第70話 ファーラー男爵

 隣町で、居残り組のドク、ミランダ、ナハトと合流、ナハトにはわかんない話だけど、黒い魔力とそれに関する魔物のお話をして、ドクの頭を悩ますことしばし。

 でも、僕らの一番の目的は、養成所の生徒たちの不可解な行方不明事件の解明とできれば被害者の保護ってことだからね、こっちのお話しは一応いったん棚上げに。



 「ファーラー男爵。といっても、男爵位を得たのは最近のようです。」

 ミランダが報告したよ

 ゲンヘをいっぱい持っていたお屋敷の持ち主の調査の話です。

 僕たちがいない間、あのお屋敷の持ち主と人となりの調査をしていたようです。


 「ファーラー男爵?リックか!」

 言ったのはリーク。

 「あいつは、マッケンガーの腰巾着だな。親父と同僚だったが、なんていうか、暗いやつでさ。」

 リークが言う。


 リークのお父さんっていうのは、マッケンガーの実家テッセン家の家令だ。ちなみにお母さんはディルのおうちのメイドさん。ライバルのおうちの部下どうし、なんて思われるけど、実際問題として、当主どうしは仲よしなんだよね。その子供世代=リークたちの親世代となると、ちょっぴり険悪ではあるんだけど・・・


 テッセン家っていうのは、領主のおじさんの家系だ。

 もともとはテッセン家のお嬢様にして従姉妹であるレーミヤさん、この人と、三男のジラドムさんが結婚したんだ。領主の弟と従姉妹のおうち、ってことだね。この二人は領主と仲が良いんだ。適材適所っていうか、まぁ、良い感じで、政務を司ってといるおうち。


 でも、やっぱり辺境では、武力が尊敬されるんだそうです。

 ちゃんと文官が支えないと、兵隊さんも活躍なんてできないんだけどね。

 でも、やっぱり華やかなのは、魔物を倒し、領地を広げていくことに直接関わる兵隊さんや騎士さんたち。

 商人とか、別の領や王都と渉外をするような、言っちゃあ地味なお仕事をしている人たちに対する評価は余り高くない。


 ジラドム夫妻は誇りを持って仕事をされていても、その子供たちが同じかは、まぁ、推測はたやすいよね?

 長男はそれでも、その利点を実感できる立場にはいたんだよね。

 直接、商人さんたちが詣でてきて、ま、いろいろと、ね。貢ぎ物とか、美味しい話も多い。

 実際、長男レージラムって人は、そう言う意味でも目端がきくようです。これはディルの評ね。ただその三男。マッケンガーって言う人。うん。問題の先生だね。

 一見、真面目で仕事熱心なんだけどね。それなりに強いし。

 うん。

 南部レベルで強い人だったらしい。

 なのに文人、みたいな目に耐えきれなくて飛び出して冒険者からの養成校の先生、てルートで人生を歩んでいるんだそうです。


 そのマッケンガーと幼なじみ、っていうか乳兄弟なのが、件のリック・ファーラー男爵。なんと、領を出て冒険者になったときのお供っていうか、パーティーメンバーの一人なんだって。


 「そうなんだ。それは知らなかったよ。だったら、腕はその時のかな?」

 リークが言ったよ。

 リークによれば、その家令時代のリークって人は、左腕が半分なくて、それを理由にサボるような人なんだって。リークは子供で、父親の手伝いに行ったときなんかに、リークに手伝いを強要されたそうで、偉そうで暗くて大っ嫌いな人だ、なんて、言ってます。


 えっとね、リークってディルの乳兄弟で、ディルの遊び相手ってことではあるけど、ある程度大きく、そうだな僕ぐらいの年齢になると、仕事を親から命じられる。これは平民としては当然のことで、10歳ぐらいでは大概、親の手伝いか、どこかの丁稚的な見習いかで仕事をするようになるんだよね。

 リークの場合は7歳ぐらいから、時折父親の手伝いとして、テッセン家の雑用をしていたんだそう。

 ただ、乳兄弟であるディルの遊び相手っていうお仕事も、こっちは産まれた時からやっているから、親としては、どっちのおうちに入ることになってもいいようにって、やってくれたんだと思う、なんて言ってるけどね。

 ちょっぴり目が遠くを見てたから、結構大変だったんだろうね。

 なんせ、ライバル関係のおうちで、両方で働いてるんだから、他の人からしたら、スパイ、とまでは言わなくても、良い気がしない、だろうから。

 本人は違う家を見れて楽しいぜ、なんて言ってるけど、結構苦労も多いんだと思うよ。


 「あのおっさんは、乳兄弟っていうのが一番の自慢でさ、でも、三男だぜ。平民と変わらないっての。けどさ、その三男ってのも、長男と仲良いからさ、やつもほんと、自分が次代様たちと同列のつもりで、ほかの家令を見下してるっていうかさ、なんか、なくした腕も、マッケンガーを守ったかなんかで、なんだったら、主の恩人みたいなつもりでいるしさ・・・」

 ファーラー男爵を評するリークの言葉は、ビックリするぐらいなめらかです。

 ただよく分かるのは、ファーラー男爵のことが嫌いってことかな?

 お父さんの同僚なのに偉そうな人で、気がついたら貴族になってた、仕事をしない人、って思ってるっぽいね。


 「男爵位は領主の推薦で、まぁ、簡単に与えられますから。特に辺境伯の推薦なら、調査もないでしょうし、推されれば、簡単に爵位が与えられるでしょうね。」

 とは、ミランダの言。

 「身内のことを、フォノペート伯はことのほか大切にし、かつ絶大な信頼を置いています。弟妹からの推薦があれば簡単に男爵程度までなら、王都に推薦を出すでしょう。」

 領主の甥っ子ディルの言葉は、信憑性がたかいだろうね。

 で、リークの疑問もね。

 「仕事もろくにせず、みんなに煙たがられていたリックのおっさんが、3年ぐらい前に急に仕事を辞めたんだ。その数年前から、おれはお貴族様だ、なんて、偉そうに言ってたけど、まさか本当に貴族になってたなんてな。どこに行ったのかってみんなで言ってはいたけど・・・まぁ、そういう噂、男爵になったって噂、はあって、みんな訝しんではいたんだけどな。彼については口外無用、そうお達しがあってさ。それからは、テッセン家でリックのおっさんの噂はタブーになったんだよな。なんかある、とは思ってたけど・・・」


 「ファーラー男爵は、その財力を元に、急激に力をつけてきた新興の貴族、と評されています。そしてその財力ですが、テッセン家への仲介というか、テッセン家に替わって、いくつかの商会と交流することにより、築いたのでは、と勘ぐられています。」

 ナハトが調査結果を言う。

 「というよりは、テッセン家当主の目を盗むために、代わりに応対する家として作られたのではないか、というのが、もっぱらの噂ですね。」

 ミランダがそう追加する。


 「なるほどな。それが何を意味するか、本人に聞けば分かるだろう。ディル。悪いが、領主にこれまでのいきさつと、少々騒がしくなることを詫びておいてくれ。」

 「いえ。私もお供します。」

 「いや。報告も十分有用な援護射撃だよ。リークは、ジラドム様の方へ、報告を頼む。」

 「・・・分かりました。」

 二人はいかにも渋々って感じで、頷いたよ。

 ディルとリークはそれぞれ、報告係だって。

 だったら、僕らは?


 「明日、男爵殿を訪問するぞ。」

 宵の明星として、王家の依頼をすすめよう!


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