第69話 戻ろう!

「この黒い魔力は、自然に生まれるにはおかしいんでしょ?だったらどこから来たの?」

 アーチャの話、それに僕の直感かな?

 とっても不自然に感じた、この黒い魔力溜りの発生。その疑問を言わずにはいられなかったんだ。




 この大陸の北には、海を隔ててもう1つの大陸がある。

 そもそもが、この僕らの住む南の大陸へは、北の大陸から逃げてきた人がやってきたんだ、なんていう伝説だか歴史だかがあるんだ。

 まぁ、こっちの原住民がいたかはわかんないけど、人類史としては、多分これが正しいんだと思う。なんせ、長寿の人類であるエルフ族がそう言うんだから、間違いない。彼らにとっては、身近な親族の話として聞いてたりするんだしね。

 それに、こっちの大陸にも北から逃れて来たっていうのを歴史として語り継いでいる国や地域もあるから、多分これは真実だと思う。



 で、この南の大陸に住む人々は、北から逃れてきたっていったけど、何から逃れたかっていうと、強い魔物と、強い魔力を帯びた地から、っていうべきだろう。

 北の大陸は、人が住むには難しいぐらい魔力が濃く溢れている場所が多くて、しかも、それが徐々に人の住む地域に浸食しているんだ。

 ただ、これは人により多少対抗できる。

 魔力の濃い地域には、それに対応する魔物が多く存在し、それらは強く魔力も芳醇だ。卵か先か鶏が先か、じゃないけれど、魔物の魔力がさらに、大地に魔力を溢れさせ、その溢れた魔力が強い魔物を生む。

 逆に言えば、強い魔物がいないとその辺りの魔力は霧散して、僕ら人間が住めるような大地となる。

 そう。

 強い魔物をできるだけ人間の地域から駆逐していけば、住めない地の浸食を阻めるし、さらには、人の版図を広げていくことも出来るんだ。


 理屈はどうあれ、魔物を退治することによって、人の住める場所は確保できるっていうのは、太古の昔からの当然の知識であって、人は魔物を狩って、住む場所を守り、広げていったんだ。


 けどね、魔力の濃度っていうのは、大筋ではそんな感じだけど、何故か全体的に濃くなったり薄くなったりする。

 何度も人の住めない地域の奥から、魔力があふれ出て、魔物を強くし、土地は浸食される、という危機が訪れていたらしい。

 それに対抗するべく人々は戦ったりしたけどね、耐えられなくなったり、その他諸々の理由で、海に逃げ出す人がいた。その人々が南の大陸にたどり着いて、今のこの大陸での繁栄があるんだ。



 この南の大陸は、そういうわけで、人の住む地域は北の方が多いんだけど、それなりに大小様々な国があり、北の大陸に比べて安心安全だ。あくまでも比べてってだけで、魔物だっていっぱいいるし、未開の地、だらけだけどね。


 それというのも、こっちの大陸は、本当に人の住みやすい濃度の魔力の大地だからなんだ。

 木々で阻まれていて開拓が難航してたって、住めない大地に阻まれて人の版図が終了している、なんて話、聞いたことがない。

 そりゃ、ときに、強い魔物が現れたり、魔力が集まって、ダンジョンみたいなのが出来たり、ってするけど、それだって人が対応しきれない、なんてことはないんだよね。


 もちろん、ここ南部もそう。

 未開の土地だし、当然どこかにそんな場所があるかも知れないよ? 

 けどね、少なくともまだんだ。

 セスが守る人の世界の境界線、その向こう側、のような場所はこっちの大陸では発見されていない。

 そして、そんな濃厚魔力の大地のさらに濃厚な魔力のかたまりである、ディルたちがいうところの魔力溜り。そんなのが発生するだけの理屈がわかんない。


 ディルたちは、人も魔物もこの魔力溜りに溶けて、黒い魔物になる、なんて言ってたけど、それも初耳。

 えっとね、北の大陸では、魔力溜りから黒い魔物は湧いてくる、または産まれてくる、なんて言われてる。本当かどうかは正直分かんないけどね。


 ただ、1つ分かるのは、あれは北の黒いやつと同じものだ。

 魔法をぶつけた感触も同じ。

 僕は何度か、このホーリーの魔法の練習も兼ねて、セスを訪れてるから間違いない。アーチャだってそう言ってるし。



 「ともあれ、魔力溜りとやらはダーの魔法で消したし、後始末も妖精のお陰でなんとかなったようだしな。ここでこうしていても仕方ない。博士たちと合流するぞ。」

 ゴーダンの、そんな一声で、僕らは引き返すことになったんだけどね。うーん。後ろ髪引かれる思いだよね。



 「それにしても、グレンもこれを知ってたんだな。」

 ラッセイが言ったよ。

 確かに、グレンも知っているような発言していたよね?そこんとこどうよ?


 『我がいた森でも、時折あったぞ。あれは運ばれてくるのだ。』

 「え?どういうこと?」

 『知らぬ。そこにはない道が開いて押し出されるようにやってくるもんだ。』

 何それ?

 だけど、妖精たちが、なんだか、そうだそうだって、グレンに同意してるみたい。

 僕の心に響くのは、『あっから来るの。』『パッカーン、って来るの。』『やだよねぇ。守らなきゃ。』『消すの難しい。』『今回は良かったね。』『ピッカーンのさらさら~』・・・・

 小さな妖精たちの思いだけ。



 どうやら、妖精たちの僕に対する好感度は上がったみたいで、美味しいものとか魔物の場所とか、ワイワイ言いながら教えてくれて、ちょっと楽しかったりするんだけどね。

 そうそう。

 いろんな薬に使えそうなものの採集が趣味(仕事でもあるかな)のモーリス先生には、この妖精たちのナビは大好評でした。



 それなりに急ぎつつ、疑問いっぱい、採集物いっぱいで、僕らは森を後にしたんだ。


 そうして、同行組であるクレイ、ディル、リーク。


 はじめは、ホーリーとかそのあとの魔法のことに興味津々だったけどね。

 もともとクレイは、シルバーフォックスのおばさまの教育で僕のやることは黙って見てる方針だし、すごいです、しか言わない。それに、なぜか質問をしようとするディルたちの牽制役を勝手にやってる。

 くさっても(?)治世者養成校のクレイに剣使養成校の二人は強く言えないようで・・・

 ハハハ。まぁ、なんとなく良いコンビだなぁ、なんて感じです。


 そんなこんなで、僕らは宿にしていた隣町まで戻っていきました。


 討伐隊?


 そもそも目的は、依頼である不可思議な行方不明事件の解決だしね、それはゲンヘを確保している人のことを調べるのが良さそうでしょ?


 今回は、アーチャが僕に、なぜか現れた黒い魔力溜りと魔物を見せたいってことで、森に入ったけど、それは完了したから、いいんです。


 討伐隊に合流したのは、そのついでであって、一応のアリバイ作りだけだから。

 だって、今回の遠征は、僕のお願いで、南部の狩りに参加したいから組まれたってことになってるからね。ちょびっとでも、狩りについてけば書類書けるでしょ?一応一泊したし、魔物も出たから、見学できたし。これで養成所の先生が報告書を書くには困らないでしょ。だよね、ラッセイ?

 うん。ところ変わっても、お役所仕事とかって書類が好きだよねぇ。


 まぁ、これで、遠征も討伐隊の参加も、なんだったら社交も、全部養成所の生徒としてやるべき仕事は終了!のはず。


 あとは依頼を完遂するだけです。

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