第59話 遠征訓練(17)

 結果を言うと・・・

 とりあえず怒られなかった。保留とも言う・・・けどね。ハハ。



 「アレク王子よ。赤いランセルを連れ戻ると伝言を受けたが、貴殿が乗っておられるのが、そのランセルでござりましょうか。」


 なんとなく気まずい空気で沈黙が落ちてた中、1歩前に出てるドクが、そう言ったんだ。

 ドクのよそ行きモードのお話しは、大きく響いて、後方でこちらを伺ってる生徒たちが息を呑んだのがよく分かったよ。なんかザワザワと言ってるのは、うっすらと聞こえるし、ちょっと笑えるようなポカンとして大口あけてる人もいるし・・・


 「うん。赤いランセルのグレン。僕の友達です。」

 だから、僕もみんなに聞こえるように大きな声で答えたんだ。


 前の方にいるうちのメンバーはため息だったりあきらめ顔。

 後ろの方の人はザワザワが大きくなって、マジか!とか、信じられない!とか・・・神、とか英雄なんていうのが聞こえた気もするけど、気のせいだよね?

 あんまり持ち上げられるのは好きじゃない。僕は普通の子だよ。なんだったら、もともとは、誰よりも下の人間なんだからね?


 ちょっぴり不安になった頃、一人、二人、と片膝を付く臣下の礼を取り出しちゃった。あらら・・・ライライさんまで跪くのはまずいと思う。後ろの集団で立っているのは・・・あ、モーリス先生?たった一人になっちゃった。


 「さすがはシルバーフォックスが剣を捧げ、わがアッカネロ家の忠誠を預けるアレクサンダー様です。このクレイ、我が捧げし剣の主が、その偉大さの片鱗をお示しあそばされ、感涙に耐えません!!!」

 あ、クレイさんだったんだね・・・て、その発言、問題なんですけど。

 僕、王子って言っても剣を捧げられるような相手じゃないからね?そもそも王位継承権なんてないよ?あなたたちの剣はこの国の王様に捧げる奴だから!


 ひいじいさんが初恋の相手で未だに思い続けてるっていうのが、このクレイさんのおばさんでシルバーフォックスなんていうあだ名で呼ばれる女傑なんだよ。しかもうちのアンナと従兄弟で同い年。赤ちゃんの時からの知り合いだし、僕ラブを公言してる、ちょっと困った人。その影響が大きすぎるクレイさんにも困ったもんだけど、なんていうか、変な空気を作らないで。


 「私の剣もアレク王子に。」

 「アレク様、どこまでもついていききます。」

 等々、跪いちゃったみんなから不穏な言葉が漏れるよ。どうしよう。


 「ハハハ、みなさん、王子が困ってらっしゃいますよ。我らが王子はとても庶民派でしてね、そんな臣下の礼を取られるよりも、友達として対等に仲良くして貰う方が嬉しいお方です。跪いたあなた方の顔は忘れるかも知れませんが、屋台で焼き串をプレゼントしてくれるおやっさんの顔は忘れない、なんて方ですからね。さあさあ、立って、立って。さてと・・・ダー様、今度はどこでをしたきたんですか。大きなお友達の皆さんのお口のものも気になりますねぇ。」


 後ろの集団で一人ニコニコしながら立っていたモーリス先生が、みんなにそんな風に言ったんだ。戸惑うみんなを余所に、僕に対しても声をかけながら、ゆっくりとこっちへ来てくれてね。全員を通り越し、僕のすぐ側へ。

 丁寧に、グレンたちへも「初めまして。ダー君ともどもよろしくお願いします。」なんて頭を下げている。


 そんな様子を見ながら、後ろの集団もポツリポツリと立ちあがり、ちょっとずつ近づいてきたよ。

 といっても、仲間たちのすぐ後ろまで、だけどね。


 「ダー君、みなさんが持っているのは?」

 ある程度、ランセルをまわって挨拶を終え、僕のところに戻ってきたモーリス先生は、僕に両腕を伸ばして、抱っこして降ろそうしてくれながら、そう言ったよ。

 そうだったね。みんなからのプレゼントだ。


 「えっとね、ランセルたちはどうやら僕らが追っかけてる人間にこのグレンのお父さんで群れのボスだったランセルを殺されたみたいだ。ゲンヘが化けてたのはそのお父さんみたい。僕らを襲ったのは、同じ人間だからってんで仇を取ろうとしたみたいだけど、ゲンヘをやっつけてるのを見て、違うって思ったんだって。グレンはまだ子供だけど、強いからお父さんのあとをついでボスになってたらしい。でも、僕と一緒に敵討ちしたい、てついて来ちゃったんだ。でね、その群れからグレンをよろしくって、プレゼントを貰っちゃった。他の子たちはそれを届けてくれたんだ。」

 モーリス先生に地面に降ろされた僕は、みんなに向かって、そんな風に説明した。途中で頭の中に、友ではなく主と言え、なんていうグレンの文句もあったけど、そこは無視。


 みんならは、おおっ!と驚愕の声が上がったよ。

 なんか、僕に対する目がちょっぴり怖いけど、お友達になるのに、すごいも何もないからね?そんな尊敬のまなざしは・・・いらない。マジで。

 ああもう、その目、怖いよぉ。


 「あ、だから、このランセルはみんなお友達です。悪いけど、僕一人じゃもてないし、怖くないから、みんなで受け取って貰えるかな?」

 「はいもちろん!」

 クレイさんが一切の躊躇もなしに、テツボを咥えてるランセルの元へ。

 ふつうに「受け取ります。ありがとう。」なんて言って、ランセルから受け取ってるよ。

 それを見て、みんなもワラワラと、楽しそうに、またはおっかなびっくりで、それぞれランセルから受け取ってはお礼を言い、野営地へと運んでいってるみたいです。

 荷物を渡し終わったランセルは順に、グレンの首に自分の首をくっつけると、僕の頭をカプッて甘噛みして帰って行く。

 あーあ、どんどんよだれで頭がびちゃびちゃになってくんだけど・・・


 全部のプレゼントを受け終わって、気がつくと仲間だけ。

 さぁ、怒られる?って首をすくめたんだけど、バフマが僕を抱き上げて、

 「まずはお風呂です。」

って、テントに出したお風呂につれてかれちゃった。

 やっぱり、土まみれよだれまみれは執事的にNGだったようです。


 僕がさっぱりして、戻ってみると、ランセルから貰った食材で、みんながバーベキューの用意を済ませていたよ。

 どうやら僕を待っていたみたい。

 ナハトが耳元で、この場で一番偉いのが僕でしかも貢ぎ物を貰ったのも僕だから、僕が挨拶して、乾杯し、まず口をつけなきゃなんない、って囁いた。

 はぁ。仕方ないね。


 「みんな待たせてごめんね。今日はランセルたちと和解して、この討伐隊のお仕事も成功、っていうのかな?そのお祝いです。存分に食べて飲んでください。明日は遠征隊のみんなと合流して、いよいよ南部へ向かおう。そのためにも英気を養ってね。乾杯!!」

 乾杯の復唱とともに杯を飲み干すみんなを見て、差し出されていたピノの肉を囓る。

 「アレク王子万歳!」

 と誰か(多分クレイさん?)が言うのに、みんなが追従してから、思い思いに食べ出す。うん、最後のはいらないよねぇ。そう思いつつ、僕はもうご飯に夢中です。

 いつの間にこんなに上手に焼いたのかな?塩こしょうにハーブ、なんて、持ってたんだ。あぁ、バフマが渡したのかな?なんて思いつつ、お口は止まんない。お腹もすいてるし、みんながワイワイとやって食べるごはんは最高だね。


 そしていつの間にか瞼も緩んでいって・・・


 ベッドの中で思う。

 いろいろやっちゃった感なきにしもあらずだけど、怒られなくてよかったぁ。

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