第62話 合流
翌日から3日間は、結構大変だったよ。何がって王子様業が。
えっとね、この国、というか、この世界では成人って結構重要なんだ。成人でいろいろ出来ることが急に増える。逆に言うと未成年はいろいろ制約が激しいんだ。
でね、お貴族様の社会でもそういうのがあって、未成年は未成年同士でパーティーを開いたりするんだ。成人NGのパーティーだね。といっても、従者やなんかは成人していてもいいけど、そもそも従者とかって、いない人扱いだから、ノンカウント。
成人向けのパーティーに未成年が参加することはあるけど、そのときは保護者が同伴が基本。当然保護者には従者は入らないから、僕が大人のパーティーを断るのは簡単だけどさ。逆に、子供のパーティーは断るのが難しい、らしい。
そもそも僕はこの領の人と接触するのも目的の1つ。パーティーを断るのは悪手だって、わかってはいるんだ。
わかっては、いるんだけど、ねぇ・・・
「王子といえど、所詮は下賤の出であろう。我の方が尊き血が流れておる。ゆえに、汝には我に侍る誉れをやろうぞ。」
きんきらきんの服を着て、ちょっぴりふくよかで大柄な少年が、僕を見るなりそう言ったよ。
「ナルミヤ殿、無礼にも程がありましょう。」
それに目くじらを立ててくれたのは、ディルさんだ。一応14歳でしかも領主の右腕ともいえるフォノペート伯のご子息。母親が領主の妹ともなれば、この領では一目置かれるお坊ちゃま。僕のことを多少分かってくれてるということで、僕が誘われて出席するパーティーにはことごとく着いてきてくれてるんだ。
ただね、ナルミヤ君だっけ?彼みたいな貴族ご子息はどこにでも現れる。僕としては放置で良いけど、うちの従者として着いてきてる3人、とくにナハトは青筋ものだし、ディルさんとしても放置できない様子で・・・
「しかしディル殿。その者はそもそも奴隷であると聞いておる。その容姿を見初められ愛玩物として購入したものであると、もっぱらの噂だろうが。」
「ふざけたことを。アレク殿下は正真正銘高貴なるお血筋ですぞ。いかな養子といえど王家の血を受けぬ者が王家に迎えられるいわれはございますまい。」
「ふん、リッチアーダ家とやらに降家なされた姫の末、とやらか。そもそもそのリッチアーダとの血縁すら眉唾物であろう。どうせ、それだけの愛くるしさだ。男であろうが、ノーマルである我とて寵愛を与えたいと即座に思わせる魅了の魔物よ。王都で飼うのは危険だ、そうは思われませんかな。ハハハ・・・」
ハハハ・・・
教育がなってない子息も多いし、生まれで自分が偉いって勘違いしちゃってる人もいるんだよねぇ。こういう直接的な言い方をされたのは初めてだけど、大人たちだってオブラートに包んで同じことを言う人もいるんだよね。
以前、セリオの友達リコライ君たちが、ここの貴族子弟相手に貴族の本音を勉強するって言ってた意味が分かった、ような気がする。
でも、ディルさん、決闘とか無礼討ちとか、やめてくんないかなぁ。
チラチラって、ディルさんのお供で来ているリークさんが面白がって僕を見てるし、ナハト以外の二人も僕がなんとかしろ、みたいな視線を送ってくる。
え?ナハト?ひそかにディルさんを応援しているよう、だね。見なかったことにしよう・・・
「えっと、ディル・フィノーラ殿、剣を納めて、そこの紳士のご紹介を願えますか。それとも自己紹介の方がいいかな。初めまして。私はアレクサンダー・ナッタジ・ミ・マジダシオ・タクテリア。貴殿の名前を伺っても?」
僕は思いっきり優雅に、にっこりと王子の礼をしたよ。うん、お勉強はばっちりさ。おっかない先生がつきっきりだったからね。うんナハト先生も満足げです。
そんな僕の儀礼を伴った挨拶に、どうやら毒気を抜かれたようなナルミヤ君。目をぱちくりしてフリーズだ。僕みたいな小さく見える子、しかも所詮奴隷上がりと侮ってる子の、完璧なお作法に、きっと驚いたんだろう。
それに対して、ディル君は。
「御前にてお目汚し、失礼いたしました。この者はナルミヤ・テッセンなる子爵家のもの。テッセンが3男でございます。殿下に対する数々のご無礼、私めに処断の許しを頂きたく。」
立派な騎士の、しかも臣下の礼だね。
でもディルさん、臣下の礼は主にするもの、ディルさんならここの領主か、陛下にしかやっちゃダメだよね?
実際、ナルミヤ君も目を丸くして、ディルさんのことを見てるよ。
あ、でもそうか。
一応、僕、正式にタクテリア名乗ったしね?なんちゃってでも王子、なんだよね。
難しいけど、王子っていうのは位なんだって。で、貴族の上っていう肩書きなんだそう。
で、一方のナルミヤ君。
貴族の子供。ってことで、位はないんだ。そもそもが平民と本当なら一緒。実質は違うとしても建前はね。
しかも3男ってことは、将来はおうちから出ちゃう確率も高い。こういう辺境なら新しいおうちをつくったりする場合も多いらしいけど、それでも下位の貴族になれるかどうか。限りなく平民に近い、ってことで・・・
うん。
僕じゃなきゃ、確かに無礼討ちありな案件でした。
しかし、これがテッセン家の子か・・・
ディルさんのおうちと並ぶこの領の有力者ってことだけど・・・
大丈夫かな、この領?
今日の所は、いろんな意味で固まっているナルミヤ君を放置して、お迎えに来た主催のご令嬢についてパーティーに入ったけどね。さっきのやりとり見てたっていうのもあるし、ディルさんの僕をものすっごく持ち上げるやりとりで、男も女も、なんとか取り入ろうとするのが・・・とっても疲れちゃった。
初日の夜、ドクと一緒に、パーティーではない、ということで、領主さんにお食事に招かれて、この領の重鎮たちと会った他は、昼と夜にこんな大変なパーティーに招かれて、僕はほぼほぼグロッキーです。
そんな中、お部屋でくつろいでいると、僕に面会だって、メイドさんがやってきたよ。
誰?
みんなで、出ていくと。
!!!
なんでも、今一番の最前線を見に行ってたっていう、先発隊のゴーダン、ミランダ、アーチャが!!
「おいおい、泣いてるのか?いつまでも赤ちゃんみたいだなぁ。」
泣いてなんか、ないやい!
僕は一番前にいた、ゴーダンの胸に思わず飛び込んだけど、泣いてなんか、ないもん。お風呂に入ってないおっさん臭が目に染みただけだい!!
そんな僕の頭をアーチャが愛おしそうに撫でてくれる。
見えてないけど、ミランダのニコニコ顔を感じるよ。
「なんか、ガキども相手に頑張ってたみたいだな。よくやった。バフマ、悪いが領主に報告して、ここを引き払うと言ってくれ。隣町に宿屋を取ってる。他の連中も集めて全員で報告会だ。」
「はい。」
バフマが、お隣の領主の館に走っていったよ。
ナハトがドクの回収と、この迎賓館を仕切っている執事さんに報告に走ったみたい。
官舎の方にはバンミ、かな?
僕は、3人を連れて、僕らの馬車を回収に。
馬車を引っ張り出してきたら、すでにみんな集合してたよ。
なんだかんだで、バラバラに過ごすのは寂しいよね。
先発組のゴーダン、ミランダ、アーチャ、迎賓館のドク、バンミ、バフマ、ナハトと僕。そして官舎にいたラッセイとモーリス先生。
荷物は全部リュックに入れて、さぁ、隣町へと出発だ!!
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