第77話 牢の4人

 端的に言うと、全裸で放置させられていた男女計4人。

 うち男の人3人は牢屋の中で死んでるのか?な状態。けど、どうやら胸が微かに上下していて、生きてはいるのだろうとのこと。

 で、行方不明者の似顔絵っていうか身体的特徴を覚えていたアーチャとゴーダン。なんか、王都で捜査するに当たって、一部でも良いから見つかれば極力判明するように覚えていたアザとかほくろの位置を総動員して、行方不明者のうちの3人だろうって、推測したみたい。顔は・・・骸骨みたいで判別不能、なんだって。


 一方、女の人。

 ほとんど魔物みたい、だって。

 一応メイド服をつけてたと思われる。

 何でかっていうと残骸らしきものがボロボロになって床に落ちていて、引きちぎった残りだろうっていう、襟の部分だけがボロボロのチョーカーみたく、首に張り付いてる状態だったから、だそうです。


 でね、はじめはアーチャが近づいたんだそうです。

 だけど、まったくの知らんぷり。

 牢屋に近づいたんだけど、それも目に入っていない様子で、裸ん坊だし、様子も変だし、なんかよだれだらだらで、ウーウー唸ってるし、で、肩を掴んだけど気にもしない。すぐに正気じゃないってのは分かったんだそう。

 ただ、肩を触ると、突き動かされたように、側の机に置かれた薬みたいなのと、水差しを持っていって、牢屋を開け、中の3人の口に薬と水を押し込んで、外に出てきた。

 触られると条件反射でこうするんだろう、ってドクとかモーリス先生が言ってたよ。


 そんな様子を見てた、ゴーダンとアーチャ。

 一応その時はバンミが見張りで少し上の方にいたみたいなんだけど、女も含めて救出するかどうかと相談を始めたらしい。

 てことで、その話にバンミが加わるため階下に行くと、そのとたん、今までどんよりとした目で、焦点が合ってなかったみたいだった女が、クワッと目を見開いたんだそう。

 で、まさに獣の勢いでバンミに飛びかかり、服の上から、その・・・男の子の象徴をがぶりっ!だったそうです。

 アーチャとゴーダンで慌てて引きはがし女を気絶させたそうだけど、この二人がかりでもなかなか気絶させるのに手間がかかったみたい。

 女は強引に剥がされようと、殴られようと、まったく無視で、ただただバンミのアソコに食らい付いて離さなかったっていうから、怖いよね。


 とにかく、地下の人を救出するにせよ、裸ん坊だし服とかもろもろ用意もいる。 

 女の人がなぜバンミにだけ反応したのかも謎だし、ってことで、いったん戻ることにしたゴーダン達。アーチャが僕に念話して帰ることにしたってことのよう。

 アーチャがご機嫌斜めだったのは、地下の状況プラス女の子が自分に反応しなかったから?なんて、冗談に言ったら、違う!って本気で怒られちゃったよ。

 どうやら、少なくとも自分に対して無抵抗な女の子を、しかも筋肉1つない女の子を殴っちゃった自分が気に入らない、みたいです。他に方法がなかったか、って、悔しかったみたい。

 ゴーダンは、ああ普通じゃない状態の人の前では、人間なんて恐慌状態に陥って当たり前、自分も背筋が凍ったぞ、なんて言ってるよ。

 手加減したとはいえゴーダンの手刀で意識を狩れなかった、というのは、なんかまともじゃないのを実感するお話しだね。


 バンミは・・・平気な顔をしてるけど、怖くなかったのかなぁ。僕ならちびっちゃってたよ、きっと。



 そんな話をしてた矢先、グレンから念話があったよ。

 ファーラー男爵のお屋敷の近くに隠れて、何か動きがあったら教えて欲しいってお願いしてたんだ。

 最近はエアがよくグレンと一緒にいて、グレンはもちろん、なぜかグレンにくっついて来ちゃってるキラキラと仲良くしてて楽しそうだ。妖精同士、何かあうんだろうって、僕も嬉しいよ。


 『ダー。仇が屋敷に入ったぞ。』

 『仇?』

 『父の仇だ。父にゲンヘを付けたやつと、父を殺したやつ。他に殺し損ねたあの場にいた人間が何人か。あの匂いは間違いない。他にもたくさん人間が入って行ったぞ。』

 『分かった。グレンはそのまま見張ってて。』

 『我は、仇を討ちに行くぞ。』

 『気持ちは分かるけど、ちょっと待って。いろいろ知りたいから、お願い。』

 『ふむ。仇は我に寄こせ。』

 『はぁ。分かったけど、僕が言うまで待ってね。できれば殺したくないんだけど・・・』

 『ふん。待つだけ待ってやる。』

 プチン、って感じで念話が切れちゃった。ちょっと怒ってるみたいだね。やれやれ。



 僕はみんなに報告。

 慌ただしく、男爵の屋敷に逆戻り。

 って、戻ったのは、ミランダ、ラッセイ、アーチャの3人だけだけどね。

 コソッと屋敷に入る方法は、昼間の調査で分かってるようで、どんな悪巧みがなされてるのか、3人で忍び入って聞いてくる、だってさ。


 3人おでかけ中に、僕はバンミの治療。

 僕はあんまり上手じゃないし、場所が場所だけに患者本人が僕の流した治癒の魔力をコントロール、って、まぁ、いろいろ大変な状況に。そこの詳細は内緒。バンミの名誉のためにも、ね。

 ドクやモーリス先生の協力もあって、無事バンミが生還した、とだけ報告します。


 僕とバンミは、ちゃんとしたご飯のあとで(て僕は男爵邸でまずいご飯食べたけどね。時間と味のお陰でちゃんと食べたよ。)、とっとと寝室に放り込まれちゃいました。あとは大人の時間だそうで・・・

 フフフ。バンミは成人してるけど、まだまだこっちのお子ちゃま組だね。




 朝。



 僕たちが起きたときには、偵察組が帰ってました。

 どうやら悪巧みはちゃんと?行われたらしい。

 「いつもどおり」の作戦の次回をいつやるか、っていうお話し合いだったらしいです。


 数名の男女が集まったのは、あの絵の掛けられた広場だったそう。

 関係ないけど、正面の絵は構図が少々変わっていて、魔物にがぶりと若きファーラー男爵が囓っているところ、その首を若きマッケンガ先生が切り落としている、まぁマッケンガーリスペクトな作品、だそうで・・・

 やっぱり、主家が来てるときとか、忖度できるんだね。

 はいそうです。

 悪巧みのお話しを引っ張ってるのは、主家の次期様、レージラム、だったんだって。

 これで一味は出そろった?


 お話しの中で、どうやらメイドがアザを作って気絶させられてた、って話も出たそうです。ひょっとしてバレた?なんて思ったけど、また暴れてどこかで打ったのが打ち所が悪かったんだろう、って感じで流されたんだって。

 雰囲気的にしょっちゅうあることみたいで、アーチャがぶち切れてたよ。あれだけのことされなきゃ気絶しないのにしょっちゅうあるってことは、誰かが気絶させるようなことをしてるってことだ!なんて、まぁ、こっちが怒られてる気分になるぐらいの怒り、でした。


 「いつも」の中身は、どうやら、ほぼ死にかけ状態の行方不明者を、生きてるゲンヘの群れに放り込む算段、てことのようで。


 第一段階で、栄養補給。

 ある程度からだが戻った段階で、魔力補給。

 魔力が溜まったら、倉庫にしばし放置。

 ゲンヘに吸われ干からびる直前に救出。

 現状に戻る。

 まぁ、そんなことのようです。

 彼らの話では7日から10日かけて、薬や流動食で身体を戻して行くみたい。

 あとは1日仕事、らしい。

 まさかの、人間を材料みたいに扱ってる、ようで・・・

 まったく気分が悪くなるね。


 どうやら、一緒にいるメイドは、魔力の通り道が壊れちゃってて、魔法が使えないタイプの人のよう。

 ゲンヘって魔力に反応するから、ある意味安全で、彼らの世話とゲンヘの群れの中での処理を担当させているようです。

 彼女も一緒に栄養補給されるようで。

 悪巧み中の話を聞いていると、4人とも、もう意志はなさそうですね。元に戻るか心配だけど、救出はする、僕らはそう決めたよ。


 とりあえず、骨と皮の状態から、どうやるのか、1旬程度である程度体型を戻すノウハウがあるのなら、ってことで、偵察しつつの救出はメイドさん込みでゲンヘの倉庫へ放り込まれた時、って決まりました。

 もう少し早くても、って思ったけど、モーリス先生曰く、そんな状態から体型を戻せる方法があるなら知りたい、とのことなんだよね。この世界で、それだけの栄養補給方法は、聞いたことがない、だそう。

 その方法が危険だって思ったら救出時期を早めるとして、そのかん情報集めをしよう、って事になりました。


 そんなお話し合いをしていたら、ピカーンてベルトが光ったよ。


 僕のベルトは、いっぱいの魔道具が仕込まれてます。

 僕の魔力も使った形で、これだけの数の魔道具を、これだけ小さくして付与できるのは、ドクの技と僕の魔力があってこそ、のスーパーなベルトです。


 で、ピカーンて光ってるのは、ママからだ!

 ママが念話で話してきてるんだよ。

 この世界、念話は魔力量に寄るし、触れずに出来るってだけで、相当なすごい魔法って事になってる。

 けどね、ドクが魔石と通話者双方の魔力を上手に組み合わせて、特定の人同士会話できる魔法陣を組み込んだんだ。これはママの魔力を貯めた魔石を僕が持って、僕の魔力を貯めた魔石をママが持って、ドクの魔法陣を介して初めてできる遠距離念話の魔法、なんだ。


 『ダー、今大丈夫?』

 『うん、ママどうしたの?』

 『あのね、パッデがパッデで大変なの。』

 『ん?』

 『パッデがパッデ村に行ってるんだけど、ナスカッテの兵隊さんが来て、捕まっちゃったんだって。どうも、精霊様が関係してるみたい。今、ギルドを通して連絡が来たの。ダー、お願い。精霊様とパッデを助けて。』

 『・・・分かった。なんとかするよ。』

 『うん。ダーならできる。そこの精霊様に協力してもらえるよ。』


 そこの精霊様?

 うーん・・・

 キラキラ妖精さんはいるけど・・・

 僕はちょっぴり首を傾げ、みんなにママの話を伝えたんだ。

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