第84話 トゼ、到着

 トゼの町は僕らの住む南の大陸の多くの都市と違って、木が多用された建築様式なんだ。南と同じで都市の周りには、主に魔物対策としての塀が張り巡らされている。一般的には石造りの塀だけど、このトゼの都は木の塀なんだ。

 もちろん、南の大陸だって、小さな集落なんかでは、丸太で作った杭で囲まれているような集落だってある。これは単なる能力不足。ていうか、お金か、資材か、人材か、そんなものが足りなくて、やむをえず頼りない木の杭を使った簡単な囲いで代用しているって感じなんだ。

 でも、ここのトゼの塀は木でてきているけど、ちゃんと頑丈です。場所によっては、森の生えている木もうまく使って、安心安全な塀を作っているんだ。


 だけどね、そんな塀で囲まれているといっても、よくよく見れば穴もあったり、あとは、外の森と接していて、簡単に塀を越えられる場所がある。

 特に、メインストリートから外れれば、ちょいちょいそんな場所があって、実はこっそりと出入りする人達もそれなりの数がいる。これを取り締まらないのは、統治者が知らないのか気にしないのか、それは本人に聞いてみないとわかんないけれど、どうも、見逃されてるっぽい感じかな。


 この国は、一応平等をうたっている民主主義っぽい社会構造だけど、実質は下手したら南の大陸のどこよりも、差別が行われているんだ。

 僕の国と違って、この国には僕らみたいな人種っていうのかないわゆる前世でいたような人間の他に、エルフやドワーフ、獣人、そしてそれらの混血が混在している。そのほかに昔は精霊も混ざっていたって話だけど、今は精霊は伝説の存在になっちゃってる。


 この国にはいろんな種類の人間がいて、昔は手を取り合って魔物退治をしていたんだそう。

 大まかに言えば身体能力の獣人、魔法のエルフ、物作りのドワーフに、バランスの人種。それぞれ得意分野で協力し合ってなんとか魔物と戦ってきたらしい。

 この地は、人が住む以外の場所は瘴気に満ちていて、そこでは魔獣もとんでもなく強いらしい。獣だけじゃなくて植物だって魔物化して襲ったり、大地や空気自体も魔に汚染されていて、それらをひっくるめて魔物っていうようです。

 僕だから瘴気、なんて言葉を使うけど、この世界では魔物が満ちた空間、的なとらえ方で、魔素が濃すぎて、人体に影響を与えるんだってのは、僕の独自の感覚かも。前世のゲームの影響だけどね。そう言う意味ではひいじいさんも同じような言い方をしてたみたいだし、同じ時代を生きたであろうモーリス先生も、なんとなく分かる、って言ってるよ。


 まぁ、ここでは魔物の世界と人間の世界、なんて住み分けしてて、陣取りゲームをやってる感じかな。あるときから、魔物の世界が勢いよく張り出してきて、それをなんとか止めたのがセスの先祖ってわけ。特殊な結界を作って、そこから魔物の世界が広がらないように、今でも頑張ってるんです。


 それはいいとして、この国はそんな感じでいろんな人種が協力して作られたんだけど、はじめはいろんな人種がいるから、各代表が集まって国を運営していこう、ってことになったらしい。今でもその形は基本は変わっていないんだって。

 ただ、代表でいる時間が問題だったんだろうね。

 一番長生きはエルフ、次にドワーフ、そして人間、一番短命が獣人だったんだ。

 それぞれ最高に長生きしたとして、1000年、500年、100年、50年なんていう寿命、かな?もちろん個体差があるし、混血が複雑に進んでいるから、さらに細分化すると思うけど、それぞれ純種かつ長生きした人がそんな感じ、って思われている。ちなみに統計や平均をとったわけじゃなくて、あくまで感覚だから、実際は全然違うかも知れないけどね。


 とりあえず、代表は決められた人数出すんだけどね、その交代は各種族に任されていて、いわゆる優秀な人だったり長老なんて言われる人が選出されることになる。だからこの選ばれる人は元老院の議員、なんて言われるそう。

 そういうわけだから、たとえばエルフだったら、数百年平気で代表やってるし、逆に獣人なんて、5年10年務めたら万々歳、って感じ。

 やっぱり長くやっている人がリスペクト集めるし、官僚とか兵隊さんへの影響力だって強くなる。

 そうやって、長寿種の方が偉い、なんていう風潮が出来ちゃって、獣人差別が横行してるんだ。

 それに反発して、国から袂を分かって森の中にひっそりと住む獣人の集団も多いんだ。それらはなんとなく黙認されて、なんだったら普通に交易だってしてるんだけどね。


 それの応用、っていうか、低賃金で働かされる人達なんかが、お小遣い稼ぎで森に出て魔物を狩ったりする。そのときに許可がまだ出てないような子供が出入りするのが、まぁ、僕が出入りした場所です。

 へへへ。

 以前、この町から追われたときに見つけて、もっぱら僕はここから出入りいている。僕の髪はこの町でも目立ちすぎるし、取り込むというよりは、掠われて閉じ込められる恐れまであって、なんとなく、堂々と出入り出来ない感じなんだ。


 

 この出入り口?を見て、さすがに、メンダンさん驚いていたけどね。

 まぁ、メンデンさんは普通に商人として出入りしてるから、当然港側のちゃんとした場所からしか出入りしたことないよね。てか、そもそも森側からの正規の出入り口さえ行ったことないらしいです。


 小さい穴から、身体の大きなメンダンさんは出入りが出来ないけど、そこは森と塀がほぼくっついてて、森の木を登れば枝伝いに大人も出入り出来るんだ。

 商人で船乗りのメンダンさん。大丈夫かなって思ったけど、ナッタジの商船は帆船なんだよね。一応、魔道具でスクリューでも動くんだけどね、これは魔力問題で緊急用なんだ。出港の時には、僕が満タンまで船の魔石を満たしているけど、あくまで予備の設備として使ってるらしいです。

 てことで、マストに上り下りするメンダンさん。大地に根ざした揺らがない木なんて平気だ、なんて言って登ってました。

 ん。

 彼の名誉のために枝を何本折ったとか、飛び降りたとき足をぐねって僕が治した、とかは内緒にしておくね。



 「で、密入国みたいになってますが、坊ちゃん、これからどうします。」

 「んー、ドクのおじさんは本当に苦手なんだよね。一応冒険者だし、ギルド、行く?」

 「でも、坊ちゃんは見習いですよね。」

 そうなんだよね。

 けっこうベタランのつもりでも、15歳で成人するまでは見習いで、ゴーダンのおまけ扱い。ゴーダンの指示なくして活動できないことになっている。

 ただ、一応ギルマスと面識あるし、クッデの事件で貸しがあるから、多少融通聞きそうなかんじなんだよね。

 あ、クッデっていうのは、北の方にある魔物との最前線の町。そこで魔物が溢れて、協力したんだ。そこのギルマスはドクと幼なじみとかで、協力もしたし、この国にも貢献したことになってるんだよね。

 僕らが帰ったあと、クッデのギルマスのヤーヤンさんと、トゼのギルマスのタウロスさんで色々あったらしいけど、意外にヤーヤンさんがマウントを取ったらしくて、タウロスさんは宵の明星に借りがあることになってる、てことらしいです。


 「こきつかってやっていいからな。」

 なんて、ヤーヤンさんが言ってたのを思いだして、僕はとりあえずギルドへ行くことにしたよ。

 情報、手に入るといいんだけどね。

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