れして、相手に牽制しておくから、うちの子をよろしくね、と、パリミウマムさんに、暗に言った、のだ、そうです。
あ、これは、着替えた後で彼の馬車に乗ったんだけど、その馬車の中で、パリミウマムさんに教えて貰ったんだ。
ロッシーシさんがドクのお母さんと兄弟だってのは、この国の評議員ならみんな知っている事実だ。で、僕がドクにとって孫のようなものってのも、有名なんだって。
だからマウント取ってこられたんだよ、ってパリミウマムさん、苦笑してました。
「ライライと婚約して貰ってたら、前触れはうちでできたんだけどねぇ。」
そんなこと言われても、困るよ。
けど、あえてロッシーシさんに前触れを譲ったことで、ライライさんに対して単なる友達で良いから仲良くしてね、っていう気持ちを込めたんだとか。
こういうことは、僕は分かんないでしょ、って笑いながら説明されました。
はぁ、そういうものですか。
そうとしか言えないよね。
てことで、豪華な馬車2台。
1台は前触れとして、先に出発し。
1台は、いつもリュックに保管してある服から王子としてあてがわれてた物を着た僕を乗せ、さして遠くない道をコトコト進んだんだ。
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