第92話 報告はいる?いらない?(前)

 「僕が、パリミウマムさんに付き添って貰って、パッデを迎えに行くよ。」

 みんなが集めてくれた情報を見ちゃうと、どう考えても、僕のせいでパッデは捕まえられちゃったのは間違いないよね。

 サンチャタがどのくらい僕の情報を持っているのか、正直分かんないけど。


 ていうのはね、僕が、この年でこれだけの魔法が本当に使えるんだって信じる人は意外と少ないんだよね。この髪の色のために、将来はすっごい魔導師になりそうだ、ってとこまでは、みんなの共通認識だけど、今現在の僕が本当に魔法を使えるって思う人は案外少ないんだ。


 常識的に考えるとね、魔力の通り道を通すのは、平民なら10歳ぐらいから。

 貴族では、7歳ぐらいから通すような人もいるみたい。

 遺伝もあるんだろうけど、もともと貴族には魔力の高い、濃い髪色の子が産まれやすく、ノウハウもあったり、上手に道を通せる先生を雇ったりもして、早期に魔法を使えるように教育する場合があるんだって。小さい子には特に慎重にゆっくりゆっくり道を身体に馴染ませるように通すものらしい。

 魔力の通り道を作ることによって、身体は変わっちゃうんだ。肉体がそのままでは、魔力の巨大なエネルギーを保持できず、身体の方が壊れちゃうからだって言われてる。


 まぁ、そういうわけで、魔力の通り道を通すってのは、身体のつくりそのものを変えちゃう行為で、当然リスクがある。下手すると、身体が崩壊、爆発したこともあるらしい。怖っ。

 ただし、早ければ早いほど、魔力量が増えやすいとも言われている。


 元々持っている魔力量は産まれながらにある程度決まっていて、それが髪に如実に表れる、というのがこの世界の常識。ただし、ある程度子供のうちは訓練で魔力量が増える、ってのも分かっている。

 これも不思議と、もとの魔力量に比例して増えるから、魔力が多く産まれた子は多く増えるし、それなりの子はそれなりに、ってことみたいです。


 で、この増えるのが、だいたい成人=15歳ぐらいまでとされてる。

 これも、魔力量が多い子の方が、遅くまで魔力量が増えるようだ、なんて言われてて、まぁ不公平感がすごいよね。

 ただし、成人してても、まったく増えないわけじゃないようで、実際、成人してから魔力の通り道を通して、訓練で総量が増えた、って人も結構いるけどね。

 ただ、訓練で効率の良い使い方を覚えて、魔法自体の強度を増すのは、成人してても普通にできるから、その当たりの見極めは難しいです。



 どっちにしても、僕は産まれながらに、こいつはバカ魔力を持ってるぞ、って思われる髪でした。実際、他の人よりもずっと魔力量、多いしね。

 ふつうはね、魔力の通り道っていうのは、一度に開通するものではなく、ゆっくりと魔力を通すことにより、馴染むように身体が変わっていって、徐々に循環させていくものだそうです。早い人で1週間ぐらい、長ければ10旬、つまりは季節が変わるぐらいの期間、もかけて、一人前に魔法が使えるようにするのが通常、ってことみたい。



 そういうことを考えると、現時点で、僕は魔力の通り道を通してるかどうかの瀬戸際、だと思われてると思う。いろんな報告だか噂もゲットしてるだろうけど、聞いた人は眉唾だろうって思ってる場合が多いです。

 この国の人なら、白い大地の話を聞き、クッデ村の話を聞き、ザドヴァの帰還者の話を聞き、って感じだろうけど、そこに僕がいて目立ってたとしても、実際の魔法はうちのパーティメンバーの仕業だ、ぐらいにしか思っていないだろう、って、僕は思ってるんだ。うん、今までの経験から言うと、ね。

 だって、これらは全部7歳より前、5歳とか6歳の時分の事件だからね。7歳どころか10歳前の子が魔法を使う、は、非常識きわまりない、のだそうです。

 はぁ、自分で言ってて悲しくなっちゃうよ。


 そんなこともあり、いろんな国のいろんな人が、今まで将来有望な魔導師になる子、として、僕をゲットしようとしてきました。

 今回パッデが連れて行かれたのも、同じようなことだろう、って思う。

 パッデを囮に捕まえるつもりか、単に話に応じさせるつもりか、偉い人っていうのは、会いさえすれば僕とか家族は、喜んでしっぽを振ってくるって信じてる人も少なくない、からね。


 とにかく、僕が目的だとしたら、いつまでもパッデに不自由なんてさせられないよね。

 僕が行って、はっきりと、あなたの部下とか子供とかになる気はない、って宣言して、パッデを取り返さなくちゃ。

 これを言っても、僕を軟禁してきたり、パッデを使って脅迫したり、下手したら軟禁ところか監禁して洗脳じみた教育を、なんてことを考えてるかもしれないけどね。

 はぁ。普通にこんなことを思いつく自分が悲しいね。うん、これ全部経験からの推測、です。


 ただね、僕としては、はっきり、ノーを突き付けておかないと、って思うんだ。いつまでもしつこくつきまとわれるのはごめんだからね。

 で、僕のことはどうせ10歳にしてはマシ、ぐらいの強さとしか思ってないだろうから、言うこと言って、力尽くでパッデを連れ帰ることは、多分できる。最悪、屋敷ごと吹っ飛ばしてやる、ぐらいの覚悟はあるからね。

 もともと、ここに来る前から、犯人が僕狙いならお話し合い&ダメなら強行突破だ、のつもりだったんだ。


 けど、そこにパリミウマムさんの提案です。

 正直、サスティさんはちょっと怖いけど、ご当主は本当にライライさんに甘々なおじいさん、にしか見えなかった。もちろんこの国ですっごく長い間評議員とかしてる元老院の議員さん、つまりは政治家だ。腹芸は得意かも、だけどね。でも、僕に対して嫌な感じはしなかったんだ。これでも、そういう勘は当たります。

 あの方は、腹黒いかも、だけど、今の時点で僕を害する気は一切なく、協力したいって本当に思っている。なんだったら、僕からの評価を上げて、ライライさんに対して、いい顔をしたい、ぐらいの感じ。

 で、この国での序列でいったら、間違いなくサンチャタよりも上なワケで、すくなくとも、自国の偉い人の前で、外国の要人の関係者を、本人の意志に反して拘束してる、なんてことを公にされたくはないはずです。 


 てことで、僕としては、パリミウマムさんと、件の外交官殿のお屋敷に向かう、てことにしたんだよね。


 「坊ちゃん、そのご報告はゴーダン殿にされましたか。」

 僕の決断に、水を差すように怖い顔でそう言ったのはメンダンさんだった。


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