第80話 花の精霊の空間にて

 見知った丘の、優しい風と香りに一瞬安らいだけど・・・・


 でもさ、あーあ、やらかしてくれましたよ、リュックの精さん。

 宇宙の精です?いやどっちでもいいし・・・


 あれは、ひいじいさんリスペクトの転移?ワープ?エフェクトなんだろうけど、この全身に感じる空気感や魔力の満ちた感触は、紛れもなく、花の精霊様の異空間、だよね?

 なんの心構えを抱く時間もないままに、ワープ&別大陸に転移、ですか?

 ないない。心の中で全否定しつつ泣いちゃってるよ。

 せめて、気構えとかさ、みんなとお話し、とかさ、そんなプロセスっていうの?体験させて欲しかったよ。ブーッ!!



 と、複雑な心境で佇むこと、数瞬。

 いつの間にか、僕の前には花の精霊様と宇宙の精霊様がニコニコお茶をしつつ、僕を招いてくれてました。

 はぁー。

 なんか色々とデタラメなのは、精霊が関わると仕方ない、と、あきらめるしかない、んだろうなぁ・・・


 おいしい花の香りのするハーブティをいただきつつ、ホッと一息です。


 で、なんで、僕はここにいるのかなぁ?


 『それはマスターが腰のポーチより我が空間に入り、そのまま華の空間に移ったためです。』


 ・・・・


 いや、そういうことじゃないんだけど・・・・


 ちなみに華というのは花の精霊様、リュックだか宇宙だかの精霊はそらというニックネームにしてお互い呼び合ってるそうです。どうでもいいよ、そんなの。そうは思ったけど、以外と重要だそうで・・・・


 そもそもは、僕がグレンにグレンって名付けた時に始まるそう。

 名を付けて、個体を鮮明に線引きするのは、個の確立に重要なんだって。

 グレンだって、ランセルって言われるより、グレンって言われる方が、より個性が際立つでしょ?

 なんかね、精霊みたいに物理的な身体を持たない存在ならさらにその個の確立ってのの必要性が強くなって、確立がしっかりすればするほど、より存在が濃厚になるんだって。

 グレンですら強くなったんだ、精霊の自分たちならなおさらってことで、お互い華、宙っていう呼び名を作ったんだそう。さらにはお互いをその名で認知して仲良くすることによって、力が相当強くなったんだって。


 ちなみに、複数の出入り口を作るだけなら今まででも出来た宙らしいんだけど、僕以外の魔力を認識して出入りの権限を与えることが出来るようになったのは、名付けのお陰、だそう。

 それなら僕もこれからは華、宙って呼んだ方が、二人の存在を明確に出来ていいのかもね。

 ちなみに、華さん宙さんという二人の精霊がこういう字で思い浮かぶのは、彼らが僕の魔力や記憶を使って存在を保っているから、なんだそうです。僕の前世の記憶とすりあわせて漢字やら名前やらをつけたみたい。

 プライバシー・・・それおいしいの?状態だね。ハハハ・・・



 お茶をしつつそんな話をして、ちょっぴり落ち着いたあと、華さんが言ったんだ。

 『ダー様のお力添えを得ている獣人の村からは、多くの友が来て、私たちはたくさんの力を得ました。私たちは彼らと共に花や作物を育て、知恵や力を出し合っています。いつかはダー様に望みのお米を食べていただきたいと、仲良く研究していたんです。ですが・・・』


 精霊や妖精は認知されればされるほど力がつくし、思われればさらに力がつくんだそうです。

 そんな中、獣人の村ことパッデ村との良い関係はお互いにメリットがあるんだろうね。

 ちなみにひいじいさんも見つけて指導していたらしい田んぼがパッデ村にはあるんだ。ちょっぴり残念なのは、そこで作られているのは、ほぼほぼ餅米みたいなお米で、うるち米じゃないってところ。いつかはうるち米も探したいね、っていう僕の希望をパッデ村の人ならみんな知っている。

 どうやら、餅米の品種改良で、うるち米的な米をつくれないかと、花の精霊の眷属の妖精たちと、パッデ村の人達が試行錯誤してくれているようです。



 あのね、精霊はすっごく魔力が多いんだ。それに質も高い。そもそも物質の身体は持ってないからね。その分魔力が関与する割合が増えるというもの、みたいだね。


 魔力が多いと強烈な魔法も使える。

 人間が使うものも、そうでないものも、精霊っていうだけで、超強大な力となるし、その下位の存在である妖精だって、多くの人間より魔力が多い。っていうか、そもそも魔力でできた身体、みたいなところもあるからね。人とは存在の仕方が違うから、単純に人間より強いぞ、なんて言えないけど、少なくと魔術的な戦力としてはものすっごく有力な存在ってわけ。


 昔昔その昔、この世界には多くの精霊やら妖精がいたんだって。

 彼らと人間は共に手を取り、瘴気溢れるいわゆる魔の森からの侵攻を食い止めたりしていたんだ。

 だが、人間は残念ながら狡猾で怠惰だった。

 逆に妖精だ精霊だっていう存在は、純粋で疑うことを知らなかった。

 一部の人間が、精霊や妖精の、質の良い魔力を、魔の森からあふれ出てくる魔物への対抗手段として考え、強引に前線に送ったり、逆にその魔力を自分の物にせんと、精霊を自分の手元に閉じ込めたり、そんなことが横行したんだって。

 いつの間にか、ヒーローだった心優しい精霊たちは、数を減らし、存在を保てなくなっていった。人間と乖離し、徐々に姿を消した精霊。今となっては、もう物語の住人としてしか、ほとんどの人は思っていないんだろう。



 花の精霊様は、そんな中、人間ではなくて、戦いの中顧みられず、それでもなんとか咲き誇ろうとした花の気持ちが凝って生まれたんだって。そう人間ではなく、花々の願いで産まれた精霊様。

 ただただ、純粋に咲き誇りたい花々の願いが、森に集まったのは、奇蹟、みたいなもんだろうね。まぁ、大昔にはそんな風に産まれた妖精はたくさんいて、そんな妖精が集って精霊になったから、精霊だって数え切れないほどいたんだそうです。


 まぁ、花々の願いだけでは、せっかく産まれた精霊様も、なかなか力を付けられなかったのも事実です。そんな中、僕は妖精たちに出会い、精霊様のもとにいざなわれ、花の精霊に魔力を請われるままに与えたんだよね。で、無事力を蓄えた精霊様が、自分の住まう空間を作り出した。

 うん、それが今僕がいるこの場所です。


 『かの村が精霊と近しいと知った人間が村人を脅迫、ここへと案内させようとしたようです。そこにダー様の眷属であるパッデ様が居合わせ、なにやら小競り合いがあったと聞きます。なぜかパッデ様だけがその人間どもに連れて行かれ、そのまま戻っておりません。ダー様の手で、彼をすくってもらえませんか。パッデ様は、こちらに来る度、多くの花々を連れてきてくださいました。おかげで、この世界はより豊かに成長することが出来た。パッデ様は我々の友です。お願いです。友を助けてください。』


 パッデがそんなことをしていたなんて初耳だけど、華さんにお願いされるまでもないよね。

 パッデは僕の仲間だもの。

 どこに連れて行かれて、どんな目に遭っているのか・・・

 考えたら恐ろしい。


 『華さん、呼んでくれてありがとう。当然パッデは僕が助けるよ。パッデは僕の仲間、家族なんだから。』


 僕は、呼んでくれたこと、情報をくれたことにお礼を言って、この世界を飛び出しました。


 まずは情報収集だ。

 パッデ村へと、全力疾走です。

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