第93話 報告はいる?いらない?(後)


  「坊ちゃん、そのご報告はゴーダン殿にされましたか。」

 

 「僕が、パリミウマムさんに付き添って貰って、パッデを迎えに行くよ。」

って言ったらね、ものすっごく怖い顔で、メンダンさんがそう言ったよ。

 あのさ、自分の顔が厳ついって分かってるのかなぁ。僕じゃなきゃ泣くレベルだよ?


 「いや、今、決めたんだし・・・」

 「なら、まずは報告です。ゴーダン殿に許可を貰ってください。」

 「ハハハ、今回の件、ゴーダンは関係ないし。一応パッデのことを追うのは知ってるから、いちいち言わなくても・・・」

 「ダー!」

 ワッ!!

 いきなり大声出さないで。ビクッてなっちゃったじゃない。


 「まったく。下手したてに出ちゃいかんということが、よおく分かった。いいか、ダー。これは大人として、今はお前の俺からの命令だ。ゴーダン殿に報告を入れなさい。」

 「でも・・・」

 「でもじゃない!ったく、想像以上に悪ガキだな。いいか。俺は今朝お前になんて言った?部屋から出ずに、大人しく留守番しろ、そう言ったよな。」

 「・・・それは・・・言ったけど。でもさ、・・・」

 「だから、でも、はいらん。留守番しろ、なんていう簡単なことも聞けない。大人にまかせろ、と言ってたにもかかわらず、まさか評議員と約束だ?犯人のところに乗り込む?はぁ。いったい何をどうやったらそうなるんだ?ああ、いい!口を開くな。お前は一切人の言うことを聞いてなかった。ハハハ。ああ、聞いていたさ。お前さんが言い出したら聞かない悪ガキだってな。ちょっとばかしキツく言ったところでケロッとして好きなようにやっちまう困ったやつだ、ってのは、みんな言ってたんだよ。だがなんなんだ?外国だぞ?いったいどうやったら、宿にいるはずの10歳の子が国の重鎮の屋敷に招かれて、別の偉いさんに喧嘩売る算段してくるよ?いや。俺にしてもうちのガキどもにしても10歳の頃には、ケツひっぱたかれるような悪さはしたさ。だがな、ふつう10歳で家を抜け出しても、せいぜいがダチんちに遊びに行く程度だ。喧嘩だって、近所のガキと取っ組み合いがせいぜいなんだよ。なのに、なんなんだ?どんな規模で悪さしてる?しかも言うこと聞かせようにも体罰禁止、って意味わかんね。甘やかしすぎだろ?ヨシュアの教育が悪いのか?なんなんだ。どうしろってんだまったく。」


 あらら、メンダンさん、お疲れのようです。

 はじめはどうやら僕に怒鳴ってたみたい。お留守番しなかったことがそんなに気に触るんだろうか?それとも疲れてるからイライラしてる?そりゃ疲れるよね。社長の子のお守り押しつけられたようなもんだし。

 でもさ。

 僕だって留守番するつもりあったんだよ?

 だけど、イレギュラーがあったんだから仕方ないよね?

 現実は常に流動的なもの。それを理由も聞かずに、ううん、それはさっき言ったから、そんなの無視して怒ってるのは、わけ分かんないよね。

 ていうか、途中からブチブチとどうやら愚痴みたいだし・・・

 何?僕が言うこと聞かないからって体罰したいの?ダメな大人だねぇ。


 やれやれ、と思って、レーを見ると、ちょっぴり眉の間に縦皺が・・・

 僕と目が合うと、首をすくめてやれやれ、と言った表情です。

 で、僕に、声を出さずにメッて言って、メンダンさんの近くに座ったよ。


 「メンダンさん、あなたの気持ちはようく分かります。あなたは良くやってますよ。ただ、ダーは身内に被害が及ぶと、ダメッ子ですからねぇ。あれを止められるのは、宵の明星の方々ぐらいですよ。」

 「レー・・・しかし、俺は坊ちゃんの身を・・・」

 「ええ、分かってます。でもそこは諦めてください。パッデさんは、ダーが連れてきた人ですからねぇ。ダーにとって家族同然なんですよ。あれは、止められません。私は止めませんよ。ダーに嫌われたくありませんから、フフフ。」

 「レー。ったく、きみたちナッタジの連中は・・・」

 「はい。私たちナッタジですから。特に私はあの子のおむつを替えたおばさんですよ。産まれた時から知っています。本当にママ大好きッ子でしたからねぇ。家族扱いがママだけじゃなくなって、私は嬉しいですけどね。そうだ、いいこと教えて上げましょう。まだあの子がまともに首もすわらない時のことです。当時、私たちは家畜小屋で寝起きしていました。ええ家畜奴隷としてね。で、ミミはあの器量でしょ。狙ってる馬鹿な男どもも一緒に雑魚寝でね。特に悪いやつがいて、寝てるあの子をこっそりと抱こうとしたんですよ。あのときは、ミミはダーを抱きしめて寝てました。ダーは男の気配に目を覚ましたんでしょうね。どうやら気がついて、男を睨み付けた。それに対して、男は逆に睨み付けて頭を持ちダーを腕から取り上げようとしたようです。普通なら、泣くでしょ?ダーはね、泣きもせず、獣のようにグァーッて雄叫びを上げて、みんなを起こしたんです。気がついたらグァーッて言いながら、動かない頭をフリフリして、なんとか歯のない口で腕に噛みつこうとしてたんですよ。フフフ。あのとき、なんか感動したわぁ。あれからです。この子はミミのためなら無茶苦茶やる子だってみんなが認識したの。それまではほとんど泣きもしない大人しい良い子って思ってたんですけどねぇ。」


 何、そのエピソード。全然知らないんだけど・・・・

 ていうか、僕、獣?なんですか、それ怖い・・・

 どうりで僕のこと、みんな猛獣扱いするわけだ。って、今のレーの作り話だよね? 

  嘘!マジなの?何やってたんだよ、僕。いや、結果、ママが無事だったから良いのか?



 「てことで、メンダンさんはあきらめてください。で、ダー。あなたも、です。報告が大事なのは知ってるでしょ?メンダンさんの言うとおり、ゴーダンさん達には連絡しなきゃ。ぐずってるのは、報告してお小言貰うのがいやだからなんでしょ?」

 それは、・・・まぁ、そうなんだけどね。やっと解読したらお小言とかって、本当、勘弁です。

 「言っとくけど、今、メンダンさんが報告しなさいって言ったのに、ダーはお小言がイヤで連絡しなかったよ、ってみなさんに報告しますからね。そうしたら、しっかり叱られるんじゃない?だったら、少々面倒でも、解読が挟まるだけ、叱られる怖さは減るんじゃないのかな?ダーはどっちがいい?」

 うー。

 目の前にしゃがんで、そういうことを言うのは卑怯だと思います。

 はぁー・・・


 「分かったよ、報告すれば良いんでしょ!」

 僕は半ばやけっぱちになりながら、魔道具と紙とペンを用意したんだ。

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