第63話 報告会

 隣町まではすぐだったよ。


 えっとね、領都は領の最北端なんだ。なぜなら南へと開拓を進めるために始めに出来た町だから。

 でね、はじめに領主とか有力貴族の屋敷とか、公の建物ができるでしょ?で、そこに住む人達のための商店とかができる。


 でもね、ここはあくまでも、王都との架け橋っていうか、他の地域との連絡のための基地みたいなもの。とくに塀は始めに危険な森と隔てるために出来たから、その塀の中っていうのは、あんまり大きくないんだ。


 で、隣町っていうか、南と南東、南西に放射状に開拓を進めた、次の拠点に、それぞれ町がある。

 実質これら隣町って呼ばれる3つの町が本当の始まりの町だ。

 冒険者とか庶民は、基本この辺りに居を構えている。この3つの町はいずれもかなり大きくて栄えてるんだって。


 で、この3つの町からさらに先へと放射状に道が延びる。

 基本的に馬で半日前後のところで、次の町だとか村だとかが作られているんだ。


 これらの集落は、もともとは開拓に行く人々のためにある。

 未開の森の中で野営するのは危険がいっぱい。

 安定的な開拓のためにも、この頻度で集落が作られて後方支援を行えるようにしているんだって。


 もちろんこれら集落で住む人達もいる。

 近場で簡単な作物を作ったり、家畜を飼ったり、と、ごくふつうに暮らす人々。

 彼らは、奥へ奥へと開拓へ行く人々のフォローをしっかりしつつ、暮らしているんだけどね、もともとはそんな集落の住人も、この開拓をしている人達の一員だったんだって。

 奥へ行くほど魔物は強いし、知らないのも多くなる。

 怪我をする人もいるし、大切な人が出来て一所に住みたいって考える人も出てくる。能力不足を実感する人だって・・・

 そういう人が留まって、さらに奥へと行く人達のフォローをするっていうシステムができあがってる。先人の知恵ってやつかな?


 てことで、僕らは昼前に出発して、なんだかんだで半日で隣村についたんだ。

 何か僕、思ったより疲れてたみたいで、移動中はほとんど寝てたから、一瞬で着いたみたいに思えたけどね。


 隣町の中でもその真ん中の町へたどり着いた僕たち。

 ゴーダンが、立派な宿を押さえてくれていて、全員でそのお宿泊まることなりました。


 どうやらね、僕の容姿っていうか、髪はこの町でも話題のようで・・・

 お宿のスタッフはさすがにプロだし、マジマジと見られたり噂されることはなかったんだけどね、お客さんとか通りすがりの人達に、キャーキャー言われて参ったよ。

 そんな様子を見たみんなが、近くの屋台とかでおいしそうなご飯を調達してきてくれて、お部屋でのご飯となったのはちょっと残念。

 レストランとかも、たくさんあるんだって。

 この地域独特のご飯、食べたかったなぁ。



 「行方不明者にそっくりの者たちだけで出来た部隊を見た。」

 ご飯の終わったあと、報告会でまずゴーダンが言った。

 「ええ。あれはちょっと不気味でしたね。同じ顔の人が一糸乱れず行軍していましたから。」

 ミランダも顔をしかめて言ったよ。

 「それはやはりゲンヘじゃろうて。こちらでも、ゲンヘの実験と思われる事案に遭遇したでのぉ。」

 ドクが答えたよ。

 グレンのお父さんのことだよね。

 ドクが同じ魔力と姿形を持つランセルの群れと戦った話をみんなにしたんだ。

 で、そのとき、僕がグレンと友達になってついてきてるって話しになったんだ。


 「それって、ちょっと小さめの赤いランセルかな?妖精を纏った・・・」

 ドクの話を聞いて、アーチャが言った。

 「グレンはまだ子供なんだ。だから、まだ小さいんだって言ってた。それと、森の妖精がグレンのことを守ってるのかも。なんかね、グレンのお父さんの守りたいって強い気持ちが、妖精を形作ったんだって。」

 「えらく、詳しいな。ひょっとしてダー、接触したのか?」

 「・・・・はい。」

 ちょっぴり声のトーンを落としたゴーダンに、僕は小さくなって答えたよ。やっぱり怒っている?


 「・・・はぁ。ったく、妖精は危ないのも多いんだぞ。しまいにお前、もどってこれなくなるぞ。」

 「ごめんなさい。でもね、僕は後悔してない。」

 「ったく。そうだろうよ。グレン、か?そのランセルの子供と仲良くなったんだろうが?だったらそういうことだろう。」

 ?

 どういうことだろう?

 でもまぁ、なんか納得してるみたいだし、あまり言うのもやぶ蛇だよね。

 バンミがちょっと眉を上げたけど、ゴーダンがOKみたいだし、何も言わないことにしたみたい。よかったです。


 「で、そのグレンだが。」

 「あ、そうだ。アーチャ、見たの?」

 「今朝方ね。なんか、こっちを見てたみたいで、視線で気づいた。ていうか、ダーの魔力を帯びてたし。それに、周りにエアと似た雰囲気の光の球が浮かんでたから、妖精の加護を受けてるのかと、討伐はやめたんだ。」

 「良かった。アーチャに狙われたら、グレン一発アウトだよ。」


 『ダーよ。我はそんなに弱くはないぞ。』

 「え?グレン?」

 『おうよ。そのエルフたちはダーの匂いをさせていたから姿を見せたのだよ。我がそんな簡単に狙われるものか。』

 あらら、どうやらグレンにはこっちの話が筒抜けのようで・・・

 ていうか、聞いてたんだ、ここの話。

 『ダーと繋がっておる。魔力をもらったからな。』

 「え?上げたっけ?」

 『名を貰ったときから、ダーの魔力はもらい放題だぞ。』

 「それって・・・・」



 「アレクよ。グレンからの念話かの?」

 ドクが僕の様子から気付いたようで、そうたずねてきたよ。

 「うん。なんか、名前をつけたら僕の魔力もらい放題だって。それと、多分僕の心に触れてきてる。なんていうのかな。僕の見たもの聞いたものを感じてる、のかなぁ?」

 「大丈夫なのか、それ?」

 ナハトが言う。

 けど、そんなに困らないかな?多分エアも同じことしてそうだし。

 なんかね、常時触れてるわけじゃなくて、心にシンクロしやすいってだけみたい。僕が拒否したら簡単にはねのけられるってのも、エアで経験済みなんだ。


 「まぁ、大丈夫だと思う。エアがもう一人いるみたいなもんだし。」

 「それを大丈夫っていうのは、ダーぐらいよ。」

 ミランダが呆れた声を出すけど、だって、本当に困らないし。僕から声をかけたらちゃんと応えてくれるから、いろんな意味で安心だよ?


 『なぁ、ダー。ゲンヘの死骸、集めたぞ。いるか?』


 ほら、無邪気な質問、してきたしね?


 って、ゲンヘの死骸?

 ゴムの材料だ!

 タイヤもだけど、モーリス先生がね、医療用に欲しいみたい。点滴のチューブとか、止血用とかに使うのに有益かもって、二人で細長く加工を頑張ってるんだ。


 「欲しい!」

 『なら、そこに持っていこうか?うまく伸びないのもあるんだがな。』

 「どういうこと?てか、ここに来たらまずいよ。僕がそこへ行く!」


 てことで、僕たちは町の外、森の中へとゲンヘをもらいに飛び出したんだ。

 僕一人じゃダメって、先行組の3人も着いてきたけどね。

 3人の本当の目的は、新しい友達と仲良くなること、なんだろうけどね。

 フフフ。

 なんだかんだで、みんなグレンが気になるようです。

 ランセルの友達を持ってる人なんて、僕ら以外には、きっといないからね。えへ。

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