第78話 パッデ村のパッデ

 ママから遠距離念話が来たよ。

 遠距離念話は、僕とママ、僕とドク、そして僕とアーチャができる感じ。劣化した会話なら他でもできなくはない、けどね。

 他の人との会話は、基本的にはモールス式の魔道具で行ってる。

 魔力も魔石も、ひょっとしたら文章としての正確さも、こっちが優れてるからね。

 モールス式の方は、前世のモールス信号、いわゆるトンツーを参考にして作ったんだ。この世界の言葉も英語みたいに記号の組み合わせで表記する。だから、トンツー式はお互い、組み合わせが分かれば誰でも使える便利さがある。

 一方、念話。

 こっちは、感情が乗る。

 だから、ニュアンスとか、気持ちを届けるのは優れてる。

 まぁ、電報か電話か、って思ってくれたら良いかもね。


 魔力コストを考えて、ママたちとのやりとりも基本的には遠距離念話は使わない。だってお互い持ってる魔石がなくなると、会うまで補充ができないからね。相手の魔力の魔石がいる、これが一番大変なんだ。



 ママとヨシュアは、今、本拠地のトレネー辺りでお仕事しているんだ。

 自分の商会の仕事だけじゃなくて、今回の件で商人たちがどう動いているか、王都のギルドより地方のギルドの方がわかりやすい、ていうか、少なくともガイガムの実家であるレッデゼッサ商会あたりから何かわかんないかと、探ってるみたい。

 どうやら、怪しげな噂はつかんでいて、その報告は受けています。

 ま、それは後ほど、ね。



 で、今回ママが念話してきたパッデの話。

 パッデっていうのは2つ意味があります。

 まずパッデ村。

 これは北の大陸にある隠里、というか、差別に苦しむ獣人たちが作った村で、この村を作るに当たって、うちのひいじいさんことエッセル・ナッタジが大いに貢献したという。

 ひいじいさんのおかげ?で、見た目、昔の日本の村っぽくなってます。


 この村から、北の大陸の都トゼに行く道を知っているのは、この村の人達だけ、なんだけどね。ある程度の自給自足もできるように作った村で、国には内緒の村でもあります。


 北の大陸も巨大な森林に覆われていて、その中にある村だから、ほとんど他の人に知られてはいないんだ。

 とはいっても、彼らみたいな村って結構森の中に点在しててね、国公式の町と交易がないかっていうと、まったくないわけじゃないんだ。

 まぁ、たくさんの黙認の村がいっぱいある場所、ではあります。

 そんな村の1つがパッデ村、なんだ。


 そんなパッデ村、ひいじいさんが開拓に協力しただけあって、特殊な場所になってます。なんせ日本昔話の世界。餅米だけど田んぼがあるし、でっかい土の中の虫製だけど蜂蜜もどきがとれます。

 近くに竹があって、竹製品は僕が教えたよ。

 外国の商人にとっては欲しいものがいっぱい。

 逆に外国からの製品は便利で珍しくてパッデ村も大助かり。しかも外国製品を売れば儲かる、ってことで、隠れ里同士の中でも、なかなかに地位を築いてきたようです。


 そんな心のふるさとでもあるパッデ村は、元日本人の心を持つ僕にも大切な場所。彼らがちょっぴり僕を神様扱いするのが玉に瑕だけど、僕も何度か訪れた数少ない場所でもあるんだ。セスの村に行くときは、必ず寄る、そんな場所です。


 で、そんなパッデ村、もちろんひいじいさんだけじゃなくて、訪れた人はいました。若かりし頃のパッデの両親もその一人、うん二人?

 どうも海難事故中にたどり着いたみたいだけどね、そのとき身重だったパッデのお母さんが、どうやらパッデをこの村で産んだんだそう。で、パッデっていう村の名前を名付けられたんだから、とっても縁があるよね。


 見習いから行商をしていたパッデと、僕はパッデの故郷であるザドヴァ国で知り合ったんだ。なんだかんだでお世話になった僕だけど、パッデの夢が海を越えて世界を渡る商人になることだ、って知った僕たち。

 僕たちナッタジ商会が海外=パッデ村とかの産物を扱ってるのも知った、しかもあこがれのエッセル関係者と知ったパッデ君、自分の商会を廃業して、うちの商会に来ちゃったんだ。

 今では、船を1つ任せて、主にナスカッテとの交易を行って貰ってます。



 てな感じの状況の中、ただいまパッデ村へと遠征中だったパッデ。

 なにやら村で精霊絡みのことが起こって捕縛された、っていうことみたい。

 ギルドを通じて連絡が来たようだね。


 ちなみに、トゼの都から森の方へと進む街道。

 メインの行き先はセスの村、って言われる、セスの大集落。

 本当は、セスの村っていうのは点在するセスたちの集落を全部指すんだ。

 けど、都とかセス外部でセスの村っていえば、トゼから敷かれた街道を突き当たった先にある集落のことを差すんだそう。

 この集落は長老、って呼ばれるようなセスの指導者が色々お話しをする場がメイン。セスの活動は点在して、奥の魔物溢れる瘴気満ちた森が、人々の住む場所へと勢力を広げないように対処すること。

 その昔、大いなる戦いにおいて、大結界を作り、なんとか瘴気の森の侵攻を食い止めた。その結界を維持補修しつつ、魔物を討伐する、大変な作業をセスが担っている。ううん違うな。そういう作業を担う者こそセスと呼ばれ、そこに部族とか種族とかの垣根はないんだ。僕は長老たちに新たなセスの者としての誉れを与えられた、らしい・・です。



 で、トゼとセスの村を結ぶ街道沿い。

 その森は深く、広いんだけどね、その森の中に、公式、非公式の集落がたくさんある。その集落同士は互いに付き合いがあったりなかったり。

 もちろん非公式の集落なんて国からは認めがたいからね、その場所を教えるとご褒美があったりして、密告もしょっちゅうらしい。


 国にバレると税金がかかるし、なんだったら労役も課されるそうです。

 その代わり、魔物の被害には対処してくれる、ことにはなっている。

 ただ、こんなところにある村だ、魔物に襲われその報告をしても、軍が間に合うなんて奇蹟だからね。

 だったら、自分たちで対策する方が何倍もマシってことのようで、バレたら移動、が原則になっちゃってます。



 で、そんな森の中、魔物もいるけど実りも多い。

 昔は花が咲き乱れる場所もたくさんあったのだとか。

 魔物が増えたときに、きれいな花畑はどんどん消失してしまって、それを悔しく思う花々の思いが、あるとき大きくなり、そこに魔素が溜まって、何年もかかって花を願う思いが凝ったんだって。

 そうして妖精だけではなく精霊まで産まれた。

 その精霊と出会ったのは、僕がトゼの都を脱出して、森を抜けるその途中だったんだけどね。

 僕は花の妖精に請われ、精霊に魔力を与えたんだ。

 そしてお友達になった精霊。

 その精霊は森の中に別の世界を創っちゃった。

 花が咲き乱れる空間は、精霊と僕の願いが合わさった異空間。

 精霊って異空間を好きにできる能力を持っているんだってのを、そのとき知ったよ。で、僕のリュックもこの異空間と本来は同じ物だってことも。


 リュックはね、ひいじいさんが、異次元と言えば無限収納バックだっていう思いと、SF好きの思いが凝って、人と共にありたいっていう願いが凝ってできた精霊と合わさった、そんな物なんだそう。

 てことで、2つの精霊が僕の魔力を元に元気に活動している状態が、今の現況です。



 てことで、ママの言ってた精霊は、トゼからセスの間にある森に生息する花の精霊のお話し、なんだと思うんだ。

 ちなみに精霊って言うのは思いが凝った物。

 だからね、精霊を祀って貰うと力がみなぎる、らしいんだ。

 逆に忘れられちゃうと、消えちゃうんだって。

 てことで、セスやパッデ村の人々を中心に、ひっそりと精霊の存在を広めてはいっていたんだよね。心優しい精霊思いの人は、時折この異空間に招待したりして、随分愛されてるって喜んでくれてるんです。


 ただ、精霊っていうのはとっても強い力を持つ。

 で、過去の魔物との戦いの時には、人と共に戦ってたんだそうで、その力は大いに人類の役に立ったんだ。だけど、力だけを欲する偉い人、ってのがどうしても出てきちゃう。精霊をリスペクトせずに使役しようなんてバカがいっぱい出て、使い潰され消えちゃった精霊や妖精がいっぱいいたんだって。

 精霊は強いけど、その存在を支えるのは巨大な魔力なんだ。魔力を与えることは重要だし、それは、精霊を大切にする気持ちでも代用できるもの。なのに精霊をモノ扱いして、リスペクトが消えちゃえばどんどん精霊が弱体化するのは当たり前。

 多くの精霊は、人々の前から姿を消し、さらに魔物と人類との戦いは苦境を迎えたんだそう。



 そういう歴史があるって僕は聞いてたから、パッデが精霊の件で捕まったって聞いて、ヤバイって思ったよ。

 だってさ、トゼの官憲に捕まったってことは、強引に精霊の所在を聞き出そうというつもりなんだって思うから。

 パッデは絶対教えないだろうけどね。

 それを精霊が黙っているだろうか。

 パッデは無事に過ごせるだろうか。

 僕の心は不安でいっぱいだ。

 いったいどうすればいいんだろう?

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