第83話 トゼへの道
パッデ村とトゼの都は、ルートや行く人の能力、魔物との遭遇で違うけど、早くて5日、1旬つまりは10日以上かかる場合もあるんだよね。
僕らが普段通る場合は、そんなに急ぐこともないし、魔物を狩りながらのんびりと、だいたい7,8日を目安にしているんだけどね。
パッデ村の人達は大体5,6日をかけて、魔物を避けつつ行く、っていうのが普通みたいで、道にも慣れている、それなりの体力がある人の目安がそんな感じ。
ルートによる、っていうのは季節とかタイミングで魔物が多い場所が違うから、勘と経験?みたいな感じでルート取りをしてるんだって。そもそも街道をどこから通るかっていう選択があって、街道以外は道があるわけじゃなく、あっても獣道だから、ルートは本当に正真正銘、森の中、ってわけ。
僕ら、宵の明星だけでのんびり行く場合は、むしろ魔物を狩るのも目的になるから、歩きやすさ優先で、方角だけを確認しつつ、適当に進む感じです。
今回は、僕とメンダンさんだけ。
メンダンさんは強いといっても、ベースは商人だからね、特に陸地で無理はさせられないです。
でもまぁ、パッと見は冒険者か漁師みたいだけどね。
実際、お父さんのカッチェーさんに、船乗りとして小さい頃から鍛えられていて、海の荒くれ者たちを、簡単に一喝しちゃうような人なんです。
メンダンさんは、我が新米パパであるヨシュアと同い年だったっけ?なんかほぼ同じ世代って言ってたと思う。
ヨシュアはママと結婚して、冒険者をしつつも商会の仕事もがっつりやってくれてるからね、そういう意味でも仲よしなんだそうです。
二人とも、本当は商売より冒険が好き、だけど、やらなきゃならないことはしっかりやろう、なんて、呑みにいっては語ってるんだって。
僕は、この大陸を訪れるにしても、ほとんどエッセル号でだし、トゼはあんまり行かずにパッデ村かセスの村を訪れるぐらい。
トゼは僕にちょっかいをかけたがる人も多いしほとんど行かないんだ。
だから、トゼメインでちゃんと商売してくれてるメンダンさんたちとはあまり接点がない。
今回初めてこんなに長く二人っきりだったけど、本当に良い人です。
ちなみに、メンダンさんの子供の1人が見習いとして船に乗ってるんだって。親子三世代で船に乗って、ナッタジ商会のために力を貸してくれているんだ。感謝感謝です。
僕らは、今回は超特急で森を抜けようとしています。
道案内は、この森を庭にしている妖精たち。
どうやら、上手に魔物を避けつつ、しかも驚きの道なき道を案内してくれる。
ハハハ、本当に道なき道。
まぁ、彼らは飛べるからね。
僕はまだいいんだけど、メンダンさんは大変です。
そもそも、陸で活動することは少ないから、森を走るのは慣れてないと思うんだ。僕は森で育ったようなもんだから、木の根も、自由に伸びる枝も、それなりに避けることができるし、身体も小さいから、木々の隙間も余裕なんでけどね。
ほぼゴーダンと同じぐらいがたいのいいメンダンさん。
慣れない、でこぼこ道は大変だよね?
「なぁに、船着き場なんて、もっとガタガタで高低差のある岩のところが多いし、荒れる海で船の作業に比べたらなんてことはないですよ。それよりも、坊ちゃんがこれだけ走れることにびっくりしています。」
うん、僕も普通の10歳よりは体力だってあるし、それなりに強いつもり。ただ、見た目が幼いから、慣れない大人からしたら心配みたいです。
普通にしてたら7歳かそれ以下に見られちゃうのは、なんともしがたいです。でもね、もし魔物が現れたら、僕がメンダンさんを守ってあげるつもり満々だよ。なんたって、うちの大事な従業員さん。僕が親で彼が子供みたいなもん、だよね?
そんな感じのことを僕が言ったら、なんか生暖かい目で見られちゃったよ。でもさ、本当に、ちゃんと守れるんだよ?
間もなくトゼ、というところまで到着したのは、なんと新記録の4日目のことでした。
リュック、じゃなかった、ウエストポーチのお陰で、リュックに入れてたできたてのご飯を解凍して温めて食べたり、たっぷりの布団を出して、野営だって快適です。しかも、寝ている間は、妖精たちが見張ってくれるから、二人でグゥグゥとしっかり寝ることができたんだ。
初日はそれでもメンダンさんてば、見張りをしようとしてくれたんだけどね、妖精さんの方が探知はすごいし、僕への伝達だって早いんだもん、移動速度を考えると、しっかり休んだ方が良いって分かったあとは、ちゃんと寝てくれたんだ。
実は、昨夜休憩中、宙さんからお手紙あるよ、って言われました。
どうやらドクがリュックに手紙を入れたようです。
そうか、こんな風に通信手段にもなるんだね。と言っても僕しか取れないから一方通行じゃん。向こうでも取り出せるようになったら便利なのにね。
ん?
どうやら、専用のバッグを作って上げれば、僕が別のバッグから入れた物をその人が取り出せるようになるんだそうです。座標の指示で異空間内を管理してるから、というなんだかSFみたいな話をしてるけど、言ってることは完全ファンタジーじゃん、ハハハ。まぁ、今回は無理でも、帰ったらみんなのバッグを作って貰おう。ある程度の魔力量がいるらしいけど、うちの人達、大丈夫かな?
で、手紙です。
どうやら、昨日、無事に船が到着して、カッチェーさんはすぐに船に置いてあるモールス信号を使ったんだそうです。
これは、魔道具で便利なんだけど、基本は送信と受信でペアになってる魔道具で、それなりに大きいんだ。ま、大きい理由は魔石を使うから、なんだけどね。自身の魔力でこの辺りを賄うことで小型化できるんだけど、誰でも使う道具としては、船にあるような大きな物が必要なんです。
船の送信機の受け手も、受信器の送り手も、いずれも、商会の本店に置いてあります。だから、商会と船は2組の魔道具を使えばリアルタイムでもやりとりできるんだ。受ける方は紙とか木に刻印していくので、どっちかっていうと、使い方としては前世のFAXに近いかも。
そんな魔道具を使って、僕がメンダンさんと、トゼに向かったって話が本店にもたらされ、そしてそれが同じくドクたちにもたらされたよう。
ちなみに、ドクが持ってるのは小型化したやつで、ナッタジの家に相方の送受信機があります。うん送受信機。これも小型のもの。魔石をほぼ使わずに2台分を合体させても、15センチぐらいの立方体サイズにできてて、冒険者パーティ宵の明星の緊急連絡装置になってるんだ。
船のが1台あたり1辺60センチ程度の箱で、それが2台になるからね、そのサイズ差はビックリでしょ?
魔石を使うと魔石を設置する場所もいるし、また魔石を働かせる魔法陣だとか、魔石と魔道具をリンクさせる魔法陣だとか、まぁいろいろ余分に魔法陣がいるんだって。だから、どうしても大きくなっちゃうんだ。はい。ドクの受け売りです。
お手紙によると、ナスカッテ国の多くの偉い人たちは、僕らに喧嘩を売るつもりはないだろう、ってことです。
で、ドクのおじさんに当たるロッシーシさんて人がいるんだけど、その人は僕と仲良くしたいから、彼を使え、なんて書いてます。
ロッシーシさんていえば、昔、ちょっともめた、あんまり好きじゃない人だけど、彼は僕らを味方にはできなくても、絶対に敵に回したくないって思ってるから、大丈夫だ、ってことのよう。
同じくトゼの冒険者ギルドのギルマスでタウロスって人も、僕らと仲良くしたいから、ってことのようで、こちらも頼れば良いそう。
トゼじゃ、知ってる人は確かにこの2人ぐらいだけど、あんまり仲良くしたくない人なんだよなぁ。でも、セスまで応援頼みに行く時間が惜しい。ドクが言うなら大丈夫かな。いざという時は、頼ることにしようって、メンダンさんと決めたよ。
手紙、という形で、あちらからの指示は届きます。
緊急の時は、ベルトについてる念話の魔法陣を使いなさいって書いてたけど、あれは時間制限があるから必要最低限にするように、だって。
バッグ経由で行き来できそうではあるけど、メンダンさんを一人残せないし、この前の感覚だと、それなりに魔力を持ってかれるようで、多用するといざという時魔力切れ、なんてなっては困るんだよね。
できるところまでは、一人で、ううん、メンダンさんと二人で頑張ることにするよ。
てことで、トゼの壁が見えてきました。正規の門、からではなく、秘密の抜け穴から入ろうかな。魔物ひしめく森から僕みたいなのが手ぶらでやってくるのは、ものすっごく怪しい、からね。へへへ。
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