第72話 ファーラー男爵と怪しいお屋敷
ファーラー男爵邸。
外は質素で、中はキンキラ。
僕は、その違いにめまいがしたんだけどね、それだけじゃない、その違いに気付いた人が一人、いや、二人。
それはミランダとエアだったよ。
ミランダはもともとお貴族様の出身。なおかつ相当な魔導師ってことで、少なくともお勉強では僕より何枚も上。
エアは、そもそもが妖精で、魔法について敏感だ。
何が言いたいかっていうと、この二人、どうやらこのおうちに入ったときにすぐに違和感を覚えたみたいです。
僕?
本来はミランダより敏感だよ?
でもさ、中と外の違いに違和感ありまくりで、二人にこそっと言われるまでまったく気付かなかったです。
調子よくおしゃべりする男爵に連れられた応接室は、簡単な盗聴防止の魔道具が設置されているのはすぐに分かったんだけどね。なんせ本人が見せながら起動したし。
お金持ちアピール、みたいです。こんな魔道具あるけど知ってる?最新鋭だよ。商人と仲よしだから入って来るんだよ、なんてことを、聞いてもないのにぺらぺら教えてくれました。
でもごめんね。そのもっとすごいのが、ミモザの代官屋敷こと、僕らの現本拠地その2に常設してます。なんせその大元の作成、うちのメンバーなんで。なんてことは、もちろん言わないけどね。
見せびらかされたのが、うちから発信して、トレネーから貴族向けに売り出した、出力を押さえた量販品なんだよね。ナッタジ印ついてるよ?
どうやら、この商品も、貢ぎ物のようです。たぶん、これを貢いだのはレッデゼッサ商会じゃないかな?うん。ガイガムのおうちだね。
トレネーはうちの商会の本拠地がある領で、領都には支店があるんだ。本店はダンシュタっていう小さな町だけどね。
この領都では貴族向けの商品として、ドクが作った魔道具の劣化版を販売している。これは国の了承を得て、って感じだね。戦略物資みたいなのも多いから、王宮や騎士団なんかもお得意様だったりします。売る物はかなり厳選してるけどね。いろいろとやらかし系商品もあったりするので、エヘッ。
まぁ、貴族様へのお土産にトレネーからの商品としてうちの商品はテッパンになりつつあるそうです。量産もしていないので、なかなかにレア感もあるんだって。
てことで、たかだか新興の男爵家に貢ぐような品ではない、ってので、僕らにとっては要チェックな事項なんだけどね。
ただ、これの起動実験を嬉しそうにやっている男爵を見て、ミランダってばピンときたらしい。
中と外で、完全に区切られてるってね!
男爵が、いろいろと自慢しつつ、魔道具やら食事やらを手配しているときに、こそこそと僕らで話し合う時間はそれなりにあったんだ。
で、ミランダが、中と外が完全に遮断されてるみたいだ、って気付いて僕らに注意してきた。
僕は慌てて、側にいるはずのゴーダン達に念話を送ったんだ。
でもね、一番敏感なアーチャすら反応しない。
分断された?
あせったんだけど・・・
『ダーちゃま、地面に魔法陣があるよ。それではじめから中を内緒にしてるよ。』
とはエアのお話し。
エアとしてはあたりまえすぎて、僕らがその魔法陣だかなんだかに気付いてないことに気付いてなかった、みたいなんだ。
『エアは、外に出れる?』
僕が聞くと、エアはできるって。
てことで、エアが分かってることをゴーダン達に伝えて貰うことにしたよ。
どうやら、エアには魔法陣があってないようなもののようです。
でも、なんでこんな結界?
僕ら3人、首を傾げた。
普通は中のものを外から感知できないようにするものだよね?
でもさ、危険、というか隠したい者の所在は、正直グレンによって判明してる。
別館になってる倉庫みたいな建物にゲンヘが生きたままたっぷりいるんだ。
ただね、ディルたちによると、魔物の生態を研究するのは推奨されていて、こんな風に研究用としていっぱい持ってるのは、特に塀の外では珍しくないんだそう。
仮に乗り込んで、なんだこのゲンヘは!って問い詰めたって、ゲンヘを研究して、お国の役に立つよう頑張ってます、なんて言われたら、それはご苦労様、って言うしかないんだそう。
ゲンヘを使って、王都の学生に悪さをしてるだろう?って言ったところで、証拠は今のところないしね。
そういうこともあるのか、件の魔法陣の効果範囲は、その別棟にかかってなくて、今いるこのお屋敷だけ、だそうです。
盗聴防止の魔道具。
魔道具なだけあって、当然魔石を使います。
男爵の魔力量は決して多くない。
年を取ってそうなったのか、それとももともとなのか、白に近いグレーの髪を見れば魔法は得意じゃなさそうだしね。
当然魔石を用いての魔道具使用ってなるんだろうけどさ、魔石はお金がかかるからね、どうやら起動できることを見せびらかしたあとは、とっとと起動をオフにして魔石を無駄遣いしないようにするみたいだね。ケチなのか、無駄使い好きなのか、よくわかんない行動です。
「男爵はテッセン家の寄子だと伺いました。マッケンガー先生のおうちですよね?先生ってやっぱり小さいときからすごかったんですか?」
僕は、そんな風に話を振ったりしつつ、魔力を薄く伸ばしていったよ。
魔力を広げると、どうしてもお話しがおろそかになっちゃうけど、そのあたりは、騎士役の二人がフォローしてくれる。
「マッケンガー様ね。まぁ、あの人はいっちゃあなんだけど、私のお陰で今の地位を築いたみたいなもんですよ。ハハ、まぁ、いっちゃあなんだが、あのお方は私におんぶに抱っこってやつでしてね・・・」
あらら。
主君筋に、随分な言いぐさだけど、どうやら色々とお話ししてくれるらしい。
「ちなみに、本当は私は貴族なんてどうでも良かったんですがね、どうしても私の才能が必要だと、まぁ、テッセンがね。ハハハハ。」
すっごく高いお酒の貢ぎ物だと、持ち出して、まさかの僕に飲ませようとするのをやんわりと断り、騎士の二人にも仕事中だと断られつつ、自分だけで飲み始めたのが運の尽き?主家のお話しをあることないこと、おしゃべりしてくれたんだ。
彼があっちこっちと脱線しつつ話してくれたことから分かったのは、とある重要な仕事を専任でやって欲しいから、そのために男爵とし、必要な屋敷や施設を与える、と次期様に言われた、とのこと。次期様ってことはマッケンガー先生のお兄さんってこととかな?
その重要な任務の一つが、王国各都市からの商人との親交で、もう1つが重要な研究の保護、だそう。
さすがに、その細かな内容までは言わなかったけど、自分にしか出来ない仕事だ、とドヤ顔続出って感じです。
ただ、どうやら、この人、その重要な仕事用の施設の管理のために、貴族の位を与えられただけみたい。ちょっぴり怪しいなって思ったところで、下級とはいえ貴族の屋敷に兵隊さんが押し入るのは、いろいろと面倒な手続きがあるんだって。だからこその男爵位、だろうってことです。
なんかね、かなりのテンションで、高いお酒を浴びるように飲んでた男爵さんですが、しょっちゅうお手洗いだとかに立っちゃって、僕たち放置の時間も徐々に長くなってきたよ。
男爵がお部屋を開けると、おやつとかお茶のおかわりを聞きにメイドさんがやってくる。
で、高貴な方に直接お声はかけられない、とか言いながら、僕じゃなくてラッセイにお変わりはいかが?とか、好きな食べ物は、とか、色々と聞いてるんだよね。
ハハハ、ラッセイってば、モテるもんね。
前世で騎士の物語とか勇者の物語だったら、絶対に主人公だろ、ってルックスと性格。メイドさんのお目々はハートです。
てことで・・・
ミランダからの命令で、このお屋敷のことを色々と教えて貰うことに。
「そんな、何も私からは言えませんよ。このお屋敷の地下では、何か怪しいことが行われてそう、とか、私は全然知りません。ご飯を持っていくのは、もっぱら本家の兵士衆だなんて、全然知りませんから。」
・・・・
ラッセイってば、魅了のスキルでも持ってるのかなぁ。ハハハ・・・・。
ともあれ、僕が魔力を広げて索敵した、地下の人のかたまり、調べる価値はありそうだね。
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