第55話 遠征訓練(13)

 僕ら討伐隊は、さらに奥へと進みます。


 えっとね、一部は帰って貰いました。

 なんかね、バンミのヘルプで僕たち駆けつけたでしょ?

 やっぱり、というか、なんというか、原因はガイガムだったんだ。

 まったくもって、ランセルと対峙できなかったんだって。

 それならそれで、大人しくすればいいものを、向かっていっては、ディルさんとリークさんで保護して、って繰り返し。

 一緒にいた人がついに切れちゃって、喧嘩になった隙を突かれて、大量のランセルに囲まれ、怪我人が出ちゃったことから劣勢になったんだそう。

 責任を取ってディルさんとリークさんもガイガムの警護をやめて、戦闘に参加。その中でガイガムは完全に動けなくなっちゃったみたい。足もやられたらしいし。


 そんなこんなで、ガイガム含む怪我人を強制送還。さすがに怪我人だけでは不安なんで、クジとナザに警護がてら戻ってもらいます。

 怪我人はガイガム以外に、魔導師のライナさん、パジーさん、それと剣使のセッチさんとトーアンさん、かな?



 残りのメンバーで、さらに奥に進む僕たちだけど、あの戦闘のあとは、いっこうに攻撃に遭いません。

 索敵しても、全然引っかからなくて、どうしよう。

 僕らはちょっと困って、話し合いをしつつ、ランセルたちが戻ったと思われる方向へと、進んでいきます。



 『あ、呼んでる。』



 そのとき、突然エアがフラフラと飛び出していっちゃったよ。


 妖精のエアは、こことはちょっぴりズレた次元にいるんだけどね。

 急に現れた、と言っても、僕以外に見えるのは、ここにいる中ならドクぐらい?バンミなら、、ってことぐらいは分かると思うけどね。


 「あれは!」

 なんか、大きな叫び声?

 僕が視線でエアを追って、ドクと目を見合わせていると、離れたところから、すごい勢いでライライさんが走り寄ってきたよ。目が血走っててちょっとヤバイ。

 どうやら、この次元にエアが出たことに気付いたのかな?


 「今、妖精がいましたよね?」

 ガシッと僕を掴みそうになって、ナハトに阻まれながらも、早口に言うライライさん。

 やっぱり、ナスカッテのVIPさんは魔力が多いんだね。



 「ライライ様、それ以上、主に近づくと、謀反と判断して拘束いたします。」

 ちょっとちょっとナハト、さすがにそれは・・・、と言おうとしたけど、従者役の他の二人も僕を庇うように、前に出ちゃった。

 え?どういうこと?

 僕が大人組にヘルプの視線を送ったらね、やれやれって感じでラッセイが首を振ってるし、ドクも長いおひげをなでつけて、ため息ついてるよ。


 でも、さすがはドク。

 フォローしてくれるのか、ライライさんを押さえているナハトと、それに対峙するバンミ、バフマ二人の前にゆっくりと歩み出たよ。


 「ライライ様、作戦遂行中ですぞ。持ち場を離れるとは何事ですかのぉ。それに、ここな殿下は、我が国の王子ですぞ。それに飛びかかろうと走り寄られるのは、いかがなものか。貴殿は他国の者故、暗殺を企む行為と取られても文句は言えませんぞ。」

 「え?え?そんな・・・そんなつもりはございません。でも、そうですわね。申し訳ありません。その・・・持ち場を離れたことも、アレク王子に走り寄ってしまったことも。」

 ライライさん、真っ青な顔で謝罪したよ。


 実際、バンミたち、剣に手をかけてるしね、怖いよ!落ち着いて?暗殺とかあり得ないでしょ!

 そう思っているのが分かったのか、僕の肩をポンポンと叩いて、ラッセイが小声で言った。

 「事実はどうあれ、国の要人にあれだけの勢いで走り寄れば、問答無用で切り捨てられても文句は言えないさ。」

 国の要人?僕?・・・うー・・・・

 友達みんなあんな感じなんで、気にもしなかったけど・・・

 そりゃ、そんなに仲よしじゃないし、鬼気迫ってる感じがしてちょっと怖かったけどさ・・・

 「あのね、でも悪気はなかったって思うんだ・・・」

 「分かってるよ。まぁ、博士に任せよう。」

 ラッセイがそう言うとウィンクした。



 「戦闘で気が高ぶってたのじゃろう。王子が気にしてないようじゃて、今回は不問にするとしよう。しかし、無用に王子に接近するのは禁止させて貰うぞ。」

 「それは・・・でも、その・・・さっきの気配は?あれは、妖精・・・」

 「よいか。ライライ殿は気が高ぶっておられる。じゃから、しばしの休養を命じる。本来は本隊に戻って貰うがよいが、すでに戻る隊は出発してしまったしのぉ。」

 「お待ちください。今戻ると、南部への随行は認められませんよね。」

 「当然じゃ。」

 「お願いです。随行を認めてくださいませ。謹慎でも何でもいたします。妖精についても、口にいたしません。お願い申し上げます。」

 「謹慎せよ。あとのことはそれからじゃ。」

 ドクはそう言うと、慌てて追ってきていたライライさんの従者に命令して、彼女のテントへと連れ戻させたんだ。


 何度か、テントへと足を運びながら、僕の方を見てたけどね、でも、エアのことを教えるだけの信頼関係、ないからね。ごめんね。


 僕がそう思って見てたら、ナハトがズカズカと歩いてきて、僕の目線に合わせるようにしゃがみ込んだんだ。

 で、ガシッて両肩を両手で掴んで僕の目を見て口を開いた。


 「自覚を持て!いいか。お前はもうこの国のVIPなんだぞ。外国人からしたら立派な外交の駒になる人物だ。簡単に近寄らせるな。我々が守るにしても、守られる本人が自覚がないと、危険は増大する。いいな!」

 「あは。えっとね、今は、その王子ってことでここにいるけどさ、本質は冒険者なワケで、僕にそんな価値はないというか、今は真似ッ子って言うか、その、治世者養成校の授業的なごっこ遊びっていうか・・って、痛い、痛い!」


 僕がお話ししてたら、どんどんナハトの、ただでさえキツい目がどんどんつり上がっていって、肩を掴む手にどんどん力が入ってきた。思わず涙目になっちゃうじゃないか!


 「あのなぁ。ごっこじゃない。お前は王子だろうが!大体な、私を受け入れた時点で、私はお前、いやあなたの忠実な騎士になったんだよ!王子だろうが冒険者だろうが商人だろうが、そんなことは関係なく、私が仕え、守る対象はあんただけなんだ!いいか?私は国を捨て、今までの自分を捨て、お前に拾われた。拾ったんなら責任を取れ。私だけじゃない。お前についてきた、我が同胞たちや他の人民たち。お前に何かあったら!」

 「・・・ナハト、泣いてる?」

 「バカ!泣いてない。泣いてても関係ない。ああホントなんなんだよ。おいバンミ!おまえよくこんな奴の側にずっといられるな?心臓がいくつあっても足りないぞ。なんで主が最前列で部下を守って立ちふさがってるんだよ。なんで、兵隊を下がらせて保護してんだよ。バカか?バカなのか?あ・・・あっ。」


 しゃがんでいたナハトが立ちあがってバンミに怒鳴りつけ始めたんだけど・・・

 ふらっ、とナハトが立ちくらみしたよ。

 バンミが慌てて、彼を支える。


 「ばぁか。お前も一緒だろうが。ダーのコントロールで魔力ボロボロじゃん。まだ寝てなきゃなのに、無理しちゃってさ。ハハハ。おまえもすっかりダーに毒されたよな。すっかり過保護なナッタジ一族だ。」


 いつもの人をくったような顔で笑いながら、半分気を失っているナハトを見るバンミは、それでもいつもよりずっと優しく感じたんだ。

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