第54話 遠征訓練(12)

 「ゲンヘ?」

 僕の後ろから、ディルさんが近づいてきて、言ったよ。

 ゲンヘって、パクサ兄様に化けてた魔物、だよね?


 ドサッ。

 あっ、ごめん。ナハトがふらついてしまったよ。って、バンミ、抱き留めてるけど、結界は?

 そう思って首を傾げたら、バンミが顎で前を指したよ。

 あれ?いつの間にか魔物がいなくなってる。同じ魔力の子しか倒してなかったよね?


 「さっき、遠吠えが聞こえて、撤退してった。」

 ラッセイがこっちへ来つつ、そう言ったよ。

 で、剣先で何かをひっかけて、僕たちに見えるようにつきだした。

 うわっ、何コレ?

 ぶよぶよが乾燥したみたい?

 前世でいえば、・・・

 そうだ!中華街で見た乾燥なまこ!!ただし、僕の腕どころかラッセイの腕サイズだけどね。


 「これが、死んだゲンヘです。魔力と血を吸って化けますが、死ぬとそれらが霧散します。そして干からびてこうなるんです。」

 ディルさん解説。

 「あとね、ほら。」

 さらに後ろからやってきたリークさんが、ひょいっとラッセイの剣からゲンヘの死体を取り上げると、なにやら魔力を注ぎ込んだよ。

 うわぁ、気持ち悪いけど面白い!

 魔力の当たったところからモコモコモコって、デカくなっていくんだ。前世でこんなおかしあったよね。コレは食べる気にはなんないけど。なまこ、と思えば、あり、なのかな?僕の不確かな記憶を探っても、食べた記憶は・・・ないです。


 僕が興味津々で、見てたら、「やってみ。」ってぽーんとそのふにょふにょと大きくなっていくゲンヘを、投げてきたよ。

 思わずキャッチしたぼくに、リークさんが、

 「ゆっくり魔力を通してみな。もとのサイズに戻るから。」

 え?これより大きいの?

 そりゃそうか。これどうみても干からびてるもんね。

 僕は、なっとくして、そぉっと・・・・


 パン!!


 はじけちゃいました・・・


 キャハハハハ、って腹を抱えて笑うリークさん。

 パシッて、その頭をディルさんがはたいたけど、僕は呆然です。

 だって、ほとんど持っただけ、だよ?


 「済みません、殿下。うちのリークが・・・殿下の漏れてる魔力だけでも、これを膨らませるのは難しいようですね。普通はこいつの言ったとおり、元の姿ぐらいまで戻るんですが、殿下がやったみたいに急激に魔力を流すと、膨れきってはじけてしまうんです。ダンジョンのときは、吸収されたみたいですが。」

 そんな風に、ディルさんが謝ってくれてるけど・・・

 僕は、ちょっとショックです。


 小さい頃に比べて多少は魔力が溢れるのを抑えられていると思ってたんだけどなぁ。それに、ドクにもらった魔力を外に溢れさせないペンダントを装着してるし。なのに、凄腕魔導師でもないディルさんに、僕の魔力漏れを当たり前みたいに言われたよ。


 「殿下、大丈夫ですか。急にはじけて怖かったですね。本当に済みません。ちゃんとこいつにはあとで言っておきますんで。」

 僕の様子に慌てたように取り繕うディルさん。

 違うんだ。

 別にはじけたことがショックだったわけじゃないです・・・


 「大丈夫です。えっと、僕の魔力が漏れてるって聞いて、ちょっとショックだっただけだから。」

 「え?」

 ディルさんとリークさんが固まったよ。

 「え?」

 僕も、固まった。


 「はぁ。あのな、ダー。そろそろペンダントをもうちょっと強力にして貰うか、もう少し押さえないと、それなりの魔導師にはバレバレだと思うぞ。てか、気付いてなかったとは思わなかった。」

 呆れたように言うバンミが、ラッセイの同意を求める。

 「ああ。その話は博士やゴーダンともしてたんだけど、隠蔽を諦めることにした。ペンダントでかなり押さえられてるし、ダーぐらいの子ならその程度の漏れるのもありだってね。」

 「どういうこと?」

 「訓練前で魔力の多い普通の子レベルで漏れてるってこと、かな?」

 ラッセイが首を傾げながら言う。

 「その程度なら、あり得るからOKってさ。」


 ペンダントのことを知らなかったディルたちは、さらに固まってたよ。あとで聞いたら、普通に魔力の多い子供だから仕方がないって思ってたんだって。自分たちの認識を改めるって言ってたけど、何を改めるんだろう?


 ま、それはいいとして、僕はお触り禁止で、いくつかゲンヘの死体を集めつつ、もといた場所へ戻ったよ。


 僕たちだけじゃなくて、ドクたちも死体を集めてきたみたい。

 これがゲンヘの死体だって知っている南部の人がいたみたいで、とにかく持ち帰ったそうです。

 あっちも、遠吠え聞いて逃げたんだって。


 戦ってた人、それを見てた人、みんなで感想を言い合って分かったこと。


 ゲンヘだった偽ランセルは、かなりの強い個体だったようです。

 で、あのはじけた感じは、どうやら魔力で覆って変身しているその魔力が消えるときに感じるみたい。これが分かるのは感知系の魔法が強い人だけみたいで、同様に同じ魔力の偽ランセルを見つけられるのも、感知系の人だけのようです。


 でね、ドクのチームにいた人が、偽ランセルの見分け方を魔力以外で見つけたんだって。どうも右前足に斑みたいな黒い点の模様があったみたい。これは、どうやら元になったランセルの特徴のようで、よくよく見ると、斑や縞の模様がある個体も多いんだって。


 てことで、分かったことっていうか、今回のランセル大量発生の謎だけどね。どうやら、ゲンヘによって水増しされてた、ってことらしいね。

 ただ、まだ謎だ。

 だってね、僕たち南部へ向かっているし、ゲンヘは南部の魔物だとはいえ、この辺り、まだゲンヘの生息地とは離れてるんだ。だからこんなに大量のゲンヘがいるのは謎。

 それにね、材料にされちゃったランセル。あきらかにランセルの中でも強い個体だった。下手したらボスでもいいぐらいにね。

 そんな強いのが、こういっちゃなんだけど、ゲンヘにこれだけ吸われるか?ふつう気付いてやっつけちゃうよね。それこそニョンチョとのコラボでもない限り・・・


 ついつい、王都の事件と関連づけちゃいそうになる僕たち。

 「可能性の1つとして頭に入れておくのはええじゃろ。じゃが、あくまで可能性じゃ。先入観なしに調査を行うんじゃぞ。」

 はい!

 ドクの指摘に、僕らはみんな頷いたよ。


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