第56話 遠征訓練(14)

 ナハトもバンミとラッセイにベッドに運ばれ、気付けばドクと二人です。

 で、そんなときに、エアが戻ってきたよ。


 『ダーちゃま、お友達。お話し、して欲しいの。』

 「友達?」

 『うん。エアたちと一緒。森の仲間。』

 ?

 僕はドクと顔を見合わせた。


 「ひょっとして、この辺りに妖精がいるのかのぉ。」

 『そう。妖精!妖精とダーちゃまお話しする!』

 「えっと・・・」

 「よいよい。行っておやり。」

 ドクが言う。

 ドクも一緒に、って思ったんだけど、ドクが言うには、妖精は恥ずかしがり屋さんだから、最少人数のほうが良いだろうって。妖精と一緒なら僕も安全?らしいです。


 えっとね。

 妖精っていうのは、精霊の下位。なんだけど、これは卵が先か鶏が先か、の問題でね、たくさんの願いが集まって、それが魔素を抱き込んで、ううん、願いが魔素を生み出してって、言ってたっけ?とにかく願いがたくさん集まって、精霊の元である妖精が産まれるんだって。

 ちなみにエアは、花たちの願いが集まって産まれた妖精。その妖精たちの願いが集まって花の精霊様が現れて、花たちの楽園を作ってる。よく分からないけど、妖精たちは自我がありつつも、全体での意識もあるんだって。エアが嬉しいと他の妖精も嬉しいし、別の誰かがいじめられたら、エアもそれが分かるんだそう。その中心に精霊様がいるって感じ。うーん。よくわかんない。


 ただね、エアが僕とどこかの妖精と、お話しさせたいって思ってるって事は、花の精霊様の意志でもあるのは間違いないからね。だったら、僕は安全だし、お話し、聞いた方が良いってことなんだと思う。


 てことで、僕はエアに導かれながら、一人、森の奥に進んだんだ。



 ちょっと奥に行くと、木が繁っていて、日の光なんてまったく届かないのに、まるで木漏れ日が踊っているようにキラキラしているところがあったよ。

 うわぁ、きれい。

 僕は、なんとなく緊迫している状態のはずなのに、思わず声に出して感動しちゃった。

 濃い緑の中、光が上へ下へと乱舞していて、本当に夢見心地ってこういうのを言うんだろうね。


 一瞬、その中へ入っていくのに躊躇するぐらい神秘的だったんだけど、そんな僕の気持ちなんて知らないとばかりにエアはその中へ入っていったよ。

 すると、エアの周りにフワフワとその光がいくつか飛んでいったんだ。

 考えてもみて?

 体長2,30センチのフワフワとした花の妖精だよ?透き通った丸みを帯びた羽が優しく羽ばたいていて、それに光が纏わり付いているんだ。

 僕、息をするのも忘れてたよ。


 『ダーちゃま、こっち!』

 呆然と見つめる僕をエアが呼んだ。

 僕は驚かせちゃいけないって思って、そうっと、抜き足差し足、進んだよ。


 クスクス、クスクスクス・・・


 なんか、楽しそうに笑う声がする。

 どうやら妖精たちは僕がおっかなびっくり入って来る様子がおかしかったよう。

 うん、妖精。

 この光の球は妖精だ。

 はじめはこういう形で、自我が増えるに従って様々な形を持つんだって。

 特にエアは、僕と一緒に旅したいって言ったんだ。だからね、精霊様に言われて名前を付けた。で、僕の考える妖精を抽出したらしくて、こんな形になった・・・そうです。

 精霊様としても、僕との連絡係にエアの同行を望んだんだよね。おかけで、時折、お話しもできます。うん、精霊様たちとね。


 『えっとね、この子たちはここの子たちです!』

 教室で発表するみたいに、片手をまっすぐ上げてエアが申告してくれた。

 うん。あんまりわかんないね。

 ここで産まれた、ってことかな?

 だったらどんな願いが集まった子たちなんだろう。


 『えっとね、ここは木も土も全部、優しいの。取らないで欲しいの。大切なの。守るの。守らなくちゃなの。』

 なんとなく分かるんだけどね?

 「えっと、エア、その子たちが言ってるの、かな?」

 『うんそう。そうだ、ダーちゃまにくっついていい?この子たちの気持ち触って、ね?』

 「うん。いいよ。」


 妖精とかって、基本は、言葉がないんだ。

 感情がキラキラと分かるぐらい。

 今も、エアに一生懸命伝えようとしているのは分かるんだけど、何を言おうとしてるかはあんまりわかんない。

 でも、僕の場合、小さい頃から触れれば言葉のない動物とも話せたりしたからね、その応用、だと思う。


 だけど、本当は妖精さんにこれをOKするのは良いことじゃないんだ。

 妖精っていうのはで出来ている、言わば純粋な魔力だ。だから下手したらおぼれて、自我が乗っ取られちゃう。妖精としては悪いことをするつもりはなくても、その思いから抜け出せなくなっちゃうんだって。

 妖精に魅入られて魂が抜けた、なんて伝説もいっぱいあるんだ。


 チラッとそんな危険も浮かんだんだけどね、ま、エアがやれって言ってるし大丈夫なんだろうって僕はすぐに決意する。

 それにしても、一人で来てよかったよ。誰かに知られたら絶対反対されるからね。

 あとでエアには、このこと内緒にするように言っておかなくちゃ。長~いお説教確定案件だもんね。


 なんて、彼らを迎え入れるためにリラックスしつつ、しょうもないことを考えていたんだけど・・・



       *   *   * 



 木々をすり抜け、大地を駆ける。

 顔を打つ風が心地よく、鼻をくすぐる草や土の香りも、幸せに満ちている。


 巨大な木々のから這い出でる。

 頭上を見上げると巨大なくちばしが迫り来る。

 焦りつつも長い身体を思いっきり縮めて地面にジャンプ。

 獲物を逃したその鳥は怒りの咆哮を上げる。


 右へ左へ。

 風に吹かれるまま身体を揺らす。

 小さな花々に纏わりつくさらに小さな虫たち。


 しっぽを、腕を木の枝に纏わり付かせては、空中散歩。

 下を走る獲物に近くの木の実を投げつけた。

 キャン!

 小さく雄叫びを上げるも、こちらを見上げて、一目散に木々の中に姿を消した。



   ・

   ・

   ・




 いくつとなく、僕を駆け巡る優しい記憶。

 これは森で営まれた生命の記録?

 だとしたら、この森こそが、この妖精たちを生み出した源?


 ぼんやりと頭の隅でそんな風に思ったのは、どれだけ時間が経ったあとだったのか。

 一瞬だったかも知れないし、数日、もしくは数年も・・・



 『あ、ダーちゃま起きた!』

 僕の目の前で、ホバリングしながらエアが首を傾げている。

 「エア?」

 ウフフ、と笑うエアを見ながら、僕はまだ半覚醒状態で、ぼうっとしてしまう。

 「時間、どのくらい経った?」

 なんとか言葉が出たよ。

 ちょっと怠いなぁ、そう思ったけど、さほど時間は経っていない、・・・・と思いたい。

 『えっとね・・・』


 『ほんのひとときだよ。』

 そのとき、エアではない念話が、僕の頭に響いて、思わず跳ね起きた。

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