第58話 遠征訓練(16)
こちらを遠目に、唖然としている人々。
その手前には、怒り、だろうなぁって思う表情でニッコリしているバンミにラッセイ、頭を抱えているナハト。目が笑っていないいつもの無表情なバフマ。そして1歩前にやれやれ、といった表情のドク。そしてそのそばで、ドヤ顔でニコニコして浮いているエア。あ、一応、エアが完全に見えてるのは僕とドクぐらい、だと思うけどね。
そして、そんな彼らを見下ろしている僕。
そう。
僕は今、赤いモフモフの背、というより首かな、に跨がっている。黒っぽい風呂敷みたいなのを咥える赤いランセルの背だ。
そして後方にはそれぞれ口にピノだとか木の実だとかテツボだとか、そんなのを咥える20頭ぐらいのランセルたち。
僕は、グレン=赤いランセル の背から降りて説明しなきゃ、と思うんだけど、なんだかちょっとびびっちゃってます。
とくに前方の仲間たちからの怒りのオーラっていうか・・・
『ダーちゃまのいうとおり、赤い子とダーちゃまが帰って来る。でも森の子たちとのことは全部内緒って言っといたよぉ!』
僕が現れるやいなや、盛大にお帰り~と言った後のエアの、このセリフ。
あのね、エア。内緒にするってのは内緒だって言うことも言っちゃダメなんだよ、って今度教えなきゃ、だね、ハァ。
しかし、どうしてこんなことになっているかっていうと・・・・
僕は、森の妖精たちと遊びながら、しばし赤いランセルの言うとおり待っていたんだ。
そこそこ待った、と思ったとき、大勢の気配を引き連れた赤いランセルが戻ってきたよ。
赤いランセルは、何かを咥えていて、それをドサッて僕の前に置いたんだ。
え?
大量の・・・ゲンヘの死骸?
『父に化けていたヤツらはコレで全部だ。』
『えっと・・・これ、どうしたの?』
『倒してきた。』
『へ?』
『これだけ残っていたからな。人間が集めているのを見た。』
『うん。で、これは?』
僕は10匹分ぐらいのゲンヘを入れていた袋みたいなのを見たんだ。
ゲンヘと同じようなこげ茶色の袋で、巾着みたい。
『これは触ると伸び縮みする。』
そう言うと、赤いランセルはその袋の端を足で器用に押さえて、口で伸ばした。
グーン、て想像以上に伸びたよ。これだけ伸びれば確かに大きいものにも化けることが出来るね。
僕は落ちた1匹を掴んでみた。プニプニするけど、伸ばしてもちょっとしか伸びないや。
『魔力を通してみろ。』
言われて、そおっと魔力を通すと、ワァオ!ほんとだ。ゴムみたいに伸び縮みするよ。どうやら魔力を通している間伸び縮みして、魔力を切ると、その大きさに固まるみたい。不思議だ。
赤いランセルは、どうやらそれに気付いて、上手に1匹を伸ばして風呂敷みたいにして、残りを包み込み、端を寄せて咥えてたみたい。すっごく賢いんだね。
『その赤いランセル、というのはなんとかならんか。』
『でも、ボスとかワカとかって言うのもねぇ・・・』
『その、名前、ダーとかの名前。我につけよ。』
『へ?』
『ダーと共に行くのだ。名がある方が人間にはよいのだろう?』
『そうだけど・・・』
『ほれほれ、つけよ。』
なんか、期待に満ちた顔にブンブン振るしっぽ。
うわぁ、名前っていわれても・・・・
あんまり僕、そういうのって得意では・・・ってそんな目で見られても。
赤いランセルで十分他のと区別できるよね。
うーん・・・・紅、赤、朱、炎、火・・・
彼の毛皮から連想するけど・・・あ、紅蓮、紅蓮の炎だ!
『グレン。グレンってのはどお?』
『グレン?うん良い!良いぞ。我はグレンだ、皆の者良いな!』
ワ、オーン!
おっと・・・喜んでくれたのは良いけど、なんだよそのランセルたち。気になってたけど後ろについてきたランセルたち、グレンの問いに一斉にくぐもった、でも嬉しそうな返事の雄叫び。
で、そのくぐもってるのは、みんなそれぞれに色々なものを咥えているからで・・・
『我の同胞だ。新しきボスに挨拶に来た。』
『は?』
『我は、ちゃんとボスはやめる、と言ったのだ。理由を聞かれて、そなたに下ったと言ったら、そなた、ダーこそが新しいボスだと言われた。』
『は?いやいやいや、僕、人間だよ。大体グレンは種族が違うしここから旅立つからって群れを抜けるんだよね?僕、グレン以上に違う所属だから。それにふつうに道中だし!』
『分かっておる。そう言ったんだが、じじいどもが我はこの群れの子だと、な。』
『群れの子、って・・・』
確かに僕からすれば大きなグレンだけど、他のランセルより随分小さいよね。それって・・・
『言っておくが我が小さいのは、まだ子供だからだ。まだまだ大きくなるんだからな。』
ブハッ。なにその聞き覚えのあるセリフ。なんていうか・・・さらに愛おしくなったよ。ハハハ。僕と似てる、みたい・・・ハハハ。
『でな、我もダーもこの群れのボスであるからいつでも戻るように、と言われてな。好きなだけ旅をしても良い、仇討ちも良い、ただし必要であれば群れに戻り助けを請え、そう、な・・・』
なんか、照れくさそうに言うグレン。
すると、ひときわでっかい、目の上に傷跡のあるランセルが1頭こちらに近づいてきたよ。
そのランセルは何も咥えていなくて、で、僕の前でお座りをして頭を垂れてきた。
『触ってやってくれ。』
グレンの言葉に、そういえばグレンがずっと僕に触れていることに気付いたよ。流ちょうに話せてるはずだ。
僕は深く垂らされた頭に手を伸ばしたけどちょっと、ていうか全然届かなくて、足に触ろう、としたら、グレンが僕の襟を咥えて、大きなランセルの顔の前に向かい合うようにかかげたんだ。
僕はあんまり嬉しくない体勢だなぁ、なんてちょっと愚痴ったけど、フン、っていうグレンに肩をすくめ、でっかいランセルに手を差しのばしたんだ。
『新しい我らが主、幼き人間の子よ、お初にお目にかかる。このたびは我がワカに、名を付けていただき感謝する。名は主より賜ると古きより伝わるが、我らがグレンは、主によりさらに偉大になられた。幾たびにも感謝を。そして、我らが群れの忠誠を。』
『あの、僕はあなたがたの仇、なんだ。だから・・・』
『強きが弱きを屠るは、自然の理。もともと我らが仕掛けた争い。こうして和することは感謝しても、責める由なし。どうか、ワカをよろしくお頼み申します。』
『えっと・・・グレンはもう友達だから。その仲間として、一緒に行く、けど・・・』
『諾。我らはこの地を守り群れを守ります。いつでもワカが帰ってこられるように。あなた様を迎えられるように。』
『グレンの帰る場所を守ってくれるんだ。それは、嬉しいです。』
『ん?ダーよ。我は帰らぬぞ。』
『もう。帰れる場所は大事だよ。』
『う、うむ。ならばダーもここに帰るか?』
『僕には帰れるところがたくさんあるからね。だから・・」
『だったら、ここも新たな拠点だな。ハハハ。父の兄である、こいつがボス代理としてこの地を、群れを守ってくれる。ダー、我、グレンは君と行こうぞ。』
『お気を付けて。我らが小さなボスたちよ。そして、新たなボスよ。我らの忠誠の証をここに。』
おっと、たくさんのランセルが咥えているのは、僕への貢ぎ物、ってこと?でもそれはみんなで食べれば良いのに、って思ったら、受け取ってもらえないのはすっごく悲しいこと、なんだって。
だけど、リュックも持ってきてないし、持って帰れないよ、って言ったら、みんなが持ってってくれる、と言う。
なんていうか・・・・もう、みんながどう言うかとか、わかんないや。
ちょっぴり麻痺してきた頭で、群れのこととかボスのこととか、なんとなく流して、持ってきて貰うことにしたんだ。
そうしたら、器用に僕を咥えたまんま僕を背中に乗せたグレンは、再びゲンヘを袋ゲンヘに入れて咥えて歩き出した。
そして・・・・冒頭に至る、ってことで・・・・
説明
僕にも上手く出来ないよぉ。
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