第91話 エアとレーとメンダンさんの情報

 パリミウマムさんのお屋敷を出てすぐに、かわいいエアが僕の目の前に現れたよ。

 どうも隠れていたみたい。

 『あの人、エアが見えるの。』

 そう言ってたけど、あの人って?


 エア曰く、どうやらサスティさんみたいです。

 なんかね、僕のことをザドヴァの教練所で見て知ってた風なことを言ってたけど、その認識はどうやらエア込みかも、です。

 エアは自分のこと見えてるか見えてないか、なんとなく分かるみたいなんだ。

 教練所のときに、気をつけなきゃ見つかっちゃうから、みたいなことを言ってたけど、何人かに存在を把握されてたようです。恐るべし英才教育。

 実際、まだ仲良くなる前のバンミは、なんかうっすら光ってる何か、ていう感じで、エアを認識してたみたい。黙ってはくれてたけど、僕が気になった一つが、こっそりエアとお話ししているのに気付いてたから、って以前言ってました。


 そんなエアを認知していた人の一人が、サスティさんだったようです。

 僕自身はサスティさんのことをまったく覚えてないけど、エアは目が合った人、として覚えてたみたい。

 本当は、パッデを見つけて、僕のところへ飛んできたんだけど、そばに、サスティさんがいるのに気付いて、あの人はやばい、ってことで隠れてたんだって。エアってそういうところ賢いよね。


 てか、パッデ見つかったの?


 『ドアの前に怖い人が立ってるけど、元気だった。ご飯食べて寝てた。』

 だそうです。

 じっくり詳しく聞くと、どうやら部屋から出ないように騎士だか兵士だか、とにかく武装した人が交代で廊下側の扉の前に立っているようだね。

 で、パッデは、そこそこ大きな部屋で、ベッドもテーブルもあって、テーブルにはお茶とお菓子があったそうです。

 お菓子に手をつけず寝ていたから、エアが貰ったって。

 ん?接触したの?


 『ダーちゃまと来てるよーて言ったら頭掻いてた。』

 だそうです。

 『ダーちゃまに伝えてって。元気だし悪さはされてないから、一人で来ちゃダメだよ。あ、エアと二人でもダメだって。』

 なんか、エアが一人扱いされなかったみたいで、ちょっとプンプンしてるけどね。

 多分、来るならエアが一緒だから一人じゃない、とか言ったようです。ハハハ。


 ただね、パッデがエアからどんだけの情報を聞き出したか分かんないけど、僕がいるならみんないるかも、とか思ってるかも。まさか一人で異次元越しにやってきた、なんて思わないか、ハハハ。

 一人で助けに行ったら、なんかとっても怒られそうな気配、です。



 「で、メンダンさんは?」

 『ずっとご飯食べてた。いろんな人とおしゃべりばっかり。』

 エアは、一人でいろんな人と食べ歩くメンダンさんにプンプンです。

 僕に一人でお留守番してなさい、お勉強しておくんだよ、なんて、言い聞かせていったのを知ってるエアとしては、一人遊び歩いていて許せない、って思ったんだろうね。

 でもね、たぶんメンダンさんは、そうやって情報収集をしてるんだと思うよ。

 どれだけの人が知り合いで、どれだけの人が初見か分かんないけど、ご飯を奢ってお話しを聞くのは、情報収集のセオリーだ。意外とベタなことしてんだなぁ、でも結局、ベタがいいのかなぁ。

 生憎と、僕の年齢では、この手は使えないんだよね。

 早く、立派な大人・・・に見えるようになりたいです。

 メンダンさんやゴーダンみたいに、ちょっといかつめのデカい男、に憧れてるんだけど、僕があんなボディを手に入れられるのは、いったいいつの日になるんだろう・・・・



 そんな話をエアとしながら、宿に着くと。


 「ダー、心配したんだからね!」


 ガシっと痛いぐらいに僕を抱きしめたのはレーだった。

 どうやら宿がもぬけの殻でびっくりしたみたい。

 ちゃんと書き置きしたのを見つけたけれど、僕の知り合いの人なら、ロッシーシさん絡みじゃないかって思って、下手したら軟禁されて帰って来れないかも、って焦ったんだそう。


 「だから学校の知り合いの家族だって。」

 嘘じゃないもん!


 レーは、僕が仕事で治世者養成校に潜入しているって知らなかったようです。

 僕と学校が結びつかなかったみたい。なんでだよ!

 「ダーは読み書きも計算もできるでしょ?みんなに教えてるじゃない。剣や魔法はパーティのみんなが教えてくれるし、何を学ぶのよ。」

 「だから、仕事だって。冒険者として潜入捜査してたの。」

 「こんな小さいのに、仕事で潜入捜査だなんで。」

 「いやいや、僕もう10歳だからね。平民でも普通に見習い行く年齢だよね。」

 「でも、ダーは10歳に見えないでしょ。」

 「ひっどーい!僕、並の10歳よりいろいろできるつもりだよ。」

 「それは知ってるけど・・・」


 なんか、レーにとっては、おむつを替えていた僕の印象が強いみたいで・・・

 しかも外見に引きずられて、どうしても、仕事するような子には見えない、なんて失礼なことを思っているようです。

 でもさ、冒険者になったとき、僕、ギルドに付き添ってあげたじゃない。

 僕が、ギルドで顔パスなの見て、感心してたよね?

 そりゃ、僕はまだ見習いだけどさ、冒険者としては先輩、のつもりなんですけど?



 なんて、レーとグダグダたわいもないことをしゃべっていた間、レーは僕を離そうとしなかったんで、ずっとお膝の上で頭を撫でられていたから、あんまり、強く主張しづらいところ。

 やっぱり小さいときのことを知ってる人ってのは、やりにくいなぁ。


 とかやってると、メンダンさんも帰ってきました。


 いろいろサンチャタの噂を仕入れたようです。

 レーも、僕の不在でパニクってたから言ってなかったけど、って感じで、自分の収穫も報告してくれたよ。


 メンダンさんが聞いた話によれば、サンチャタって人は若いだけにやる気満々だけど、やる気が空回りな感じ、って思われてるみたいです。

 なんとなくこの国が古くさい、って思ってるみたいで、外国の風を入れるべきだ、って、外国の商人を重用しているらしく、この国の商人さんからは鼻であしらわれているようです。頭でっかちの小僧っ子、なんて言われてるらしい。


 レーによれば、サンチャタは自国の騎士全員セス並の練度にして、森を開拓し、住む場所を広げよう、という、いわゆる武闘派の評議員だそう。海外からも有名な冒険者をいっぱい雇って、国土を広げるべきだ、なんて言ってるみたい。

 その主張では、数年前のクッデの町の事件を大々的に上げているそうです。

 当時、この国の最果てっ言ってもいい北の集落クッデに、強い魔物が溢れちゃったんだ。トゼのギルドにも冒険者をクッデに送るよう要請されていて、多くの冒険者が名乗り出た。

 そのときに、外国からの冒険者に大いに助けられた、とされてる。

 ハハハ、僕らの仲よしのパーティ【虐殺の輪舞】が早期に参戦してたし、僕ら【宵の明星】も、あとから参戦したんだ。

 で、たまたま、僕らが瘴気に侵された魔物を倒したんだけど、そのとき地元の冒険者だけだったら、とんでもないことになっていただろう、って無茶苦茶感謝されたんだ。


 その教訓って感じで、自国で閉ざして生活してるだけじゃダメだ、もっと門戸を開くべきだ、っていうのが、サンチャタの主張のようです。

 ただ、この国は長く閉鎖的な国だし、そもそも他の国との間には、航路で1月もかかる海が横たわっているからね。他の多くの評議員さんたちには、鼻であしらわれているようです。


 て、みんなから鼻であしらわれているんだね、ハハハ。


 ただね、パッデが連れて行かれたことの意味が、なんとなく分かる気がしてきたよ。

 狙いは、きっと宵の明星だ。悪いことするっていうよりは、僕らとコンタクトを取って、自分の協力者にしたい、ってところじゃないかな。


 だってね、メンダンさんの仕入れてきた外国の商人に倣ってて話は、名指しはしてないけど、こんな風に外国では、って主張してる内容が、どう考えてもナッタジ商会発の商標とか、魔道具とかの話だし。

 レーの仕入れてきた外国の冒険者って宵の明星を、ほぼほぼ名指しだし。


 外交官的な立場のサンチャタって人なら、ザドヴァでの僕らの話も仕入れてるよね。実際、帰還者の担当で、僕らの情報を根掘り葉掘り尋ねていたようだし。

 僕の父親役ってことでパッデを連れて行ったんなら、そのうち僕らがコンタクトを取ることを見越してるんだろう、って思うよ。



 僕らは、そんな風に話し合い、そして、僕は言ったんだ。


 「僕が、パリミウマムさんに付き添って貰って、パッデを迎えに行くよ。」

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