第73話 お色直し
「男爵はテッセン子爵の派閥でしたね?」
話の流れで、僕はそう言う。もちろん、本当に聞きたいことに誘導するためにね。僕みたいな拙い話術でも、この人なら大丈夫っぽいって思ったのは、子供たちのお茶会に出てたり、そのための心づもりをセリオの友達の商人子息たちに聞いていたからだと思う。だって、この人の話し方は、全然社交を学んでいない、この土地のダメダメな方の子供たちと同レベルなんだもの。
とにかく自分を大きく見せて、マウント取りたいんだろうなぁ、そこって自慢できるところなの?のオンパレード。見た目はおじさんでも、それこそテッセンのお坊ちゃまナルミヤ君と同じだね。僕のことを取り入ったらお得なガキンチョって思っているところが違うぐらい。
ハハハ。ナルミヤ君は僕のことを元奴隷のはずの何も知らないガキで自分が上だ、と思ってたみたいだからね。
そういう意味では男爵は大人。むしろこの領では目端が利くタイプって感じかもね。
「まぁ、テッセン家の寄子扱いではありますな。だが、実際は、私がテッセン家を支えてやってるといいますか。私なくしてテッセン家は成り立たない、まぁ、そんな関係ですな。テッセンは、名家で歴史がありますが、自分では何も出来ないでくの坊。片や私は、歴史こそ浅いが、まぁ、請われて叙爵されるぐらいの、まぁ、自分で言うのもなんですが、それなりの能力を持つと言います、まぁ、なんですな、殿下も同じでありましょう?陛下の子より優秀だからこそ、取り入れられた、と、ハハハハ。」
うー。この人、兄様たちの事をディスッてるって分かってるのかなぁ?テッセン家のことを下げつつの、王家まで、って、分かってて言ってるなら、えげつい狸ってことだけど・・・ハハハ。分かってないだけ、だよねぇ、どう考えても。
僕は、苦笑いして、やんわり謙遜っぽく否定したけど、こっちの言葉なんて、おしゃべり男爵は聞く気ゼロだよね。
「殿下も、こちらへ来て気付いたかと思いますが、なんせ、当領の貴族なんてのは気位ばかり高い田舎者だ。海千山千の他領の商人と交渉する能力なんて持ってませんからな。まぁ、そういう意味ではテッセン家は多少マシですがな。マッケンガー様が都会の感覚を持っておりますし、次代様であるレージラム様も、しっかりしていらっしゃる。お二人がいなければこの領は悪徳商人に食い物にされているでしょうなぁ、ハハハハハ。」
マッケンガー先生は王都で先生をしているし、その前は王都に籍を置いた冒険者だったらしい。そしてそのパーティメンバーとして男爵もいたってこと。
先生が、この領から出ていくときについていった男爵は、子供の頃から立派なマッケンガー先生の腰巾着だったってのは、いろんな聞き込みで判明してるんだよねぇ。
ただ、男爵に言わせれば、自分が彼らを引っ張った有能な部下だ、となるらしい。
僕のイメージでは、テッセン家はそんなにおろかじゃない、と、思うけどね。
「まぁ、今テッセンを支えているビジネスは、詳細はさすがに殿下にもいえませんがね、私ことファーラー男爵が中心となっているんですわ。私がいなければテッセン家は成り立たず、テッセン家がいなければこの領は成り立たない。爵位こそ低くまた浅いですが、ここが、まさにこの領の要、と言えるんですなぁ、ハハハハ。」
のけぞりながら、酒で赤い顔をてからせて笑う男爵。
いや、本当にあなたが言うとおりなら、初めて会う僕に、こんな危ない話、しないよね?
どうやら、男爵は僕にものすっごく親近感を持ってるみたいだし、僕に取り入ればテッセン家と付き合うよりは美味しい目を見れそうだ、なんて思ってることが見え見えなんで、なんだかなぁ、と思うんだけれど・・・
「ここが領の要、ですか。すごいですねぇ。そういえば、このお屋敷、ユニークですね。外と中でまったく違うので、ビックリしました。」
「ほぉ、さすがは殿下です。そうなんですなぁ。外は質素、中はゴージャス。これこそ真に出来る男のありようですな。まさに私を表しているようでしょう?そういう意味では、殿下は外も麗しいですから、まだまだ、ですな、ハハハハ。」
自分が麗しい、とか言われても困るけど、僕は麗しいって言われるより、凜々しいと言われたいので、褒め言葉にすらなってないけどね。
「というのは、冗談ですが、なんせ新興の貴族、やっかみも強いものでしてな。外側は、あえて質素にしております。しかし、いかんせん有力な商人も訪れる故、なめられんように、内部はそれなりの形を整えているんですなぁ。それに、外側に装飾を作ってしまうと、・・・いやいやこれは内緒ですな。実はこの屋敷は秘密が多くてですなぁ、屋敷に特殊な・・・・これ以上は殿下にも言えませんがな、ハハハハ。」
聞かれたいのか聞かれたくないのかわかんないけど、屋敷の外が質素なのにはなんらかの秘密がある、と言いたいんだよね?
まぁ、おそらく結界がらみだろうなぁ、とは思う。
僕には知識がないけど、ドクとかなら分かるかもしんんないね。
「それにしても、ゴージャスですねよ?家具もインテリアもビックリしました。ほかの部屋とかも、すごいんでしょうねぇ?」
中を案内してくれないかなぁ、まぁ無駄だろうけど、なんて思いながら、水を向けてみたよ。
「まぁ、それなりに自慢の美術品もありますな。そうだ。殿下、私の自慢のコレクションでも見て回られますか?お客様にご案内する部屋はいくつかありますからな、是非ご覧いただきたい。それにこのあと、食事を用意させておりますからな、それまで少々時間を潰していただけますかな?私は食事用の衣服に着替えさせていただきますので、その間、メイドに屋敷を案内させることにしましょう。」
そう言うと、男爵はお茶を入れてくれるメイドさんを呼んだよ。
そうして、ご自慢の部屋をいくつか案内するように、告げる。
ハハハ、案内するのは僕であって、ラッセイじゃないんだけどなぁ。
まぁ、隠してるつもりだろうけど全然テンション上がってるの隠せてませんよ、なんて言わないけどね。
そんな感じで、僕らは男爵がお着替え?お色直し?するあいだ、お屋敷を見学する時間をもらえることになったんだ。
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