第81話 パッデ村へ(前)

 精霊様たちとお話しをした僕は、一人森の中へと飛び出した。

 この北の大陸は南の大陸よりも、少々魔物たちが強いんだ。

 だから一人で森をウロウロするなんて言うのは自殺行為、なんだけど・・・・


 僕の周りにはエアを筆頭に花の精霊の眷属?子供たち?仲間?である妖精がたくさんついて来ちゃったよ。

 不思議と妖精って魔物除けになるんだよね。

 魔力でできた生命体で、むしろ魔物が寄ってきそうなのに、真実は逆。

 それにセスの集落よりも西とか北とかが危ない地域なんで、慣れさえすれば、僕1人でもやっつけられるような魔物しか、基本、この辺りにはいないんだ。



 華さんの異空間は森の中に、人や魔物除けの結界みたいなのに包まれて存在している。リュックみたいに出入り口が移動できる結界っていうのは、ものすごく珍しいんだって。

 『グレンちゃんと会った森の精霊のおうちの入り口も洞窟だよ。』

 そう、エアが教えてくれたよ。

 妖精たちがあれだけいるのだから精霊も産まれていて、その精霊が洞窟を目印に出入り口を作っているんだそうです。今度一緒に行こうって誘われたよ。



 トゼとセスのメイン集落を繋ぐ形で人工の道があります。

 で、その周りは森。

 このナスカッテ国っていう国の町のほとんどは、首都トゼの都も含めて東の海岸沿いにあるんだ。集落を結ぶのは本来は海岸に沿って敷かれた道だけど、この道を使う人はきわめて少ないんだって。彼らの主な交通手段は船。

 海岸線に沿って町から町へと船で移動します。内陸は深い深い森になっていて、セスといった特別な集団や、あとは国から逃れた人々がひっそりと森の中に暮らすって感じかな。


 パッデ村はそんなトゼとセスを結ぶ道から途中で逸れて森を進みます。

 その森の中、1対2ぐらいでパッデ村寄りかな?のあたりに華さんの異空間への入り口があります。

 僕だけだったら、まったく道はわかんないけどね。エアたち花の妖精の案内で、実道なき道をパッデ村へと僕は急ぎました。


 宙さんの異空間はすごいです。

 僕は手ぶらだったけど、腰に宙さん作成のポーチがあるからね、本当にリュックの中と同じ空間だったよ。

 だからリュックに入れていた物は取り出し放題。

 いざというとき用に、ありとあらゆる物が入ってるから、ご飯の心配も宿の心配も要らなくて助かりました。


 僕は妖精たちと出来るだけ急ぎつつ、3日かけてパッデ村に到着したよ。

 はるか南の大陸のその中でも南の土地からナスカッテの森までほんの一瞬なのに、森の中は普通に移動しなくちゃならない。これを理不尽、なんて言っちゃ、ダメだよね、ハハハ。




 僕がパッデ村に到着した日、ちょうどナッタジ商船団の代表もパッデ村に到着したようでした。

 あのね、ミモザっていうタクテリア聖王国の北の港から、南の大陸に船で到着するまでには前世風に言うなら約1ヶ月、そしてそのままトゼの都とかはさらに半月程度かかります。パッデ村も同じくらい。ただこれは内陸に流れるフミギュ川という川を上る形で北上するんだ。



 ナッタジ商会は、タクテリア聖王国のトレネー領ダンシュタっていう町に本店を置いています。もともとは冒険者として狩った珍しい魔物の素材を、請われて売り始めたのが最初なんだって。本来はギルドを通して売るのが筋だけど、値段がつけられないようなものを持ち込んじゃって、自分で売り先見つけろって言われたらしいです。なんかね、いろんな偉い人が自分に寄こせって集まっちゃって、ギルドではさばききれなくなったって聞きました。

 と、同時に、ひいじいさんのアイデアと、ドクの知恵、カイザーの技術がコラボした、いろんな魔道具が評判になって、売って欲しいっていう人が殺到しちゃったんだそうです。ひいじさんの冒険者パーティが使っている道具をいろんな人が欲しがって、これも売るなら1本化するか、ってなったんだって。

 その頃には大商人たちとも懇意になってたから商会の形にした方がいいってアドバイスを受けてナッタジ商会ができたらしい。


 その頃から、販売って言うよりは魔物とかの素材の仕入れ、っていう名の冒険で、船を使って外洋にまで出たんだそうです。

 ドクもカイザーも北の大陸の出身で、ぜひその大陸をこの目で見たいっていうひいじいさんのたっての希望で船を作ったっていうのが真相らしいけどね。

 ひいじいさんはドクやカイザーの故郷も訪れたし、北の大陸をウロウロしたりもした。そんな中でパッデ村の獣人を救い隠れ里をつくる協力をしたりとか、まぁ、考えられないような冒険をいっぱいしたんだそう。


 で、その頃から一応はナッタジ商会の船として商人みたいなこともしてたんだ。うん、南の大陸から物を持ち込んで売ったり、逆に北の大陸で物を買い付けて南の大陸で売ったり、そんなこと。

 その商人面で支えていた人たちは、いったんはナッタジ商会から離れていたんだけど、ママが商会を復活させたあと、ゴーダンとアンナで頭を下げて再び向かい入れたのが、ナッタジ商船団の団長をはじめとする仲間たちです。

 その中でも団長のカッチェーさん。まさに海の男って感じの日に焼けた格好良いおじさんです。若い頃のゴーダン達も随分この人に鍛えられたそう。

 彼をナッタジ商会に迎え入れて、貿易を任せることができているんだ。

 で、その部下として、パッデさんも商船に乗り込んでいたんだけどね。


 その商船団の人が数名、僕が村に到着するちょっと前に、到着したそうです。


 「坊ちゃん、どうして!」

 森を一人通って村に到着した僕を見てカッチェーさんたちは目をひんむいちゃってました。驚かせてごめんね。


 商船団から村に急いで来たのは、カッチェーさん、その息子のメンダンさん、そしてパッデと仲よしの直の先輩になるらしいモーギンさんです。

 どうやら船はゆっくりと岸沿いに南下、そしてフミギュ川を北上、というルートを通ってパッデ村に向かってるらしいけど、この3人はパッデ村の人とトゼで合流して、森の道を走破してきたんだって。


 ナッタジ商船団は、基本的にはトゼで商売をしてるんだ。特に販売はね。

 で、パッデ村へはトゼである程度商売を終えて、ぐるりと海から川へと向かう。これにはほぼ一月ちかくかかっちゃうんだけどね。

 でも徒歩ならルート次第なんだけど、5日から1旬程度でトゼからパッデ村に到着する。パッデはパッデ村で産まれた利と、パッデ村が大好きで、たくさんの村人と仲よしなんだ。だから大抵は、森で先行してパッデ村でゆっくりと仲間を待つことが多い。僕も一緒の時はパッデと一緒に森を抜けるんだ。


 森を抜けるときは、通り道にある華さんの空間に寄ったりする。

 僕がいなくても、パッデは華さんを訪ねたりしてるみたい。パッデ村の人と一緒にね。


 森の中は複雑で、森を抜けてパッデ村へ行くにはパッデ村の人の案内が必須です。

 隠れ里、といっても、なかば黙認されている森の中にある村々。産物を持ち込んで売ったり、逆にトゼなんかでしか購入できない品物を買ったり、それなりに町に出入りしているんで、その人達とトゼで会って、同行して貰う感じで、森経由のパッデ村行きは行われているんです。



 そんな中、今回もパッデ村の人と合流したパッデだったんだけど・・・・



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