第82話 パッデ村へ(後)


 複雑な森の道を同行して貰うため、いつもどおりパッデ村の人とパッデは合流したんだそうです。そんな中、事件が起こったとのこと。

 村についた僕は、村人や商船団のみんなの話を聞きました。



 「はじめは、僕が見張られていたんだ。」

 申し訳なさそうにいったのはタンタっていう村人だ。

 タンタは僕も仲良くしている人の一人です。パッデも仲よしで、トゼに迎えに来てくれることも多かったみたい。道中、外の世界の話や僕のことをよく話していたって言ってました。


 「見張られていた?」

 「うん。パッデ村のことがちょっとずつ噂になってきてたんだ。妖精とか精霊とかをお祀りしてるってこととか、あと魔法のこととか・・・」



 数年前、僕が初めてこの村を訪れたときのこと。


 その頃はまだ僕は拠点の1つを守ってくれてるイエティみたいなムーちゃん家族以外獣人という存在を見たことがなくって、その時初めて普通に暮らしてる獣人を見たんだ。

 南の大陸では、いわゆるヒト以外の種族はほとんどいないんだ。なんていうか、否定されてる?的な・・・


 そんなこともあり、その時、獣人は魔法を使えないもんだってことを知って驚きました。だって、どう見ても体内に魔力を湛えていたからね。

 どうやらこれは、種族的な問題で、魔法の使い方を学びづらいってためだったみたい。魔法はイメージが中心なんだけど、そのイメージ力に乏しいみたいなんだ。

 でも工夫すれば魔力はあるんだから魔法だって使える。

 僕らは村のみんなが魔法が使えるようになるよう協力したんだ。でもって、今ではほとんどの村人が魔法を使えるんだよ。まぁ、魔力量に応じて、だけどね。

 総じて魔力量の多い人は少ないけど、魔道具を使うには問題ない。てことで魔道具を導入して、とっても豊かになってきたんだけどね。



 だけど、魔法を使う獣人がいる、っていうのが国の偉い人とかに知られるようになったんだって。

 それとともに、精霊が復活しているって噂も出てきたんだ。

 心優しい人にはできるだけ妖精とか精霊の存在を知って貰った方が良い。だってそれだけ精霊たちの力が増えるから。そう思って、僕らは精霊の存在をちょっとずつ広めようと思ったんだ。

 セスの人達はもちろん、パッデ村の人達にも伝えて、とっても喜ばれたよ。

 この国の人にとって、精霊は力の象徴なんだそう。実際、魔物との戦いで大きな戦力になっていたっていう歴史もあるし、偉い人はなんとか精霊を手に入れたいと願ってるらしい。

 邪な思いの人は出来るだけ遠ざけて、純粋に精霊たちを愛してもらえるよう、僕らは注意してはいたんだけどね。

 パッデ村の人達を中心に精霊様へお供え物をしたりとか、たまぁに、華さんの空間に連れて行って貰って親交を深めてもらったり、とか、良い関係は続いていたんだ、少なくとも今までは、ね。



 「どうも精霊を見つけた獣人が、精霊のお陰で魔法を使えるようになったらしい、と噂されているようです。坊ちゃんの功績を隠している、というのもありますが、この国の者が精霊に執着しているのは、我々の想像を超えていますからね。」

 そう言うのはメンダンさん。トゼで色々と情報収集をしているようで、そんな中、漏れ聞こえた噂らしいです。


 「はじめはタンタ君を狙ってた集団がいて、レーさんが気付いたこともあって、さっさと森に入るように言ったときのことでした。」

 モーギンさんが言った。

 当時、モーギンさんタンタさんパッデ他数名で食事をしていたときのことだそうです。

 レーさんっていうのは、僕らの仲間で商談の護衛役をお願いしていた、ナッタジ村の住人です。冒険者登録している、なかなかに強い人で、特に気配とかを察知する力が優れてるから斥候役なんかをやってます。


 「まだ成人するかしないかの女の子が急に、パッデを見て指さし、あー!って叫んだんです。その子は踵を返してどこかへ去ったと思ったら、どこからか兵士らしき者を連れてきて、あの人が父親ですとパッデを指して言ったんです。すると、あれよあれよという間に兵士らはパッデをしょっ引いていきました。」

 モーギンさんは悔しそうに言いました。


 「報告を聞いて、我々は本店と連絡を取り、一部トゼに残してパッデの所在を探るとともに、あとはミミ様の指示でパッデ村へと陸路、海路に分かれて向かいました。いやぁ、まさか、ここで坊ちゃんに会うとは思っていませんでしたが、さすがはミミ様ですな。」

 カッチェーさんがそう締める。



 うーん、謎、だよね。

 父親って?

 とりあえず、捜索班はレーさん中心にトゼで行動してるみたいだし、とにかく彼女たちに合流した方がいいのかな?

 とりあえずは翌朝トゼに向かって出発することにしようか。


 本当は一人で、って思ったんだけどね、みんなついてこようとするんだ。

 でもさ、戦力的に僕が守らなくちゃならないよね?基本商人とか普通の村人とかで、荒事は専門じゃないんだし。

 あのね、僕、正直一人でいっぱいいっぱいだよ?


 てことで、腕っぷしにも自信のあるメンダンさんだけついてくることになりました。強さだけならカッチェーさんもありだけど、これから来る商船団のこともあるし、残って貰ったよ。


 道が分かるかって?


 大丈夫。僕には妖精っていう強い味方がついているから、ね。

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