第61話 到着!辺境領

 タクテリア聖王国バルボイ領。この国で「辺境」と言うとこの領のこととなる。

 北側を海に接し、南下することで国土を広げてきたタクテリア聖王国であるが、ゆえに他国との戦争でではなく、未開の地である南部開拓こそがその拡張の歴史といえる。そして、未開の開拓は今なお辺境伯をして進められており、故に、王家に継ぐ名家として、バルボイ領主フォノペート伯爵は公爵家と並ぶ権力を与えられている。


 というのが、歴史だとか政治学で学ぶ南部の説明です。


 とまぁ、難しいことはおいておいて、おそらくこの国で一番でっかい領がこのバルボイ領です。なんたって南、どころか東も西も果ては見えてないんだからね。

 北だけがいろんな領に連なってる。ていうよりも、ある程度開拓できたら新しい領になったりするので、その範囲もしょっちゅう変わる、ってことです。

 あ、ちょっと違うか。

 えっとね、東の方は砂漠地帯になってるんだ。

 砂漠と言えばビレディオ領だね。

 この砂漠、延々南側に続いていて、一応バルボイ領の東の端は砂漠までってなってる。で、砂漠はビレディオ領またはそこから独立させた地域、みたいになってるんだけどね、バルボイ領と違って、ビレディオ領は南下しての調査はやってないみたい。手が届かないところは放置って感じで、お陰でナッタジ・ダンジョンもかなり自由に遊べる場所になってます。



 まぁそんなわけで、始めに拠点が置かれたという領都ガッザーナだけど、ここが北の端になるんだ。街道のつきあたりって思えば良いかな。で、この領都を中心に半円状に開拓していってるようで、道が放射線状に延びてるんだって。

 開拓先に、町をつくるに良さそうな場所があれば、新しく拠点を作って、さらに奥へ、そんな風に発展した領だそうです。


 とまぁ、そんな領都ですが、聞くと見るでは大違い。


 細い道を延々移動してきたと思ったら、急にパッカーンて開けた場所に出るんだ。ビックリしたよ。

 森を切り開いてすぐは、緩衝地帯っていうか、どうやら新しく木々が生い茂らないようにってこともあって、家畜の放牧場みたいになっている。

 といっても、柵も何もなくて、あちこちにモーメーとか、シューバ、他にもいろんな家畜がのんびりとご飯を食べたり寝っ転がったりしていて、とってものんびりした気分になったよ。その合間合間に小さな小屋とか、人の姿もあるから、あの人たちがお世話してるのかもしれないね。



 そんなのんびりした中を、馬車ででゴトゴト進みます。

 放牧している辺りのはるか向こうは深い森。本当に切り取られたみたいに土や低木ゾーンがあるんだね。


 放牧ゾーンのあとは、ちょっとした畑、なのかな?

 低めの柵で囲まれていて、畝があり、何種類もの植物が植わってるみたい。

 生憎、僕には知識がないから何が育っているのかわかんないけど、ある程度の農作物も作ってるんだね。


 で、そのゾーンも過ぎると、おなじみの塀がぐるり。

 門番さんがいて、町に入るチェックをしているよ。


 僕らは一応VIP待遇ってことで、貴族用の門から入るんだけどね、普通のラインもあんまり混んでなかったから、時間的な有利はなさそうだ。

 一応、養成校の演習で来ることは連絡済み。

 ってことで、僕らが到着したってのは、すぐに分かったみたいで、なんだか偉い人が僕に挨拶に来たよ。

 わざわざ養成校の校長まで引率について王子がやってきたってことで、なんか、ちょっとお祭り騒ぎになってて、ちょっぴりほっぺが引きつった僕。


 だってさ、なんかたくさんの町の人がお出迎えしてくれてるんだもん。

 本当だったらプジョー兄様やポリア姉様がご一緒だったからこその歓迎だろうけど、僕でごめんね。

 そう思ったんだけどね、どうやら僕がお目当てだったみたい。


 王家に迎えられた噂の夜空の髪ってのを見たい、って集まったって、門番の人が恐縮してたよ。なんでも辺境じゃあ成り上がりって夢なんだって。是非とも王家を魅了した夜空の髪を持つ麗しの王子様(恥ず!!僕が言ったんじゃないよ。門番さん達がそう言って僕を拝むんだもの)を一目見ようってことらしいです、はい。

 王都から遠いと、噂が噂を呼んで・・・えらいことになってるってことだね。はぁ。



 キャーーーキャーーーー!!!!


 僕は門番さんに話は聞いて覚悟はしてたけど、思わずひるんじゃったよ。


 馬車に乗ってたんだ、もちろん。

 けどね、偉い人が、大きな声で

 「アレクサンダー王子殿下!秘境の民にどうか一目でもその麗しいお姿を表してはいただけませんでしょうか!」

なんて、敬礼しながら言うんだもん。

僕は仕方なく、御者台に出て立ちあがったんだ。


 そしたら・・・


 爆発かと思ったよ。


 キャーーーキャーーーー!!!!


 アイドルのコンサート?って思うぐらいの、黄色い叫び声。

 かわいい!とか、アレク様!とか色々叫んでる。

 せめて、格好良い!とかあればいいのになぁ、なんて、しょうもないことを考えることで耐えてたよ。


 「静まれ!!!殿下はしばらく滞在され、魔物討伐をお手伝いくださる。ご尊顔を拝する機会もまたあろう。長旅でお疲れの殿下に皆の者道を開けよ!!」


 ある程度の時間が経って、さっきの偉い人がでっかい声で叫んだよ。


 みなさん素直にスーッと道を開けてくれた。


 人の道を縫うように進む馬車は、大きな建物が並ぶ一角へと進んだよ。

 1つは官舎で1つは迎賓館、そしてもう1つは領主の館、らしい。

 お話しでは、養成校の人達は官舎の一角を借りてお泊まりするんだって。

 王都の養成校だけじゃなくて、国中の養成校やらが討伐訓練に南部を訪れるから、そういう人達のためにここの官舎はお部屋がかなり多めに作られているらしい。おうちのない兵士さんの人数は増減が激しいから、どんどん増やしていったら余る時も多くなっちゃったってことみたいだけどね。


 てことで、じゃあみんなで、官舎へってなったんだけどね。

 ・・・

 僕だけ迎賓館に連れてこられちゃいました。

 王族を官舎におけない、だそうです。

 従者は僕についてていいよ、って言われたけど、なんだか一人だけ特別ってやだなぁ。

 だからってライライさんは余計気を使うし、って思ったら、ドクならいいんだって。もともと校長であり王家にとっても特別な存在であるドクは、迎賓館予定だったみたいです。よかったよ。


 僕とドク、そして従者役のバンミ、バフマ、ナハトがみんなと別れて迎賓館へ。

 こちらの案内の人に連れられて、玄関まで行くと、おひげが立派な熊さんみたいなおじさんがニコニコと待っていたよ。


 「ようこそおいでくださった。私はガリザム・フォノペート辺境伯と申す者。何度か王城にてご尊顔を拝してはいるが、このようにおしゃべりは初めてかな。ティオ様いや失礼、陛下とは恐れながら親友として古くから侍らせていただいておる。殿下のお話しはティオ様以外にも皇太子ジムニ殿下はじめプジョー殿下にも色々伺っておるよ。まこと、めんこいことよ。武勇伝も大いに気になるところ。また色々聞かせてくだされ。」


 熊さんが、しゃべった・・・無茶苦茶おしゃべりな熊さんだ・・・

 思わず呑まれちゃったよ。


 「これこれガリザムよ。王子が驚いておるわ。アレク、こやつはでかい図体をしておるが昔から人なつこくてのぉ。お前さんとも気が合うじゃろう。ガリガム、言っておくがこのアレクは、儂の弟子であり孫みたいなもんじゃからな。自分のもんにしようなどと考えるでないぞ。」

 へ?どういうこと?

 「このバカは、気に入ったものを人でも物でも側におきたくなる、という悪癖を持っておってのぉ。まぁ、言えば分かるんじゃが、エッセルも手に入れようとして決闘しおった。まぁ、エッセルにこてんぱんに返り討ちされたがのぉ。」

 「いやいや、先生。そんな昔の話を持ちださんでも。しかし、そうか、そうだったな。アレク王子はエッセル殿の孫だったか。」

 「えっと、エッセルの孫はママだよ。だから僕は曾孫になります。」

 「そ、そうか。ひ孫か・・・俺も年を取ったもんだ・・・」

 「して、ガリザム。我々はいつまでここで話しておらねばならん?」

 「おっ、これは失礼した。お二方とも長旅で疲れたであろう。今日はゆるりと休まれよ。明日、またおじゃますることにしよう。」


 ガハハハ、それにしてもひ孫か!ガハハハ・・・・と豪快に笑いながら去って行く熊さん、もとい、辺境伯。

 それにしても・・・


 やっぱりしばらく濃い日が続きそうです、はい。

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