第53話 遠征訓練(11)
はじけるやつは、何故か同じ魔力っぽい。
えっとね、魔力っていうのは、なんていうか、個性があるんだ。
強い人ほど違いは顕著かな?
これって、人間はもちろんだけど、魔物だってちょっとずつ違う。
といっても、種族ごとは似てるし、違うっていっても、よくよく見れば違うって程度なんだけどね。ほら、自分のペットの鳴き声って、聞き分けられるでしょ?アレに近いかな。
誰でも人間の泣き声と犬の鳴き声は分かるし、同じ犬でもチワワとセントバーナードだと違う。
で、うちのチワワと余所のチワワも分かったりしない?ああいう感じ。泣き声を魔力って置き換えると、ほぼほぼ正解です。
でね、たとえば、目の前に同じ種類の犬が10頭いるとしよう。
10頭がまるまる同じ体型じゃないのは分かるし、泣き声もなんとなく違いそう、ってのは分かるでしょ?ロボットでもない限り、まったく同じサイズとかないよね?双子でもよくよく見たら違うし、ロボットでさえ、微妙なモーター音とか、傷の在処、とかで、自分ちの子は分かるかもしれない。
でね、目の前のランセル、です。
シルバーウルフってぐらいで、まぁ、銀色の毛だね。
でも、ほぼほぼグレーなのから、白っぽいのまで、そして、なんとなくまだらな奴とか・・・・
目の色だって、基本は深いグリーンだけど、薄いのは、黄色っぽいのもいるし、茶色に近いのもいる。
なのに、まったく同じサイズ、同じ色形、そして同じ魔力のヤツらが数頭。
「ダーは同じ魔力の、見分けがつくか?」
シュパシュパ斬ったあと、ラッセイが僕の側に戻ってきて、早口に言う。
うん。外見をパッと見極めるのは難しいけど、魔力はロックオンした。
「だったら、そいつらをまず狙う。僕も違和感の原因が知りたい。」
てことは、マーキングすればいいのかな?
僕は、石つぶてをぶつけて、マーキングし、ラッセイの討伐のお手伝いをしようと思ったんだ。僕の魔法でまとめてやっつけるには、ちょっとばかり・・・もろい?
ランセルの銀の毛は高く売れるし、お肉は固いけど甘くて美味しいからね。できるだけきれいに討伐する必要があるんだ。これ、冒険者の常識。一応、僕だって剣を使えばそれなりに商品になるように討伐できるけどね、でも、ラッセイみたいに一太刀ってわけにはいかないんだ。まだまだ非力で悲しいね。
それに、やつらは素早いからね。剣を振るいながらの高速移動って、力が入りきらない。完全に足を止めてる奴なら3回ぐらいでやっつけられるけど、動いているなら、10回は剣を当てないと仕留められないんだよね。
当然商品価値は落ちるし、時間がかかるほど僕にもリスクは増える。こんな風に守る人がいるなら、得策とは言えない。
さっきね、ランセルの頭上を飛ばされながら、土の弾を打ち付けたんだけどね、えっと・・・・ぺちゃんこになっちゃってました。あ、数頭だけだよ。あのときは商品よりもみんなの命、でしょ?
てことで、マーキングに、小さめの魔力を込めて拳銃ぐらいの弾を放つ。
ドゴン!
あれれれ?
おかしいなぁ。
いや、拳銃ぐらいのつもりだったんだけどね、えへへ。なんだろう。頭が消えちゃった?
「ダー!」
うん。今のだと、変なはじける感じ、なかったね。ごめん・・・
仕方ない。最後の手段ってことで、
「バンミ・・・あっ。」
バンミにお手伝いして貰おうと思って、声を掛けかけて思い出したよ。バンミってば結界を張ってる。
石でも投げて教える?
って、僕、投擲で当てれる自信なかったです。早いし、遠いなぁ。
「ったく、私が手伝う。」
僕が迷ってたら、背中から、声がかかって、肩に手を置かれたよ。
?
ナハト?
「魔力コントロールが必要なんだろう?」
「えっと、そうだけど・・・でも・・・」
ナハトは魔力がバンミほど多くない。僕の魔力をコントロール、なんて無理だよね?
「私を誰だと思ってる。お前らほど化け物ではないが、あの施設でも有数の魔導師だったのだぞ。それに、バンミのスペアとしてお前のコントロールをする訓練はしている。」
「え?はじめて聞いたけど?」
「はじめて言うからな。」
「・・・なんで?」
「バンミが倒れて誰もコントロールが出来ないお前を放置できんだろうが。スペアは必要だろう?」
「ナハトが・・・スペア?」
「能力的に妥当だろ?というか。こんなつまらんことでグダグダ話すのは時間の無駄だ、やることをやるそぞ。」
あのナハトが・・・と僕はちょっとビックリしたよ。
プライドが高く、自分が1番、な人だったのに、スペア、だなんて。
ビクン!
ぼうっと考えていたら、肩に当てられた手に強引に魔力を吸われる感覚がして、思わずビクンってなっちゃった。
なんていうか、抵抗がすごいのかも。
いつだって、僕のコントロールをしてくれる人たち、バンミとかゴーダンって、僕の魔力を知らない間に触っているから、なんていうか、こんな異物感は初めてで、ちよっと怖い。
けど、流れてくる思い。
魔力を触れさせると、感情も触れてしまうからね。
すっごく優しいのと、なんていうか決意?覚悟?そんなのが感じられる。
ナハトが魔力をコントロールしてくれる。
そうはいっても、僕が簡単に楽な魔力量でぶっ放したら、ナハトは壊れちゃうだろう。自分のなかで細心を払い、小さな弾丸をイメージする。
僕の魔力をがっしりと掴んでくる、ナハトの魔力が、不思議な感じ。
ピュン、ピュン、ピュン!!
数発の弾丸状の土くれを、同じ魔力を持つランセルへと撃つ。
成功だ!!
間髪を入れず、ラッセイがそいつらの首をはねる。
やっぱり、パンと何かがはじける感じ。
おや?
ドタ、ドタ、ドタっと、崩れ落ちるそいつらの様子に違和感を感じた。
ああそうか。
魔力が同じって感じる前から感じていたその違和感の正体が、横たわるランセルたちを見て、やっと納得したよ。
こいつら・・・・毛がない。
ウルフ種は毛皮が大切。
なのに、あのはじける感じと共に、横たわったこいつらは、つるんと、ううん、ブヨンと、していた。
「ゲンヘ?」
そのとき、僕に近づいてきたディルのつぶやきが、僕の耳に響いた。
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