第71話 訪問!ファーラー男爵家

 ファーラー男爵は、新興も新興の貴族家だ。

 ここ5年くらいに貴族になったんだもんね。

 それまでは、テッセン子爵家の家令の一人、まぁ、貴族のおうちで働く平民だったんだ。

 その従業員仲間でも、怠惰っていうかな?働かないことで有名で、その理由って言うのが子爵家のご子息たるマッケンガー先生の乳兄弟にして、冒険者時代のパーティ仲間。しかも冒険者の時にマッケンガー先生を庇って片腕の半分を失ったからっていうんで、恩人として恩を売りまくって、そこにあぐらをかいてたっていうんだから、なんで貴族に推薦されたのか、裏を考えずにはいられないね。


 ちなみに、貴族になったっていっても、ふつうは家令としての立場は残ります。

 この人は、家のお仕事から卒業して、独自で商売をしてることになってるみたいで、家令っていうよりは、寄親寄子の関係、ていうのかな?そんな感じ。

 貴族っていうのは派閥とか、誰と誰が親戚で、誰が誰の部下かみたいな縦の関係がしっかりしてるんだ。


 ちなみに、僕の場合ちょっと変わってて、将来的にはナッタジ公爵ってなるそうです。で、その下にママたちとかゴーダンたちにラッセイ、ミランダっていう子爵家男爵家が寄子という形でつくことになるんだって。ちなみにドクは後見的な感じになるみたい。ドクはもともとこの国の人じゃないし、立場が特殊。国的にも顧問みたいなもんで、王家自体の後見っていうかご意見番みたいな位置にいるんだよね。で、僕にとってもそういう立ち位置になる予定。

 でも本人は、僕の家に入ろうかと思っているようです。

 どういう意味か、まだ貴族制度が勉強中の僕にはわかんないけど、まぁ、親戚のおじいちゃんとしていつまでも側にいてくれる予定みたいで、安心感はバツグンです。

 えっと、公爵っていうのは王家と親戚ってことなんで、僕が新しい家を興す形になっても、息子は息子のままだそうです。王子とか王弟って地位は残るんだって。あんまりこの辺はよくわかんないや。



 えっとね、ファーラー男爵が貴族になったのは約5年前だけどね、僕らが貴族になったのは3年ほど前。だから貴族としての先輩はファーラー男爵なんだ。

 でね、新規に貴族になって大変だね、どう立ち回ったら良いかちょっぴり先輩の男爵に教えて欲しいなぁ、なんて、お伺いを立てました。

 ハハハ。すぐに食いついてきたよ。


 この男爵、強きに弱く、弱きに強いで高名な方でした。

 王子一派が、お話し聞きたい、とか言ったらもみ手で迎えてくれるんじゃないか?って、最初は冗談でバンミが言ったんで、正直冗談で会えないかな?っていうお手紙を出したら、二つ返事でいつでもどうぞ、っておうちに招待されちゃったよ。

 うん、僕ら的には冗談だったんだよね。

 接触はどうする、という話し合い中の冗談が、マジになっちゃって、気がついたら僕は王子の立場で乗り込むことになっちゃってたんだ。

 ここまで、たった1日。

 びっくりだよねぇ。



 僕は、表向きの席では騎士としてミランダとラッセイを引き連れてる。パーティーとかね。王子としては近衛騎士って呼ばれるボディーガードを兼ねた側近を最低2名ぐらいは連れて歩かなきゃなんないんだって。従者枠とはちょっと違って、従者は生活面の補助で、近衛騎士は側近的な感じかな?


 学生としては従者を引き連れてる方が正しい。プライベートって感じになるからね。

 近衛騎士を近衛騎士として連れ回すっていうのは、なんていうのかな?公式の場である、とか、相手を尊重しているっていうパフォーマンスでもあるんだ。


 ちなみに学生時代の従者がそのまま近衛騎士になることが普通です。兄様たちもそんな感じだね。従者兼近衛騎士っていうのは、一緒に育った兄弟に近い信頼がある人って周りに見られる感じ、なんだそうです。


 といっても、赤ちゃんの時から近衛騎士は、公式の場にはつくけどね。ほぼ固定だそうだけど、近衛騎士団っていうのがあって、王家直属の騎士団で、その中から選ばれるんだ。騎士団内での移動があるから、基本的にはその都度任命、なんだそうです。本人の能力とか、慣れとかも考慮に入れるから、人は固定されがちなんだけどね。王家側の指命も重視されるし。

 でもね、それとは別に、騎士団の枠から離れて、王族個人に付く人もいる。その王族本人が任命して近衛騎士としての地位を得るんだ。そういう人には近衛騎士団に命令権はない。近衛騎士だけど騎士団員じゃないっていう特殊な立ち位置。ほとんどは従者が多いけど、どこからともなく連れてきた人を近衛騎士にしたってことも、王家の歴史ではたくさんいるらしい。ちなみにひいじいさんは請われて断ったパターンだって。

 で、ミランダとラッセイは、公式には僕に任命されたこの近衛騎士っていう地位にいるんだ。


 てことで、僕は二人を連れて、ファーラー男爵の下へ。

 この二人を近衛騎士として従えた王子の僕が遊びに行くっていうのは、ものすっごく名誉なこと、らしいです。その辺の感覚は、僕にはちょっと・・・

 でもナハトが言ってました。

 奴隷時代の僕に、あの家畜小屋へと王様がお忍びで会いに来たらどんな気持ちだ?って。そのぐらいすごいことで、名誉なことで、ファーラー男爵程度(ナハトの言い方!)の小物なら、一生自慢しまくるだろう、だそうです。

 僕なら、そんな風に王様が来たら、慌てて逃げるけどね。



 ナハトの言葉にそんなバカな、と苦笑しつつ、王子様のお呼ばれ感を出した服を着て、騎士な感じの服を着た二人を連れて、僕は男爵家へと訪れたんだ。

 ちなみに、ゴーダン、アーチャ、バンミが屋敷の側で待機中です。あとの人はお留守番。



 「これはこれはアレクサンダー王子。よくぞこのあばら屋にお越しいただきました。さぁさ、是非中へ。今宵は良き日だ。いやぁ、めでたい。」


 門番に来たよ、ってミランダが告げている間に、なんと、キラッキラの服を着た当のご当主がやってきたよ。まさにもみ手をしながらって、ちょっと笑いを抑えるのに苦労したぐらい、本当にこんな感じなんだ、ってびっくりな態度で現れるんだもん。

 だいたい、普通は何人か面倒くさい引き継ぎをしつつ、徐々に中に入るもんだよね?だからこそ、ミランダが門番に難しい言い方で、僕が来たことを告げてるんだしさ。門番から、執事とかその辺りの人に引き継ぎをして、家の中へ案内されてから会うもんじゃないの?

 そういう意味では、最近まで平民だった人だなぁ、なんて思うけど、ここにナハトがいたら、鼻を鳴らしていただろうね。元々が貴族のミランダやラッセイは、さすがにこういう場では、お貴族様そのものだし、その対比がほんと笑っちゃうよ。


 なにはともあれ、へいこらしつつ、金ぴかの服を着た顔は逆三角形で尖っていてお腹以外は細い、その主人へとついて、屋敷へと入っていく。


 外からは、質素に見えたおうちだけど、中に一歩入ったら、まぁ、金ぴか。あまり趣味はよろしくないけど、きっとお高いんだろうなっていう内装や家具で、目が疲れそうです。



 ちょっぴりがさつで、しかもラッセイを2度見したメイドさんが置いていった、あんまりおいしくないお茶をいただきつつ、僕はまだもみ手をしている男爵に目を向けたよ。あのメイドさん、ラッセイに色目使ってたけど、多分無理だよなぁ、なんて考えつつも、ちゃんとお仕事、お仕事。


 「本日はお招きありがとうございます。新しく貴族の一員となった者同士、色々と教えていただけたら嬉しいです。」

 僕はニコッと笑う。

 本当はこんな丁寧な言い方をするもんじゃないんだけどね。王子と男爵。身分から言うと僕はもっと砕けた方が良いらしい。

 だけど、こういう相手にはこの丁寧な言い方は効果抜群だね。


 ちょっと危ないぐらいに蕩けた顔をした男爵。

 「王子様におかれましては、色々と新しい環境で戸惑いも多いでしょう。不肖このファーラー、誠心誠意、王子様にご教授いたしましょうぞ。ハハハハハ。」


 完全に有頂天な様子で、なによりです。

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