第60話 遠征訓練(18)

 次の日起きても、特におとがめなく、というよりは、詳しいお話しはみんなが集まったあとで、なんて言われつつ、ちょっとびくびくしたりしたんだけどね。どうやら、南部の人とかライライさんとか、なんていうのかなぁ、情報を与えたくない人が側にいるので、今は話さない方がいいって、みんなが判断したみたいです。魔法や魔道具があるけど、やっぱりお外でテント、だもんね。


 てことで、僕ら討伐隊は無事に本隊に戻り、脅威がなくなったことを説明。


 でもね、グレンは一緒じゃないんだ。

 知らない人は怖がるだろうし、ってことで、自分から、のんびりつかず離れずについていく、なんて言ってたよ。

 自分のご飯は自分で調達する、らしい。

 『なぁに少々離れようが、主に貰った名前と魔力でいつでも念話できるからな。』

 なんていう謎情報を置いて、森に消えちゃった。


 って、名前を付けて魔力を与えたら、念話できるの?初めて聞いたんですけど・・・


 ドクも、名付けた魔物は懐きやすい、とは知ってるけど、そもそも名前を付けるのはペットや家畜だから、当たり前、程度にしか思ってなかった、みたい。主人の危機に名付けた魔物がかけつける、なんてのはよく聞くけど、ひょっとしたら魔物側からは主人の心が分かるんじゃないかって。僕みたいに向こうの声が聞こえる人がいなかったから、分からなかった事実かも、だそうです。


 真実はわかんないけど、グレン曰く、僕の考えが大体分かるし、僕と話は離れていても念話出来る、そう。エアが「エアと一緒だよ。」なんて言ってたから、まぁ、そういうもんだって思ってればいい、のかな?ハハハ。

 どうやらエアは、グレンとも心が通じて、とっても嬉しそうです。なんか二人で一緒に森の中で遊びながらついてきてるみたい。僕もそっちのグループがいいなぁ、なんて思ったのは内緒だよ。



 迎えの騎士団が来て、養成所の行事としては、一応終了になるとのことでした。ここからは帰る人、さらに進む人に分かれるけど、養成所の行事としてではなく、それぞれの責任で、ってことになるんだって。まぁ、帰る人はちゃんと送る予定だけどね。


 それでも僕らと一緒に南部へと向かう人。

 まさかのリタイアなしで、討伐隊で最後までいたみんな、だそう。

 彼らなら最悪グレンが現れても平気だけど、自己責任だよ?いいの?そう聞いても、みんな一緒に最後まで行軍したいみたいです。それに南部での狩りに参加したいのもあるらしい。元々の目的がそこにある、って人もいるみたいだしね。

 ちなみにガイガムってば、最後まで一緒に行くってごねてたけど、みんなにガン無視されてたよ。

 ディルさんとリークさんはガイガムについてく、て思ったけど、僕らと来るって。ガイガムさんのお守り、いいの?って聞いたら、もともとパティーヌ様の目的が僕らの目的と同じっぽいから、僕の方に着いてくのが正解だろうって。

 「親父よりお袋の方がどう考えても優先する。仕える家格的にも、こっちの心情的にもな。」

 リークさんはそんな風にカカカって笑ってたよ。



 てことで。

 討伐隊に最後まで参加していた人と共に、南部への行軍が続きます。



 そこからは特に何もなかったよ。

 だってね、戦えるような人しかそもそも残ってないから、機動力アップしたでしょ?

 それに道中ほとんど魔物が出てこない。

 これは、グレンの仕業だな。だって、時折、道に鳥や獣が転がってるんだもん。おいしい木の実つき、なんてのもあるし・・・

 こういったものの用意も結構かかるから、時短になったんだろうなぁ。



 道中では、そんなわけで狩りもなく、ただただそれなりの速さで前進あるのみ、でした。

 それまでの遅れを少しでもとりもどすべく走ってるみたい。

 まぁ、それはいいことだ。

 いいことなんだけどねぇ。


 敵は、退屈と、・・・・この、ガタガタ、だよねぇ。


 でもそこは・・・・



 フフフ。

 今回の共犯者は、大人でみんなの尊敬を集めるモーリス先生です。

 実は僕と同じ、前世の記憶持ち、しかも地球産、なモーリス先生。

 当然のように、とあるものに目を付けていました。

 僕らの前にはでっかい干しなまこもどきです。

 そう、討伐したゲンヘの死骸。


 僕もすぐに目についたんだけど、あのとき側に来て、モーリス先生が目の前に見たゲンヘ製の風呂敷もどきが気になったそう。

 「どうみてもウェットスーツの生地、なんだよねぇ。」

 先生、前世の趣味の1つがスキューバダイビングだったんだって。

 目の前でヒラヒラするその袋に目がいって仕方がなかったよ、って、あとで言ってました。


 ゲンヘをよく知る南部の人達も、どうやら魔力を注いだら、ゴムみたいに伸び縮みする、なんてのは、知らないようです。

 グレンは、触ったら柔らかいなんて言ってたけど、実際は魔力を通したらってことみたいなんだ。普通にランセルは魔力が外に漏れてるし、触ったり咥えたら魔力を通すことになっちゃうんだろうね。

 ただし、南部の人達が知らないのは無理もない。

 これがゴムみたいに柔らかくなるには、それなりの魔力量がいるようです。色々実験して分かったよ。


 でね、これをゴムみたいな使い方したいなぁ、って僕たちは考えました。

 まずはどう考えても、この馬車だよね。

 実は、この馬車、普通の馬車よりは随分マシなんだけどね。なんたってカイザー特製のサスペンションがついてる。

 でもさ、もう一つ、車輪がゴムタイヤだったら?

 この世界、ゴムみたいな樹脂、は、ないことはない、と思うんだ。

 なんて言うか、そう、乾燥して固くなった消しゴム、みたいなのはある。

 でもどっちかっていうとプラスチックの固いゴム底、レベルのクッション性しか作り出せないし、伸びはまったくダメ。

 同じく地球の記憶持ち鍛冶師のカイザーとうちのひいじいさんが、一生懸命探してはいたみたいだけど、まだ手に入れてなかったんだって。


 でも、これ、はっきり言ってゴム、だよねぇ。

 やってみたら、輪ゴムぐらいに薄くしてもちゃんと伸びた。

 僕が柔らかくしたら、僕以外の人でも伸ばすことが出来る。

 僕が魔力流してモーリス先生が伸ばす、ってことも、もちろんOK。

 で、伸ばして切断、は、モーリス先生の持つメスでできました。手術用のメスだね。カイザー特製で、超薄い丈夫な刃を持つ逸品です。

 あのね、ある程度鋭さがないと、切れないんだ。ゴムの弾力がかなり弾く、ようです。まさかのラッセイの一撃がダメだったのには驚いたよ。

 悔しがったラッセイが、モーリス先生のメスを見て、尖った剣先でそおっと切ったら切れて、ちょっと笑った。


 伸ばすのは、魔導師って呼ばれる程度の魔力を持っていればできそうです。

 あえて死体に魔力を流して引っ張る、なんて実験を今まで誰もしてこなかったから分かってなかった性質ってことだね。

 ちなみに、ここにいるうちのメンバーは全員できたよ。剣士扱いのラッセイだって、出るとこに出たら魔導師で通じるレベルの魔法の使い手、なんだよねぇ。


 伸ばして切るはできたけど、問題はくっつける、なんだよね。

 ゴムタイヤはチューブ状にして空気を入れるでしょ?

 輪っかにできなきゃ意味がない。

 もともとが筒状の物体だけど、このままチューブにのばしても、ねえ。

 もっと薄くて長くしたいじゃない?


 「普通は熱を加えるよね。」

 というモーリス先生の言葉に、僕も頷いて、魔力を暖めたりしたんたけどねぇ。

 変な魔力流しちゃうと、そもそも伸びないことも発見。

 だったら、ってラッセイが普通に火を出して伸ばしてるゴムに近づけたら・・・

 !!

 熔けた!


 ゴムは熔けて、くっついたよ。


 てことで、まさかの加工手段もゲットです。

 どうも魔力で伸ばしている間だけじゃないと、熔けないみたいだけどね。流してないで火を近づけると普通に燃えました。



 みたいなことをやりながら、コトコトと進軍。


 そして。


 やったぁ!!


 切り開かれた場所に出たよ。


 辺境バルボイ領、到着です!!!! 

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