第86話 冒険者レーの話
宿について、メンダンさんといっしょにシャワーを浴びて、そのまま、ベッドに放り込まれちゃいました。まだ午前中だし、野営でもしっかり寝たから全然大丈夫なんだけど、思いの外メンダンさんは頑固で、しかも僕と同年代の子が何人もいるらしく、言うことを聞かなきゃ、自分の子と同じように接する、なんて脅されたんで仕方なくベッドに入りました。メンダンさん家はこの世界の平均的なご家庭で、暴力肯定派のようです。はぁ。
1番上は12歳、1番下は2歳なんだそう。12歳の子が船に乗ってるって言ってました。あとで紹介してくれるんだって。
ちなみに僕が被らされた帽子は、8歳の女の子のためにお土産で買ったものなんだそうです。この国独特の藁で編んだ帽子。僕とトゼへ行くとなったときに、慌てて荷物に放り込んだんだって。僕の頭を隠す必要がある、って咄嗟に思ったらしいです。
ちょっぴり大きかったのは、何年か持つように大きめを買った、んだと思いたい。女の子は成長が早いので(ということにしてくれたようです、グスン)、今の僕より指1本分ぐらい背が高いんだって。悔しくなんて、ないんだからね。はぁ。
メンダンさんは、僕をベッドに押し込んで、そのままお昼の買い出しに行きました。僕がウロウロすると目立つから、屋台でなんか昼ご飯を買ってくる、とのことです。それまで寝てろ、ってことだね。
メンダンさんは、なんとなくミモザの船乗りさんと同じ匂いがします。がたいの良い感じ、とか、特にね。
でも話していると、無茶苦茶勉強してるなぁ、と思います。
トレネーだけじゃなくて、いろんな国の有名な商人さんや扱う荷物も知ってるし、世界情勢だって詳しいんだ。
僕より僕のこと、っていうか僕の噂を知ってるよ。
色々尾ひれもついたとんでも話もあって、自分のことじゃないみたいだけどね。
どうやら僕の正体は、20歳前後に見える傾国の美女で、剣の一振りで海を割り、太陽を落とす、んだそうです。なんだその化け物?しかも年どころか性別も変わってるし・・・ハハハ・・・
そんなこんなでぼうっとベッドで転がってると、なんだかおしゃべりをしながら人が入ってきたよ。メンダンさんと、あ、レーだ!
レーはね、今は冒険者。っていうか、うちの商会の専属護衛、みたいな感じです。
でね、ママより1歳上なんだけど、元奴隷仲間、っていうか、まぁ、僕のこと産まれた時から知ってる人です。
レーは僕が産まれるよりちょっと前に、流産して子供が産めない身体になったらしい。父親は、うん、僕のと一緒。父、なんて思ってないけどね。
で、ずっと、ナッタジの奴隷として、畑仕事とかさせられていたんだけど、僕らが商会を取り戻して、将来をどうするか、って相談したとき、アンナに頼んで冒険者になりたい、って言った人の一人なんだ。奴隷仲間で冒険者になった人もそれなりの数がいるよ。あと、ナッタジ商会で働くようになった人も。
もちろん奴隷としてじゃなく、ふつうにお給料払って、働いて貰ってます。
彼らには、昔ひいじいさんが自分の集めた子供たちのために作った建物を寮に再建した場所で住んで貰ってる。僕は本邸の方で住んでるけど、同じ敷地内にあるから、ナッタジを取り戻した3歳からこっち、ずっと一緒に住んでるような感じ。といっても、僕もレーもそれぞれ別の場所で過ごすことも多いけどね。どっちにしても、親戚のお姉さん、な、感じの人です。
「レー!」
僕はいつもみたいに、レーにハグしようと、走り寄ったんだ。
だけどね・・・・
「ダー、ごめんなさい!!」
ハグする前に、土下座みたいに床に頭を擦りつけちゃったよ。
やめてよね・・・
「レー、どうしたの・・・」
「私がついていながら、パッデを・・・・」
「ううん。パッデのことだもの、自分から行ったんでしょ?」
パッデは頭が回るし、僕の大切な人を傷つけちゃダメだ、ってすっごく思ってくれてる。レーだって、タンタだって、それこそモーギンさんだって、傷つけられたら僕は黙っちゃいないよ。
ただ、状況から、誰かがパッデの顔を知っていて、兵士らしき人が強引とはいえ、他に目もくれずに連れて行った、って分かってる。なんのために連れ去ったか知らないけど、下手に逆らわなきゃ、パッデなら上手くやるだろう、って思ってる。ううん。正直いうと、自分にそのはずだ、って言い聞かせてる感じだけどね。
「はぁ。なぁ、ダー。さっきの話じゃないが、パッデの気持ちは分かるか。」
僕らのそんな様子を見て、メンダンさんが言ったよ。
「パッデの気持ち?」
「ああ。やつはダーと親子ごっこしたことあったんだろ?それがすっごい自慢でな。ふりとはいえ、未だに自分はダーを自分の本当の子だと思ってる、なんてぬかしてやがるんだよ。おまえさんのことを親として守って守り抜いて、幸せだって笑わせるのが夢だ、だとよ。そのためには自分は自分の夢を楽しまなくちゃならないんだと。よく分からんが、世界を股にかける商人になって、いろんな場所に行くのが夢で、自分は今、夢を叶えつつある。ダーのお陰で幸せだってしっかりと、愛する息子に見せなきゃならん、だとさ。そんなやつが、大事な息子が自分のために率先して危ないことしてみろ、どんだけ傷つくか。いいか。しっかりそこんとこ、考えてやれ。」
そうして、「いいから、腹ごしらえだ。」なんて言いながら、屋台で買った串を渡して来た。
這いつくばってるレーも座らせて、串を口に放り込む。
なんていうか、メンダンさんって、苦労性のパパって感じだよねぇ。
そんな風に思ってたら、キッて睨まれちゃった。まさか、読心術の使い手?なんて驚いたら、フフフ、ってレーが笑ったよ。
「ダーは小さい頃から、結構顔に出るからね。」
うそっ!
「まぁ、赤ちゃんの時はミミしか見てなかったし。私がおむつを替えてるときだって、ずっと視線でミミを探してた。」
って、そんなこと、今言うこと?
「へぇ、そんな小さいときからママ、ママだったのか。」
「ええ。もう、ママ以外いらないって感じで。泣いたらママが悲しむから泣かない、なんて考えてるんじゃないか、なんて、みんなでよく言ってたんですよ。」
「その点、多少は見る者が増えてはいるからマシ、みたいだな。ハハ。」
「ええ。他の子がお乳を欲しがって泣いてるときも、ミミがお乳が出ないのを気にしてるからなのか、ジッと我慢してるみたいで。アンナさんに言われて、他の子より注意深く見なきゃならなかったわ。」
あの・・・・
赤ちゃんの時のこと言われても・・・・
無茶苦茶恥ずかしいんですけど・・・
てか、僕、そんな問題児だったんだ・・・
ママは泣かなくて良い子、って褒めてくれてたんだけどなぁ・・・・
僕が赤くなってうつむいてるのを分かって、話を振るメンダンさんはやっぱりちょっと意地悪だと思います。
そんな、肩身の狭い昼食が終わったあと、レーが言ったよ。
「パッデさんを連れて行った兵の主が分かりました。それと、彼を指摘した娘。その者と接触に成功し、会えるよう算段しています。その・・・ダーと会うのはちょっとまずいかもしれませんが。」
「どういうこと?」
「彼女はパッデさんのことを父親、と言ったのですが、どうやらそれはダーの父、という意味だったようです。」
「それって・・・」
「はい。どうやらザドヴァに捕らえられていた者みたいです。」
「・・・・」
ザドヴァ。
濃い髪の子供たちを世界中から連れ去って、強い魔導師を育てようと研究していた国。
僕と、ナハト、バンミはそんな研究施設で出会ったんだ。
宵の明星で、集められた子供たちを救い出し、そのあとをパッデたちザドヴァの商人や冒険者たちに任せたんだった。
子供たちは、その希望に合わせて、親元に帰したり、どこかの見習いへと斡旋したって聞く。ちなみにバンミは僕らと一緒に来たんだ。
その中には、ここナスカッテ国の子供も何人かいたようだ。
その報告も聞いてたけど、その一人がパッデを見知ってたってこと?
そのとき、僕はパッデの息子を装って、行商人の子として、研究所に入り込んだんだ。
でも、パッデと一緒にいるところを見たわけじゃない思うんだけど・・・
一緒に研究所に送られた子たちぐらいしか、父親としてのパッデなんて見てないはずなんだ。あのときの子は全員ザドヴァの子だったはずなんだけどなぁ。
会えば分かるか。
レーは会って欲しくなさそうだけど、僕は会うよ。
自分のせいでパッデが危険だなんて、許せることじゃないからね。
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