第75話 男爵家の晩餐?

 メイドさんの視界を隠すつもりがあるのかないのか、色目にまったく気付かないように見えるラッセイが、あの絵のある広間から廊下に出ている僕らを見つけて、優雅に歩み寄ってきたよ。

 一応案内するように半歩前でラッセイの顔をチラチラ見ながらやってくるメイドさん。

 そのちょっと後ろを悠々と横切るうちのメンバーたち。

 見つからないかと、ドキドキしてるのはどうやら僕だけらしい。


 「どうだった?」

 僕が、ドキドキを隠すようにラッセイに語りかける。

 「立派な、頑丈な造りで感心いたしました。魔物から守るためとのことで、安心感のある塀に囲まれておりまして、これぞ最前線の屋敷である、と教えられました。」

 うんうん、と頷くメイドさん。

 そんな騎士然とした恰好をして、余所行き言葉でしゃべるラッセイはどこからどう見ても王子様だよ。僕なんかよりずっとね。


 誰に教えられたか、は、当然彼女なんだろうけど、ちゃんと話を聞いてくれていて、自慢げに(と、メイドさんは思っているようです。)あるじに話す近衛騎士を満足そうに見るメイドさん。

 そのメイドさんに聞いた話としては、魔物に備えて、塀を高く頑丈にすることはもちろん、建物自身も壁は厚めで、1階は窓少なめ、なんだって。逆に2階より上は窓をいっぱいつくって、外の様子が見られるようになってるのも、辺境の最前線建造物風。

 1階が窓を少ない分、閉塞感を出さないために、キンキラ?飾るそうです。

 多くの魔物の素材を飾るのは、これだけうちの家は強くて栄えてるよ、って自慢するのと同時に、強い魔物がいると弱いのは極力その辺りを避けようとするから、だって。

 庶民の家の玄関とか外壁に、魔物の皮とか、骨や牙が飾ってあるのも同じ理屈だそう。そういえば、1枚ものの毛皮が玄関ドアにかけられているのをチラチラ見たけど、あれって、レインコート替わりのものだと思ってたよ。どうやら魔物よけのおまもりだったみたい。


 これはあとで聞いた話。

 南部は討伐のためにある領だから、当然たくさんの魔物が討たれます。で、素材やなんかは特産品なんだけど、きれいに狩られるのはごく一部。そういうのは高値でお貴族様とか大商人の下へ行くんだけど、そうでない大量のクズ素材?は、お守りに使ったり、パッチワーク的な服や鞄の素材となったりするんだって。こういうのは安価で、よくよく見ると普通のおうちのドアにかかってるのは、穴ぼこだらけ傷だらけの毛皮だけど、これならただ同然で、荷物持ちとか雑用に行った人にも分けてもらえるそうです。ものによったら肉付で渡されて、肉は食用に皮はお守りや日用品にと変わるそう。良いにつけ悪いにつけ、魔物で成り立ってる生活が、ザ・南部、の生活みたいです。



 ラッセイとメイドさんが戻ってきて、改めて、正面の絵の説明=マッケンガーと愉快な仲間たち、ファーラー男爵主観補正強め、を受けていると、別の執事さんみたいな人がご飯の用意が出来た、と呼びに来たよ。

 夕ご飯、ごちそうするとのことで、まだまだ日が高いし、せいぜいおやつの時間なんだけど、と思いつつ、しかもさっきおやつもらったよなぁ、とお腹の調子を気にしつつ、連れられて行ったのは多分ダイニング。


 多分、ていうのは、大きな部屋で、奥に舞台みたいなのがあって。

 僕らがその部屋のど真ん中にある巨大テーブルに案内されたのは良いけれど、そのテーブルの周りを隅に避けたらしい丸テーブルがいっぱい置いてあって。

 ふと思いついたのは前世の結婚式場、かな?もしくは政治家のホテルでのパーティーとか?

 センターに長テーブル、ってのはちょっぴり変だけど、これを舞台の前に置けば、まさにそんな感じのお部屋でした。

 その長テーブルの小さい方の辺、つまりはお誕生席とその向かいに僕と男爵は座ります。

 男爵さんは、なんというか、キンキラ衣装から、フリフリ衣装に着替えてましたよ。フリフリに食べこぼしとかしないか心配しちゃった。


 他は・・・男爵の横に当たる長辺の端右側がお兄さん、その横にお姉さん。反対の辺におばさんがいます。

 おばさんが奥さんで、お兄さんが息子さん、お姉さんが娘さんだそう。名前は、ま、いいや。正直興味ないのと、遠くて良く聞こえなかったです。

 男爵はミランダとラッセイにも着席を勧めたけど、二人は仕事中だ、って断ったよ。


 食事が、次々に配られてきて、僕は申し訳程度に口を付けたんだ。けどね、どれもこってり濃すぎるよ。

 まずは前菜だけど、一見アヒージョみたいなの。味のついた油に、ぷかぷか魔物の脂身、なんだろうなぁ、が浮いてるんだ。トマトみたいな野菜が浮いてたから、それを食べたんだけど、ウッて感じでした。

 なんかね、基本的にメインも含め、ソース、なのかなぁ、って言うのがほぼ油でね、甘すぎたりしょっぱすぎたり、しかも動物性の油脂漬けだよ。ハハハ、僕の舌にはちょっぴりアダルト?過ぎたかなぁ・・・

 けど、この一家には普通なんだろうね、むしゃむしゃ食べてる。

 僕はさっきのおやつでもう無理です。


 しかし、ねぇ。

 貴族になった、といっても最近だってのはよく分かる。

 女性陣はラッセイに声をかけまくってるし、息子殿は、チラチラとミランダを見ているよ。

 警護のお仕事で立ってる人に話しかけるとか、マナー以前の問題、なんだと思うけどなぁ。

 しかも、女性陣二人、ラッセイにガン無視されると、僕に可愛いとか抱かせろだとか、撫でさせろ、とか、失礼極まりないです。そんな扱いは、・・・慣れてるけど、さ。

 王子として来てるのに、意味わかんないよねぇ?知らない人に触らせたりしないよ?貴族じゃなくたって、これが失礼な話だって分かると思うんだけどなぁ・・・



 そういう意味では、この長テーブルもありがたいけどさ、なんて、少々ご不満に思っていたら、アーチェから念話がありました。

 『帰る』

 だって。

 は?と思ったけど、とりあえず偵察の話は、お宿で、ってことみたい。

 とっても、不機嫌そうな感情が乗ってます。

 何があったんだろうねぇ。


 僕は、ミランダたちに伝言すると、二人は了承して、ミランダがコソコソって側にいた使用人の人に耳打ちしたよ。

 どうやら、「そろそろ時間が。」とか言ったみたいだね。

 もともとお話しを聞くだけの予定。王子様はお忙しいのです。なんてね。この後は情報の寄せ集めだけだけど、早く出たいよね。


 ミランダに言われた使用人が偉い使用人に言って、その使用人が・・・の伝言ゲームがありました。この辺りは貴族っぽいって、まぁ、なんというか、ちぐはぐだなぁ。

 無事、伝言ゲームが当主に到着。

 大仰に謝られ、僕をハグしようとする家族の皆さんの手をなんとかすり抜け、二人の護衛に守られつつ、やれやれ、無事に男爵家脱出です。

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