第88話 トンツーのお稽古?

 話が終わるとそこそこの時間になって、レーがミチェさんを送っていくことになりました。

 メンダンさんは、ちょっとした情報収集をしに商業ギルドに行って、帰りにご飯を買ってくる、だってさ。

 僕は大人しくお留守番、です。

 髪の毛隠したらそんなに目立たないと思うんだけどなぁ。

 でもまぁ、悪目立ちしてパッデが危険になったらダメだから、大人しく待ってることにしよう。別に、メンダンさんに怒られるのが怖いから、じゃないからね?


 てことで、一人残された僕。

 本当はね、ポーチを使って、宙さんの空間経由でリュックから出てみんなに報告しようか、とも思ったんだ。

 でも不思議だよね。

 リュックはその中に入り込むから、僕はリュックと同行できないのに、ポーチは勝手に腰のままで、異空間に入れるんだから。

 ていうか、来るとき、異空間に連れ込まれた感じだから、本当に入れるのかな、これ?


 『あくまで、リュックやポーチというのは座標を把握するためのものです。座標さえ指定すれば、空間に入ることは可能です。ただし、リュックのように大きなものですと、マスターを関連づけるのが困難です。完全に同化するように張り付いているポーチですと、ポーチを起点にマスターを座標とすることが可能で、装着したままの移動が可能となっています。』

 ふむ。僕の疑問に答えたような答えてないような宙さんの声。

 とりあえず、密着してるポーチだからできたんだ、って思っとけばいいか。理屈はどっちにしろ分かんないし・・・


 『それで、マスターはリュックの外へと移られますか?』

 『うーん、どうしよう。でもやめとくかな。ベルトでするよ。』

 『それは、メンダン氏に叱られるのを怖れて、ですか。』

 『べ、別に怖くなんて、ないよ!ただ、心配かけちゃ悪いだろ。ほら、その、従業員さんだし・・・』

 『ふっ、そういうことにしておきましょう。』

 『・・・宙さん、えらく感情豊かになって、キャラ変わってない?』

 『AIキャラは先代の希望です。マスターには心が豊かなアンドロイドキャラがふさわしいかと、鋭意努力中。』

 『いや、そういうのいらないから・・・』


 はぁ。

 精霊って、キャラ替えするんだね、びっくりだよ。

 まぁ、最初に会ったときに、僕にマスターになって欲しくって、キャラ崩壊してたから、こっちが素なのかもしれないけどね。

 ま、とりあえず、ドクには報告しておこう。緊急時以外はベルトを使うな、って手紙寄こしたけど、こっちからはOKしてないもんね。


 てことで、遠距離念話でドクを呼び出して、経過報告をしたよ。

 ドクも、状況が知れて喜んでいたけど、この遠話方法は、あまり使いたくなさそう。なんでも、携帯用モールス信号の魔道具を一対作ったから、リュックに片方を入れる、だそうです。

 今後は、トンツー会話ってことか。メンドーだなぁ。

 携帯用は、自動で書く機能を省いてるから、リアルタイムで自分でどこかに書き写さなきゃならないんだ。それを文字に起こして会話を読むことになるけど、考えただけで疲れるよねぇ。一応この世界の文字とトンツーの表は頭にたたき込まれてるから、読めないことはないんだけど、ね。


 てことで、とりあえず、あちらのリュックに入れたモールス信号用の魔道具、ポーチからピックアップです。

 ほんと、ちゃんと入ってるよ。

 ペンと紙も用意して、いつでも連絡できるように、てね。


 携帯用はね、今から送信しますよ、って魔力を流すと、対応する魔道具のランプが小さく灯るんだ。で、どうぞ、って意味で、受ける方でも魔力を流す。で、お互いランプがつくってわけ。

 それでスタンバイOK。

 左手を魔力を流す板において、先ほど灯したランプを見る。

 流す方は、小さな鍵盤みたいなのを短長をつけながら、タップする。

 受ける方は、ランプの長短を見ながら、自分で紙にその長短を書き写す。

 交互にやれば会話が完成。

 ていっても、僕はいったんトンツーで書いて、それを文字にする手間がいるけどね。


 これが上手な人は、トンツーの光を見つつ、紙には文字を書くんだ。するとリアルタイムで手紙ができあがりってわけ。そこまでできるように勉強しろって言われてるけど、生憎、そんな時間は・・・てね。はぁ。これはまた帰ったら搾られそうです。

 ちょうどこの前、リッチアーダ商会で学校通いしてるときに、パパ・ヨシュアにトンツー表記せずに文字起こしできるようにしなさい、って言われたところだったんだよね。ちなみにヨシュア、トンツー表記どころか、文字起こしもせず頭の中で光を見て文章にできるようです。ほんと、化け物じみた対応力、だよねぇ。

 ちなみに送信のときも僕、いったん文字を表記してからじゃないと、トンツー打てないよ。だから送るときも文字に起こしてから、トンツーしてます。

 だから返信遅くても、怒らないでね?


 この携帯魔道具だと魔力頼みだけど、僕とドクで会話する程度なら、一切魔力の心配はいりません。僕が遅いから時間がかかるだけ。ヨシュア並の人が二人なら本当にリアルタイム会話、だよね。でも、送られてきた魔道具はヨシュアだと使えないか。魔力不足でね。まぁ、僕が板に手を置いて、会話はヨシュアだと、完璧、なんだけどな。はぁ、ままならないです。



 ということで、何故か勉強を兼ねて、ドクの指示でいろんな報告をモールス信号用魔道具で行っていたら、メンダンさんが帰ってきたよ。


 「ほぉ、これもモールスかい?また小さくなったもんだ。」

 船に置いているのはでっかい箱だし、ね。

 普通の携帯用として宵の明星で使っているのでも、これよりちょっと大きい。一応、魔石が入っているからね。魔力と魔石のハイブリッド?的な?

 この魔道具は今回、僕とドクで使うことを念頭に作られたんだと思う。

 パーティ用のよりまだ小さくて、魔石は、むしろランプを光らせるためだけにある感じだもん。


 「て、まさかナッタジの坊ちゃんともあろう方が、トンツー経由ですか?」

 手元の紙をのぞき込んで言う、メンダンさん。

 だって、練習する時間、ないんだってば。


 「あー、まどろっこしいな。私がやりますんで、坊ちゃんは魔力供給お願いします。」

 僕を押しのけての報告ですか。

 はぁ。


 どうやら、ここにもヨシュア並の化け物がいたよ。

 本当は頭の中で文章に出来るみたい。

 けど、僕のために右手で文字を書きながら、左手でトンツーってやってる。


 なになに?


 サンチャタは、僕を養子にしようとしてる?

 ザドヴァに断ったって知ってるらしい?

 パッデには、僕との間を取り持たせようとしている?

 等々・・・


 ・・・


 どこから取ってきた情報だよ。

 ていうか、このメンダンさん、只者じゃないようです。

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