第79話 リュックの精は宇宙の精

 『マスター、華が呼んでいます。』

 僕がパッデやパッデ村、花の精霊様たちのことに気をもんでいると、念話が届いたよ。これはリュックの精、もとい、宇宙の宙と書いてソラと読む、の宇宙の精(本人自称)からの念話だ。


 『華?』

 『花の精霊がマスターに会いたいと。』

 『ひょっとして、悪い人に見つかっちゃった、とか?』

 『いえ。マスターが使用人Aの処遇を検知した段階で接触して欲しいと請われていました。』

 『使用人A?・・・て、パッデのこと?あのね、パッデは仲間だからそんな言い方は・・・』

 『私にとってマスター以外はABCです。問題ありません。』

 ・・・・

 悪い子じゃないんだけどねぇ。

 ひいじいさんが、宇宙船のAIをイメージして出来ちゃった子だから、ちょっとばかりクール過ぎるんだよねぇ、ハハハ。

 

 『ということで、このまま、花の精霊との会見を所望します。』

 『いやいや、会ってって言っても僕、タクテリア聖王国の、その中でも南にいるんだよ。すぐに会える距離じゃないよ。』

 なんたって、花の精の居場所は、遠く北の大陸の森にあります。


 『問題ありません。私がいます。』

 『へ?どういうこと?』

 『私は宇宙ですよ。星を包み込んでいます。』

 『いや、そもそも別の次元だし・・・』

 『マスター。先代はノリを大事にしていました。もっとノってください。』

 『・・・』

 『はぁ。先代よりも若いのに固いです。ま、いいでしょう。マスター。私は華と友誼を結びました。お互いの次元ぐらい簡単に行き来できます。さ、さ、早くリュックに飛び込んでください。』

 『いや、そんなこと言ったって・・・』


 言葉と一緒にイメージっていうか、理屈も飛び込んできたよ。

 本当に、繋がってそうで、ビックリです。


 ちなみにこのリュックは、この世で唯一の無限収納バッグ。異世界モノでおなじみのマジックバックとか、そういうやつなんだ。


 どういう経緯か聞いてもよくわかんないんだけど、ひいじいさんが、せっかく異世界に転生したのにマジックバックは必須だ、と、出会った精霊・・・の素?、赤ちゃん?みたいな子に願ったんだって。


 団塊世代で、機械モノ、っていうかSFも好きだったひいじいさん。

 異空間=宇宙空間と仮定して、世界を創って欲しいなぁと思ったみたいで、その思いをもとにつくられたのが、リュックの中に広がる宇宙、なんだそう。

 てことで、宇宙サイズの異空間がリュックの中に広がっているみたいなんです。

 まぁ、宇宙サイズがどのくらいかはわかんないけど、巨大な船だって簡単にしまえます。

 それと、時間停止の機能があるわけではないけど、宇宙空間は真空かつむちゃくちゃ寒いってことで、ほとんどのものが瞬間真空冷凍保存状態。食べ物でもなんでもいつまでも新鮮です。

 よくあるマジックバックみたいに入れ立てほかほか、ってのは無理だけど、温めるだけで美味しく食べられるんだ。

 あと魔物の保存。いつまでも新鮮です。


 ただ、宇宙空間で生存、とかは無理だから、僕以外はリュックには入れないんだ。宇宙空間の餌食になっちゃうからね。

 一応、安全装置っていうか、精霊さんが許可しなきゃ入れないけど、僕の魔力を纏っていれば弾かれません。だから、僕は小さい頃はたまに転がり落ちて何度か大変な目に遭いました。僕の場合は魔力が自動で纏う感じで、そもそもこの空間の維持に僕の魔力が使われているらしくて、とりあえずは無事、なんだけどね、意識して厚く魔力を纏わなきゃ、色々体調に問題が起こっちゃう怖い空間でもあります。



 てことは、今まででも分かっていたんだけどね、今分かったのは、精霊がお互い認めたなら、それぞれの異空間をまたいでの交流が可能なんだってこと。

 とくに同じ魔力を、その維持に使っているなら距離も何も障害にならなくて、眷属っていうのかな?もともと1つだった妖精たちと同じレベルで交流できるんだそう。

 リュックと花の精霊は、どっちも僕の魔力を大量に与えた精霊様だからね、どうやらしょっちゅうお互いに行き来しては、仲良くしているんだそう。

 ・・・・っていうイメージが今、僕の頭に降ってきたよ・・・・


 『ということで、リュックに入って、そのまま華のもとへと向かってください。』


 はぁ、何が、なのかなぁ?


 ビックリ情報でちょっと、まじびっくりしてるよ。

 だってさ、それってワープとか転移とか、そんな話でしょ?


 『ワープです。』

 僕の考えを読んだのか即座に声がしたよ。ハハハ。SFメインの精霊さん、だしねぇ。

 でも、行くとしたって僕だけ?役に立たないんじゃないの?


 『先方が望んでいますので問題ありません。それとも要請を拒否しますか?』

 『ちょっと待って。』


 僕は、みんなに、今の話をしたんだ。

 ナスカッテ国にあるはずの花の妖精が僕と会いたいからって、リュックの空間を通って行ってくる、・・・て、ハハハ、話してても自分でもよく分からないや。


 『大丈夫だよ。ダーちゃま、エアも行くよ。てか、待ってるね~』


 姿を現したエアがそう言うとすぐに消えたよ。

 うん、エアは本体の精霊さんとの距離とかない、んだったよね?

 さっき、リュックの精から感じたイメージでは、二人の精霊同士の距離感も妖精と精霊のように、あってないようなもの、だそう。


 どっちにしても、パッデはナスカッテ国のどこぞの誰かに捕まっちゃってるようで、その連絡をナッタジ商会のトンツー網、ていう、まぁモールス信号もどきの魔道具で船から本店へともたらされ、トレネー支店でいろいろやってるママたちの元へもたらされ、そして間髪を入れず、何かを察知したママが僕へと、念話の魔道具を通して僕に知らせた、って経由だろう、というのが、みんなの意見です。

 で、ママがあんな風にいうなら、これは僕、行くしかないでしょ、な話になっちゃいました。


 本当にリュック経由でワープなんてできるのかなぁ。

 正直言うと、リュックに飛び込むのはちょっぴり苦手。生身で宇宙空間に飛び出すようなもんだからね。油断すると、マスターのはずの僕でも息苦しくなったり頭痛や吐き気がしたり、凍えそうだったり沸騰しそうだったり・・・

 まぁ、すべてはリュックの精次第みたいで、機嫌が良ければ楽しい宇宙遊泳、ではあるんだけどねぇ。



 けどさぁ、帰りはどうするんだろう。僕パッデたちと船で帰るのかなぁ?

 僕がいない間リュックはみんなにお任せだし、みんなの側に置いて貰ってたらリュックから出れるのかな?

 あれそうなると、僕手ぶら?

 必要な荷物を手持ちしなきゃなんない?


 『大丈夫です。予備の鞄、作れます。』

 え?

 この世界で、唯一無二のもんじゃなかったっけ?


 『そもそもこの空間は私が創ったもので、リュックは出入り口の目印に過ぎません。出入り口が1つでなければならないなんて誰が決めました?ナンセンスです。』

 ・・・・

 『ねぇ、ひょっとして、いっぱいリュックとかの出入り口創れたり?』

 『当然、できます。』

 『じゃあ、僕以外の人がそのリュックを出し入れしたり、とか?』

 『条件付きで可能たり得ます。』

 『え?』

 『そもそも1つにしようとしたのは、先代ですから。』

 『・・・・いやいや言ってよ。』

 『そのリュックである必要はない旨、何度かすでに告げています。』

 

 確かに、そもそもこのリュックは、ひいじいさんがオリジナルで作らせた普通のリュックだって聞いたよ?そもそもリュック自体珍しい形の鞄で、今ではその便利さに、冒険者とか旅人の定番になってるバッグだってのも聞いた。

 もともとは付与みたいな形で、何の変哲もないリュックを出入り口にしたんだって聞いたことがある。だから鞄がつぶれたら別の鞄でもOKっぽいことは聞いてたんだけどね。


 でもさ、複数作れる、なんて聞いてないよ?

 いや、確かにこのリュックじゃなくていいなら複数可って当然かもだし、それに昔、いっぱい作れたらいいのにって思った時に、できますよ、って言ってた。

 でも、いざやろうって言ったらやっぱり無理って言ったよね。

 アレは7歳の誕生日の後だ。

 みんなにプレゼントのお返しに、って、作ろうとしたら、無理って言ったじゃん。

 まぁ、できるなら嬉しいけど。


 て、条件付き?


 『この空間はマスターの魔力と私の魔力の結晶です。基本的に私たち二人以外が入ることはできません。しかし、座標を固定し、そこからの出し入れをする仕様に作ることは可能です。その場合固定座標に魔力を登録した者のみが、その座標から出し入れできます。例外はマスターで、マスターはすべての座標を管理可能です。』

 『?・・・それってどういうこと?』

 『つまり鞄1つに付1名を登録すれば、その者は先代のいうところのマジックバックとしての使用が可能だということです。基本的にはその者が入れた物質を出すことができます。例外として、マスターかマスターの指示を受けた私が、物質の座標移動を行うことは可能。それにより、他の鞄の中の物を取り出すこともできます。マスターはすべての鞄からの出し入れが自由。他者の鞄の出し入れも、別の鞄に入れた物を異なる鞄から出すことも可能。』

 それって、みんなに自分のマジックバックを持ってもらえれば、そのバッグに関しては出し入れ自由、僕がいればそれを共有できる、ってこと?

 すっごく便利なんじゃない?


 『ちなみにマスターの魔力が染みている物なら簡単に出入り口にできます。たとえば、その腰に付けているポーチ、出入り口にしてみましょうか?』

 『え?そんなことができるの?』


 ベルトには小さなウエストポーチを下げてます。ちょっとしたお金と魔道具用の魔石を入れてるぐらいのもんだけどね。

 これはね、冒険者スタイルの定番でもあるんだ。

 戦うときとかに、大荷物を置いて、逃げなくちゃならないときがあるからね。そのためにも換金可能なものとか、簡単な食べ物なんかは身につけておくもんなんです。


 ずっと僕がベルトから下げているウエストポーチ、当然、僕の魔力が染みているんでしょう。

 僕が『できるの?』って念話で言い終わるかどうかのタイミングで、どうやらやっちゃったようですね。


 うわぁ!!


 と、思ってたら、リュックの精にウエストポーチの中に引きずり込まれたよ。

 ん?

 なんかややこしいね。

 宇宙の精の本拠地に引きずり込まれた?


 ま、いいや。


 ウエストポーチから入ったその空間は、僕のよく知るリュックの中と同じ場所で、AIっぽいその精霊が近づいてきたよ。

 『ワープします。』

 そう言うと、

 ・・・・・

 ハハハ、ベタすぎぃ!


 なんか昭和時代のSFアニメみたいに、遠近法みたいな線が色とりどり流れすぎて行く、なんていう、映像の中に放り込まれた、って思ったら、僕はいつの間にか、見覚えのある丘に佇んでいたんだ。

 

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