第90話 パリミウマムの当主
戸惑うミチェさんに今日の出来事を口止めして帰らせ、「学校の友人の家族に招待されたので遊びに行きます。」なんて、一応嘘ではない手紙を置いて、僕はサスティさんと連れだって、宿を出たよ。
道中、サスティさんについてちょっぴり疑問だったこと、すなわち、ライライさんの侍女だったのになんで留学の時についてこなかったのか、ってのを聞きながら、普通に歩いて行きました。一応帽子を被ってね。
「あの教練所で4年もいれば、魔導師としては大成いたします。」
そう語ったサスティさん。ちょっぴり寂しそうな瞳が印象的でした。
ザドヴァの教練所という名の施設は、その存在理由が、強力な魔導師を作るための研究施設だったんだ。
それはもういろんな人体実験が行われていたみたい。
魔道具とか、薬とか、まぁ色々使って、どうやったらすごい魔導師にできるのか、日々研究と訓練の毎日だ。
もともと、髪色の濃い子供たちを世界中から掠ってきた施設。
まぁ、一部有力者の子弟なんかのためには、立派な魔導師になるための施設として、エリート養成校って形もとっていたし、実際その機能もあったみたいだけどね。でも大半は外国からさらってきたり、国内の平民からうまいこと言ってほとんど人身売買みたいに子供を差し出させてたんだ。
そういう意味では普通の学校とかと違い、とんでもなく魔導師として強力にはなっていった。個人差はあっても、一般の同年代の魔導師なんかじゃ歯が立たないぐらいには、すごい魔導師として仕上げられていたんだ。
4年。
あの施設でそれは、正直エグい。
だって、同室の子が帰って来ない、なんて日常茶飯事で、そんな子は、何かに秀でたり、特殊な反応をしちゃったりして、人体実験の材料に連れられて行ったから。
または、思った成果が出ないからって、死んでもいい実験の材料にされたりとか。
将来の本当のエリート予備軍として在籍している一部の子以外は、強すぎても弱すぎても実験の材料になる。生き延びるには、ちょうど良い具合の成果を出すか、実戦に投入できる素直な戦士の立ち位置で無事成人し、魔導師部隊に配属されるか、だ。
そんな中4年。
外国から来た子は、あんまり部隊に配属されることはなくって、国内出身のエリートの助っ人的立場で隷属するか、教練所で手伝いや訓練をしつつ、使い捨ての駒として呼ばれるその時まで、同じ生活を続けるか、だったんだそうです。
そんな中サスティさんは、そこそこの成果を出して、なんとか生き残ったんだそうで、小さな子の世話係なんかをさせられていたんだって。
部屋のリーダーは別の有力者の子供だけど、実質のお世話はリーダーに任命された年長者がするらしくて、ずっとその役割を押しつけられていたそうです。
そんな話を聞くと、サスティさんはうちのバンミと同じ立ち位置だったみたいだね。
で、そんなサスティさんだから、魔導師として優れた人材を多く持つエルフ種の多いこの国においても、頭一つ抜けた優秀な魔導師として戻ってきたそう。
そんなこともあって、お屋敷の警護を命じられ、ライライさんの侍女を務めつつも、屋敷の戦力として重宝されることになったんだって。
ライライさんの留学について行きたい、とは思ったけど、主軸が屋敷の防衛になっていたサスティさんは、結局、国に残ることにした、ということです。
最終的にはライライさんがそうして、って言ったらしいけど、サスティさん曰く、もし、僕と会うことになったら、冷静でいられないかもって悩んでたらしく、その悩みを感じ取ったライライさんによって、残留が申しつけられた、んだって。
僕と会ったら冷静でいられない?どういうこと?
どうやらザドヴァでの過酷な日々がフラッシュバックしちゃうかも、っていう心配と、助けた僕の魔導師としての姿にあこがれと恐れを抱いていたから、どんな言動をしちゃうかわかんない、なんて言ってます。
いやいやあなた、全然普通、っていうか、やりたい放題じゃなかったっけ?ま、いいけどね。
「あなたがアレクサンダー王子ですか。いやぁ、お会いしたかった。」
セスティさんに連れられて行ったお屋敷は、ドクのおじさんのロッシーシさんちにもほど近い場所にある、でっかいお屋敷でした。
で、僕が着いて門をくぐるやいなや、中からエルフのおじいさんっぽい人が駆け寄ってきて、強引に僕の手をとり、ブルンブルンふりながら、の、さっきのセリフです。
ちょっぴり引き気味の僕を応接に案内して、お茶とお菓子を勧めつつ、何度も何度もセスティさんを助けてくれてありがとう、そう、言うんだから、ちょっと引きつつも驚いたよ。
だって、身内とはいえ使用人の一人。
その人のことを、さも身内を救って貰った、と喜んでる。
引いたけど、でも、ちょっと見直した、かも。
使用人の、しかも子供を、それだけ大切に扱っているんだ、って分かったからね。
おじいさん、だけど、ものすごい弾丸トークに辟易しながらも、それなりに好感を持った僕。
新しい情報とかも、その雑談みたいなお話しの中から飛び出してくるので油断はならないけどね。
いわく、自分の母はセスなので、あの一族とは、良好な関係だ。
いわく、ライライさんは、まさか、と、思ってたぐらい年がいったあとの子で、可愛くて仕方がなく、ちょっぴりわがままに育ててしまった。
いわく、僕のことはナッタジ商会のことも含めて調べた。とくにセスと邂逅し、セスの一族に迎えられたこと、そしてその時期と白い大地の事件が一致すること。
好々爺然としてはいるけど、やっぱり怖い人だなって、小出しにされる情報からも十分分かったけどね。セスと僕と白い大地、これを把握してるなら、要警戒人物として接するしかないよね。
ちなみに魔物の版図と人類の版図の狭間を守るセスの民は、この国の防御には重要なんだ。
で、白い大地は、昔、僕が魔法の暴走?で作っちゃった、魔素がない大地のこと。どうやら、浄化で白い大地が出来、新たに魔力を注ぐことで、普通の大地を復活、つまりは人類の版図を広げられるかも、という現象が起こっちゃったんだよね。
これが本当に可能なら、人類にとってはものすっごく有用なことだろう。てことで、僕もこの現象をなんとか起こせないかと、セスに協力することになったんだ。そうして、僕はセスの民に迎え入れられたんだけど、それは極秘ってことになってる。僕にそんなことができると知られたら、拉致されて強引に浄化&再生をさせられるかもしれないからね。そんな道具扱い、まっぴらごめんです。
ていうことも、どうやらご存じのようで・・・・
「そんなに緊張しなくても良いですぞ。私は貴方の意に反した行動は望みません。確かに樹海に人間の住処を増やせるのは魅力的ではあるが、それをたった一人の肩に乗せるのはどうかと思っておる。儂としてはセスに防衛を任せるだけでも、良しとは思っておらんのですよ。あんなもの、全国民一丸となってやるべきだ。それをせず、あぐらを掻いて権利だけを主張する現在の潮流はいただけない、そう常々思っておるのでな。」
これが、この人の本心なら、僕はいくらでも協力したくなるけどね。
甘い言葉には気をつけろ、そう常々言われてるけど、この人の言葉を鵜呑みにしてもいいのかな?鵜呑みにしたいなぁ・・・
「まぁ、こう見えてそれなりにこの国の有力者でな。もし王子に行動を強制しようとする馬鹿なヤツらがいれば、儂を頼ってくだされ。その代わり、と言ってはなんだが、ライライのことを嫌わんでもらえないかのう。付き合えなんて言わん。もし、あの子がそういうのを望んで鬱陶しいというなら、あの子に適当な婿でも与えて、王子に迷惑はかからんようさせる。だがな、サスティの話を聞いて、あの子は君に憧れてのぉ。同じ時に学生ができるはずもない年齢なのに、それでも君と同じ空気が吸いたいんだ、と、留学を決めたんじゃ。実際、サスティの言う英雄が、あの可憐な王子だとは、のう。式典で実物の君を見た時には、この年老いた儂ですら、心がときめいたもんじゃ。王子よ。下心を疑われるやもしれんが、我がパリミウマム家はみんな貴君のファンなんじゃよ。温かい目で付き合ってくれると嬉しいし、大いに使ってくれるとありがたいんじゃ。」
なんか、むずがゆいなぁ、とちょっぴり座り心地が悪いです。
けど、あんまり悪い気はしない、かも。
いざお
一つは僕の外見の話。
僕は年よりも小さくて幼く見える。これに近い現象がエルフには知られてるんだそう。
あまりに小さい頃に魔力の通り道を通しちゃうと、成長が著しく遅くなる、んだって。
エルフは普通、成人からちょっと上ぐらいまで成長すると、そのままの姿でン百年生きる。この若い姿の期間は魔力量である程度決まるらしい。で、成長が遅くなるのは魔力の通り道を通したあとから、ってのが常識なんだそうです。
そんなこともあって、生活に問題ないぐらい成長した後で、魔力の通り道を通すのがエルフ種の常識なんだって。だいたい生後13から23歳ぐらいのどこかで通す、んだそう。
そして、長い歴史の中で、ほんの小さな子に魔力の通り道を通したという事例は、それなりにあるのだそう。結果は、ほぼほぼ死亡した、らしいです。ただ数少ない成功例で、いつまでも幼くて、成長速度がすごく遅いってことがあったらしい。無事成人できれば、ものすごく長生き、なんだって。
だけどこれは伝説の話、らしいけどね。
そんなこともあって、身体の出来ていない子に魔力の通り道を通すのは、タブー中のタブーってなってるんだそうです。
「王子もエルフ種とは言わずともドワーフ種ぐらいは長生きするんじゃありませんか。ハッハッハッ。」
なんて言われました。
もう一つ。
パッデはやっぱりサンチャタの屋敷にいるらしい。
で、乗り込むなら自分が付いていく、とのこと。
サンチャタよりも自分の方が地位が上だから、迎えに来たから帰ろう、って言えば、帰さないわけにはいかないだろうし、仮に強硬手段を取られたとしても、自分がいれば、僕の正当性を認めてあげられるから、力尽くで対応しても構わない。
「王子の腕なら、あんな政治家の一人や二人どうてでもなるのでしょう。ハッハッハッハッ。」
とのことです。
なんていうか・・・・
豪快なおじいさん、です。
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