第94話 モールス通信

 《あした、パッデをゆうかいしたひょうぎいんのところに、ライライのおとうさんとのりこみます→A SHI TA PADE WO YU U KA I SHI TA HYO GI I N NO TO KO RO NI RAIRAI NO O TO SA N TO NO RI KO MI JA SU 、あ違う MA SU》

 フィー・・・これだけ書くのでも大変だ!!

 あ、この表記は気分ね、気分。言葉も文字もこっちのなんだけど、段取りはこんな感じ。


 僕は、魔導具を使ってモールス信号でゴーダン、じゃなくドクと連絡を取ったよ。別にゴーダンを避けたわけじゃなくて、この魔導具はリュックを通じてドクが入れてくれた物で、相方をドクが持ってるんだ。

 もともとこの魔導具は、ドクが創って、ちょっとだけ国とかにも卸してる、ナッタジ商会の商品、の改良型だったりするんだけどね。

 てことで、うちの商会にはそれぞれ本店と繋がるモールス信号の魔導具は置いてるし、船にも乗っけてるってわけ。

 持ち運び用の小型のは、パーティで数組用意してる。けど、今持っているのよりはだいぶデカいです。


 今使ってるこれは、僕とか、魔力が多い人専用だね。

 本来魔力供給は魔石をバッテリーみたいにして使うんだ。魔石の質や大きさでそのバッテリー量が決まる。だけど、魔導具は魔石がなくても直接魔力で働くように作ることも出来るんだ。

 電池とAC電源、みたいに思えば良いかな?

 魔石を使うと、魔石を収納するスペースがいるから当然その分でかくなる。魔石が大きいほど長くとか強く使えるから、強力な魔導具ほど相対的にデカくなる。

 ちなみに魔石の魔力を引き出す術式が必要。本体の能力を引き出すため、魔力を合わせる術式、っていうのかな?もとの術式が壊れないように、魔力が強力に必要なものほど複雑な術式が必要で、これにもスペースをとるんだ。だから、ここでもまた魔導具がでかくなる。


 逆を言えば、この魔石を原料としないで、しかもそれを複雑に本体の術式に通す術式が不要になる、魔力で直接コントロールする魔導具ってのは、その分小さく出来るんだ。

 僕専用に作って貰うような魔導具は、もともとが僕の魔力を使うことを前提としているから、相当小さく出来る。おかげで、僕のベルトにはそれなりの数のすごい魔導具が組み込まれているよ。魔石を使う物もあるけど、それは魔力供給用じゃなくて、魔力の特定用、ってことみたい。詳しいことは・・・ドクにお任せです。



 とにかく、僕の魔力だよりで超小型化した魔導具は、そのペアがドクが持っていたみたい。といっても、そばに他のメンツもいるみたいだから、魔力の多いドクが代表して相手してくれてます。


 僕の置き換えが必要な、しかも思い出し思い出しだから入力だって遅い入電に対して、解読が追っつかない速度で返事は入ってきます。

 なんとか、紙に文字を写そうとするんだけど、間に合わないよ。


 「ライライといえば、パリミウマム公か?少々融通は利かぬが、悪い人じゃない。」

 僕が、書き留められないのを見て、横からメンダンさんが、口で教えてくれたよ。

 なにげに、ダイレクト翻訳できるんだ。ヨシュアレベルで、操れる模様。


 僕がビックリして見つめてるのを見たメンダンさん。はぁ、っと大きなわざとらしいため息をついて、

 「ダーは、ナッタジ商会の跡継ぎなんだから、このぐらいは出来なきゃダメだぞ。そもそもこれを作ったのはおまえさんだろうが。」

 いや違います。

 確かにこれ、前世のモールス由来だけどね、提案はカイザーだよ。で、カイザーの前世知識と、カイザーとドクの魔導具作成の技術、それで作ったんだ。トンツー表もドイツ人時代に覚えていた物の、こっちの文字への移植らしいし、僕、関係ないもん。いや嘘です。手伝いはしたけどさ・・・


 「これの出はカイザー、うちの鍛冶師だよ。それに、僕は冒険者になるんであって、商会を継ぐのはレーゼだよ。」

 レーゼを手伝う気は満々だけどね。

 それにまだ産まれたばっかりのレーゼに押しつける、とかじゃないんだ。彼が嫌がったら、他の道に進むのもダメじゃないと思ってるしね。

 だけど、僕かレーゼか、ってなったらレーゼにお願いするよ。

 だって、産まれた時から商人の子として育てられるレーゼの方が良いに決まってる。ちゃんとしたふさわしい教育があるはずだから、ね。

 それに・・・

 普段意識はしないけど、僕の血の半分は・・・アハハ、これは、お外に出しちゃいけないやつです。父が誰か、なんて関係ないもんね。

 ただ、僕はやっぱり商人っていうよりは冒険者かな、って思う。

 領主?

 名前だけだよ、あれはね、ハハハ。



 僕が跡継ぎを否定したら、メンダンさんってば、ビックリ顔です。

 ?

 なんでそんなに驚くかな?

 だって、商会の人なんだし、僕がどんな人生送ってきたか知ってるよね?

 一切、まともな教育受けてないよ?ま、周囲に優秀すぎる先生だらけ、だけどね。


 だいたい、王子とかわけ分かんない立場にもなってるし、将来ナッタジ領ってなる予定の、名目上とはいえ領主になるんだからさ。跡継ぎとか、ないでしょ?


 「あんたって人は・・・・まぁ、それは先の話です。ごまかさないで。少なくともナッタジ商会のために、フラフラと出歩いて働く気はあるんですよね。連絡が取れるアドバンテージは、頭の良いお前なら分かっているんだろう?」

 なんか、メンダンさん、僕に対する立ち位置でフラフラしてるみたいで、ちょっと面白いです。って、こんなこと思ってるって分かったら、叱られちゃいそうだけどね。

 敬語になったり、上から目線になったり、めまぐるしくって大変だね。って僕が元凶か。反省反省。けど、ちょいちょいディスり入ってるよね?


 ただ、そうだよね。わかってはいるんだ、わかっては、ね。


 実は、この魔導具は国にも卸してる。

 で、実際、通信兵、なんなていう役割もできてきたみたいです。

 兄様たち、どうやらかなりの熟練度みたいで、自分たちでもある程度使えるらしい。一応、通信兵を通して、紙で内容を把握してるけどね。これはどっちかっていうと、報告書類扱いで、上級の職の騎士さんたちは、自分でも解読できるようにって、陛下が命じられたんだって。

 僕?

 お国に関わらなくてもいい存在だから、全然わかりません。


 ただねぇ。

 僕はぼんやりと、魔力供給をしながらメンダンさんを眺めています。


 うん。

 僕の速度と理解力に呆れたメンダンさんに、入出力は取られちゃって、僕は魔力供給係を任命されちゃったんだよね。


 いやあ、早い早い。

 リアルタイムでやりとりする様子は、前世のチャットを思い出すね。


 どうやら、ドクはロッシーシさんも連れてけ、ってことのようです。

 あの人は、強引だけど、本当にセスを大事に思っているし、僕のこともそれなりに大事に思ってくれてるから、とのこと。

 どうやらドクとの間で、話はある程度ついているんだそうです。

 まぁ、ゴーダンたちと軟禁されたときのことをネタに何かあったら協力する、みたいなことになっていたようで、まったくいつの間にそんな話してたのか、大人って怖いねぇ。

 どっちにしろ、ドクの愛弟子であり家族みたいな僕は、ロッシーシさんにとっても親戚の子みたいに思ってて、この国では自分に優先権がある、と考えているよう。そんな僕に横手から何も分からんガキンチョ(ってどうやら100歳オーバーのサンチャタのことみたいです)が横から手を出すなら、黙っていない、って考えるはず、なんだって。

 いや、ロッシーシさん。あなたにも優先権はないからね?


 ま、そんな感じだから、パリミウマムさんとロッシーシさんを引き連れて交渉すれば、パッデは大丈夫だろう、ってことのよう。


 なんて話は、さっきとっくに終わってるんだけどなぁ。


 僕はチラチラとメンダンさんを見るけど、分かってて無視してるよね。

 メンダンさんの右手は、さっきからちっとも動いてないよ。

 人の力を使って、堂々と目の前で内緒話、はやめて欲しいなぁ。

 力、切ってもいい?

 時折、「切ったら容赦しないからな。」なんて脅してくるから、勝手に切ることもできないし。

 ていうか、容赦しなくても、僕の方が強いからね?

 けど、守るべき従業員さんを怪我させるわけにはいかないから、反撃が難しいのは困ったところです。

 捕まりさえしなければ、僕の勝ちは確定なんだけどなぁ。

 ちなみに捕まえられたら、かなり不利、なんだよなぁ。力自体は僕の方が断然弱い。体格差が恨めしい・・・


 僕のジト目も気にせず、ドクや、後ろにいるメンバーとなにやらお話し。

 僕の解読力じゃ、ほとんど何を言ってるか分からない。やっぱり勉強の必要性、あるみたいだなぁ、なんて考えていたら、どうやらやっと終了のようです。

 魔力供給に疲れる、なんてことはないけど、いろんな意味で精神的に疲れたよ。


 「ふー。一応お前のことをボスの息子じゃなく、自分の子供と同じに扱っていいって許可は貰ったぞ。それと、今回のいろいろなことを包み隠さず報告しておいた。お前の教育に関してもな。てことで、本来なら座れなくなるくらいケツひっぱたいて、数日間自宅謹慎の罰、って言いたいところだが、時間がないんだろ。パッデのやつを無事に連れ帰ってこい。それができたら罰は勘弁してやる。いいか、パッデもお前も怪我一つでもしてたら容赦しねえぞ。分かったら、今日はもうしまいだ。二人の評議員には俺から連絡取ってやっから、お前はもう飯食って寝ろ。いいか。今度こそ言うことを聞くんだぞ?でなかったら朝まで泣くことになるからな。」


 すっごい勢いに僕はコクコクって頷くしかなかったよ。

 勝てる、って思っても、怖いもんは怖いって分かった瞬間でした。

 はぁ、今日はもうご飯食べて大人しく寝るとしよう。

 その前に、一通りモールスのおさらいをすることにします。

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