第52話 遠征訓練(10)

 あちゃー・・・思わず僕は目を覆いたくなっちゃったよ。


 討伐隊2日目、お昼休憩の後。


 ランセルは1度に表れる数が倍々ゲームで増えていってる。まぁ、僕が索敵して、それらしき魔力たくさん集まっている方に誘導しているし、昼休憩ちょっと前から、なんとなく、向こうから組織だって攻撃を受けるように感じ始めたってのもあるんだよね。


 で、あまりばらけずに行動をしていたんだけど、僕とラッセイが一番厚そうなところに飛び込んで、向こうの連携を崩し、他のメンバーが残りを倒す、をルーティーンって感じでやり始めていた矢先、だったんだ。


 『ダー、協力頼む!!』

 僕は前に出てたんだけど、急にバンミからの念話が届いたんだ。

 僕は、ラッセイに声をかけて、二人で前線から下がったよ。


 右翼側の集団にバンミがいて、なにやら、土のドームみたいな結界でしのいでる感じ。結界の前に、クジとナザ、そしてバフマまでいて、あとは、数名、あれは冒険者の双子と、ディル&リーク?

 結界の外で、囲んでくるランセルの群れをいなしていた。

 あちゃー、守りに入らなきゃ、な、戦況ですか。

 やっぱり戦力に不安あり、だよねぇ。


 それにしてもランセルの数が多いけど、魔法を使うと、外に出てる人達にも被害が出そう。どうする?

 一瞬逡巡した僕に「ダー!!」ってラッセイが叫んだよ。

 ラッセイは僕が走る後ろに陣取って、ついて走りながら、僕らを追うランセルを退治していたんだ。僕も、後ろに向かって、ウィンドカッターを乱発しつつ、走ってきたんだけどね。


 ラッセイの声にチラッと彼を見たら、ちょっとに走るスピードを上げて、僕に向かってきたよ。

 追いかけるランセルの群れを放置して、剣を鞘に入れると、両手をちょうど前世でバレーボールでボールを受ける時みたいに、手のひらを重ねて見せてきて、僕に頷いた。

 ラッセイの意図を僕は察して、その手のひらに向かって走り込む。

 タイミングを計って、ジャンプ!!

 僕は、ラッセイの手のひらに着地し、と、同時にラッセイが強く僕を空中高く打ち上げたよ。

 きれいに孤を描いた僕は、ランセルの頭上高く飛び越える。僕は飛び越えながら、クジたちに襲いかかるランセルの群れへと、大量の風の刃をお見舞いした。


 おっとっと・・・・


 キャイン、という大量の声と共に随分の数倒せたのは良いけれど、空中ではやっぱり体勢を保つのが難しかった。魔法の反動で、僕の身体が予想と違う孤を描いて、後ろに飛ばされる。


 うわぁーーー


 僕は思わず悲鳴をあげちゃったよ。


 ドーン!!

 ズシン!


 パフッ。


 衝撃に備えて思わず目を瞑った僕。けど、予想に反して、大地に叩きつけられることなく、優しい衝撃で、全身が包まれた。


 僕はそぉっと、瞑った目を片方ずつ開く。


 「ったく、危ないなぁ。」

 にへっと笑う顔が僕を上から見ていたよ。

 「ナザ~。」

 思わず気をの抜けた声が出る僕。

 その間にもカキン、キャイン、なんて戦闘音は続いているんだけどね。


 どうやらフラフラと飛ばされた僕をドーン、って持っている盾を投げ捨てて、ズシンって受け止めてくれたみたいだった。

 僕はナザに背中から抱かれたみたいになっていたけど、

 「もうちょい仕事な。」

 そう言いながら、ナザは僕をそおっと地面に下ろしたよ。


 僕らの前には、バフマとクジ。

 バフマはナイフ、クジは剣でそれぞれ周囲のランセルをさばいている。


 チラッと僕は後ろを見たよ。

 バンミの結界には数名の生徒たち。怪我しちゃった人もいるみたいで、結界に守られていた。


 「ダー様!後ろはいいから、前を殲滅!」

 そのとき、ナハトの声が、怪我した子たちの間から聞こえたよ。

 やれやれ、人使い荒いなぁ。まぁ、見たところ治療にまわってるみたいだし、いいんだけどね。


 「ウィンドカッターからの、ストーンバレット!!」

 僕は、こんどは結界を背に、前の敵へと向かい合う。

 走り込んできたラッセイと挟み撃ちにして、どうにかこっちのランセルは始末できた。

 ちょうど、その頃。


 左翼側から、でっかい魔力。これはドクだね。

 今までドクは戦わずに見守っていたのに、そろそろ出なきゃダメなぐらい、相手が多い?

 まぁ、ドクがやったのならあっちの心配はないけど。


 はぁ、って一息ついたとき、僕とラッセイが最初に対峙していた集団がこっちにきちゃったよ。


 「王子以外、結界内に待避!」

 ラッセイが叫ぶ。

 ハハ、王子って僕、かな?僕だよねぇ。


 一瞬、その命令に外に出てた人がギョッとした表情を向けた。あ、養成校の人が、ね。うちの関係者はいそいそと入っていったよ。躊躇なさ過ぎて、ちょっとは居残りの僕を気にしてよ、って思ったのは仕方ないよね?ってほどのスピードだった。ハハ。おかげで、他の人達も僕とラッセイをチラチラ見つつ、結界の中へと大人しく下がってくれたみたい。


 僕とラッセイは、結界のドームを背後にして、横に並ぶ。


 10匹ぐらいのランセルがうなり声をあげつつ、対峙しての睨み合い。


 「ダー、なんか妙だ、と思わないか?」

 ラッセイが目はランセルに向けたまま、そうつぶやく。


 うん。

 僕も感じてた。

 なんか変な感じ、なんだ。

 違和感、ていうのかな?


 ランセル、って言うか、ウルフ種って、結構いろんなところにいる。

 だから、僕らも何度も狩ってるし、特殊個体だって何度も出会ってる。

 今回は異様な数。しかも特殊個体は、直接見てはいない。一度、「引け!」っていうみたいな遠吠えを聞いただけ。

 それだけでもなんか変、って思う。でも特殊個体が率いてるのなら、あり得るのかな?って感じ。


 でもね、僕や、たぶんラッセイが感じている違和感、ってたぶん違う、と思うんだ。もっと、気持ち悪い違和感。

 正体が本当は分かってるんだけど、名前が出てこない、そんなもどかしさをかんじるんだ。


 「やるから、見てろ!」

 そのとき、ラッセイが飛び出した。

 きれいな太刀筋で、1匹、2匹。

 ん?

 2匹目の時、何かが、おやって思ったよ。

 切られた瞬間が、なんかおかしい。なんていうのかな、そうだ、でっかいシャボン玉がはじけた感じのパリン感。


 2匹倒して、元の場所にラッセイが戻る。

 どこからともなく現れた次の個体が、倒した隙間を埋めて、また同じような睨み合い。

 「どうだ?」

 「うん。2匹目が切られるとき、何かおかしかった気がする。」

 「・・・もう1度行く。」

 ラッセイが出る。

 同じように2匹を倒した。


 あれ?

 今度は2匹共だ。切られた瞬間に何かがはじけた感じがした。ほんの一瞬。注意してみてなきゃわかんないぐらいの一瞬、何かがはじけたのは間違いなさそうだ。

 僕は再び戻ってきた、ラッセイにそう言う。

 それと・・・


 「それに、こいつら変だよ。なんていうか・・・魔力が同じのが何頭もいる。はじけたのは、同じ魔力があるやつっぽい。」


 そう。なぜか、まったく同じ魔力を纏う個体が数匹。

 そして、切られたときにはじけるような感じがしたヤツらは、同じ魔力を纏うやつらだったんだ。

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