第64話 グレンの報告

 僕たちは、集落を出てグレンと合流したよ。

 なんか、相変わらず、グレンはゲンヘを風呂敷みたいにして咥えてる。かわいいんだけどね、なんか、ランセルのボスっていう威厳は・・・ハハハ、ないかな?

 今回はなぜか二袋にして咥えてるから、余計に愉快な恰好になってるよ?


 そんな感想を抱きながらも、僕はグレンと、仲間たち、お互いを紹介したよ。

 なんかすんなり仲間だね、って受け入れてくれる雰囲気が嬉しいような、本当にいいの?って言いたいような、ちょっぴり複雑な気分です。



 でね、やっぱりアーチャが見たのってグレンだったみたい。

 『この者たちは先ほどまみえたぞ。ダーの匂いがしたから、顔を見せた。』

 だそうです。


 「きれい、ですね。」

 アーチャが言った。

 「ああ。磨き上げた銅の剣のようだ。」

 ミランダの感想。

 でもね、銅、で良いんじゃない?剣って・・・

 ひょっとして欲しいってこと?あげないよ?


 「しかし、ランセルか。この毛皮、危険だな。」

 ゴーダンが顎に手をやって、上から下までグレンをなめ回すように見ると、そう言ったよ。危険?

 「森の中をついてきた、と言っていただろうが。ランセルはただでさえ、毛皮が売れる。この珍しい色、それに艶を考えると、狩られる恐れがつよいぞ。」

 『我は強いぞ。』

 「グレンは強いって言ってるよ。」

 「アーチャに狙われて、無事に済むと思うか?」

 うーん。アーチャなら遠距離から弓とか魔法とかでドカンってできる。正直グレンに勝ち目は・・・ないかも・・・

 「アーチャだけじゃない。グレンを狩れるレベルの冒険者ならいくらでもいるだろう。森にかえすか、むしろダーのペット扱いで知らしめた方が無難だな。」


 えっと・・・


 前世の時の記憶、だと思うけど、物語ではテイマーとか動物使い、とか、そんな職業みたいなのが冒険者にあったりするんだけどね、この世界ではないんだ。ていうか、使役ってのがないかな?

 ただ、珍しい動物を見世物にしたり、家畜にしたり、性格が穏やかなのをペットとして飼ったり、はある。どっちかっていうと、物語よりも現実寄りの動物との付き合い方と同じって感覚かな、前世でいうとね。


 でね、シューバっていう魔物が一番騎乗にはつかわれているんだけどね、その他のもないわけじゃないんだ。

 シューバは顔が丸くてキリンみたいな角がある。茶色でずんぐりむっくり。騎乗する背中の部分で大人の肩ぐらいあるから、前世の馬に比べると縦も横もだいぶデカい感じかな?

 だから、町中での移動にはもうちょっと小型の家畜を使う人もいる。パルパルとかね。

 あ、パルパルっていうのは、僕ぐらいの高さの小さな獣。足がいっぱいあって短いんだ。でね、こんもりとした胴体があってね、うーん身体だけだと前世のアルマジロって感じかな?アルマジロ型の細長い亀?

 手触りは前世の自転車のサドルっぽいの。スピードも自転車くらいかなぁ?

 お金持ちが町中の移動に使うのは、たぶんその個体の個性豊かさだと思う。なんかね、色とりどりって感じでね、とにかく一体一体が違う色なんだ。なんでもかけあわせた時に絵の具みたいに親の色が混ざるし、その混ざり方は同じ親の子供でも違うんだって。だから、好みの色を探したり作ったり、なんてする愛好家もいるらしいです。


 まぁ、そういうこともあって、町中をペット同伴、は、ないことはない。

 うん、ないことはないんだけどね。

 でもさすがにランセルはねぇ、って僕は思ってたんだけどね。


 「一緒に来たヤツらには見られてるんだろうが。お前のもんって分からせてれば、問題はないと思うぞ。なんか印になるようなのでもつけておけば、大丈夫だろう。」

 そうなら嬉しいんだけど・・・

 「そうですね。とりあえずダーが乗って歩けば、すぐに認知されるでしょうし、危なくないアピールになるんじゃないですか。」

と、ミランダも重ねてくる。

 「うーん。グレン、僕と一緒にいたい?」

 『当然だ。我はダーと共にいくぞ。』

 「だったら僕を乗せるとか、なんか付ける必要があるけど大丈夫?」

 『むしろダーをずっと乗せてやろう。印も構わん。』

 「そっか。グレンもいいって。」

 「わかった。まずは人目につくように行動した方が良いだろう。領主ぐらいには連絡するか。」

 「はぁい。」


 僕らがそんなことを言ってると、ドサッてグレンが口の袋を地面に落としたよ。

 二袋とも、ゲンヘの死骸、だよね?

 なんかちょっと違うけど・・・


 僕が、グレンを見上げると、1つずつ鼻先で示しながら、

 『こっちは、人間に化けてたやつだ。こっちは生きてたやつを我が殺した。』

 って言ったよ。

 人間に化けてた、ってひょっとして、ゴーダン達が見たっていう同じ顔の部隊を襲ったの?うわぁ。

 一応、ゴーダンたちにもグレンの通訳したけど、みんな苦笑、です。


 『その人間に化けていた奴らと一緒にいたものたちが、逃げたのでな。こっそりついていった。そこにいたのがこっちのヤツらだ。』

 「え?人間が持ってたってこと?」

 『持っていたのではない。これだけが人間の巣の1つに集められていた。』

 「えっと・・・」

 どういうこと?

 一応、みんなに通訳したけど・・・


 「それって犯人の家、ってことじゃないですか?別棟にでも保管してた、とか。」

 ミランダが言ったよ。

 やっぱり、そうなるよね?

 まさかの犯人は、簡単に見つかった、とか?

 「案内は出来るのか?」

 ゴーダンがグレンを見て言ったよ。

 グレンは、大体の言ってることは分かるみたいだからね、大きく頷いたんだ。


 連れてってくれ、って言うゴーダンだけど、グレンったら自分の興味優先のようです。

 『そんなことより、ほれ。』

 嬉しそうに、ふたつの袋から1つずつ取り出し、この前みたいにビローンって伸ばそうとしたよ。

 1つは伸びるけど、1つはプチッていってちぎれちゃった。

 『ほれ。』

 そう言いながら僕にも1つずつ渡す。

 グレンに促されるまま、それらに魔力を通してみたよ。


 なるほど。

 1つは今まで同様に、ゴムみたいに伸びる。

 で、1つは、そのままだ。

 手触りも違う。

 魔力を通す前でも、伸びる方は一応伸びないゴムっぽい手触りだけど、伸びないのは普通に虫の死骸みたい。んと、ひからびたミミズ?


 「化けたやつはゴムになって、化けてないのは、そのままって感じ、かな?」

 『そうだ。それにな、化けたやつは食えんが、化けてない方は食えるぞ。まぁ、新鮮な方が美味いがな。』

 ニマニマとグレンが笑ったよ。

 生きたままの方が美味しい、らしい・・・僕は、いらないや。


 グレンによると、生きている間はみずみずしいけど、死ぬと数時間で干からびるらしい。アーチャたちと遭遇したあとに狩ったようなので、ほんとに数時間でこうなっちゃうんだね。


 ゴムのことをみんなに説明しつつ、これらを持って、僕はグレンに乗り、いったんみんなの下へ戻ることにしたよ。


 町に戻ると、グレンは目立ったけどね。ビックリするより、なんか普通にすごいなぁ、いいなぁ、って感じで見られました。

 どうやら、辺境では魔物を手なずけて騎乗するのは、珍しくないんだそう。人間に懐くのもそれなりにいる、とのことです。


 どうやら、僕のことはアレク王子として認知されてるし、それが小さな変異種のランセルに乗ってるのは、さすがです、みたいな感じですんなり受け入れられたようです。ミランダから王都じゃこうはいかないだろうけど、って言われたけどね、ハハハ。ビバ、辺境!ってところだね。



 お宿でも特に問題なく、広いお部屋だから連れてっても厩でも好きな方にどうぞ、なんて言われて、お部屋までつれてきちゃいました。


 フフフ。

 赤いランセルのグレン。

 みんなに認められて、正式に宵の明星の仲間になれました。

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