第50話 遠征訓練(8)
治世者養成校への話を終えて、僕は自分の馬車へと戻ったんだけど、しばらくしたら、いつの間にか姿を消していたバフマが、宵の明星のメンバーを全員連れてきてくれたんだ。色々話したいことも出来たし、さすがに気が利く執事君です。
馬車の近くに大きめのテントをセッティングしていた僕らは、ドクが出した魔道具を作動させて話し合いを始めることにしました。うん、外から中の様子か分からなくなる魔道具。聞き耳防止、ってわけ。
バフマがある程度分かっていることを報告してくれていたんだろうね。
座ったドクはライライのことを聞いてきたよ。
「急に手を捕まれて念話をしてきたんだ。教えられた通りに心の防御はできていたと思うよ。僕が念話も出来るって知らなかったみたいで驚いていた。えっと、防御ができたのにビックリしてた?」
「ライライ、か。確かパリミマウムの一族の子じゃったか。」
ドクが言った。
「パリミマウム?」
「元老院の議長を務めるのが、彼女の祖父か曾祖父か、そういったところじゃの。実質ナンバーワンの子息じゃな。」
「・・・じゃあ、彼女が知っていることは、ナスカッテのトップの人も知ってる、ってこと?」
「どうした?何があったんだい?」
ラッセイが聞いてくる。
「えっと・・・ライライさん、エアが見えるみたいだ。それで、僕のこと精霊の愛し子って言われる人じゃないかって・・・でね、精霊の愛し子ってのをセスが迎えたことを知っているって。それと、白い大地のことも・・・」
ラッセイは、ちょっぴり怖い顔になって、何か考え事をしだしたよ。
で、そのときにはこそこそとクジたちが片隅に寄って、バンミやナハトにセスでの出来事を教え始めたみたいだ。
えっとね、セスってのは、海を越えた北の大陸にあるナスカッテ国のとある一族なんだ。一族って言っても、大昔に魔物の襲撃をくい止めていた、勇者とも言われるセスって人とその部下が元になっている、種族すら超えた集団なんだけどね。
北の大陸は、僕らの国がある大陸と違って、魔物が強く、魔素に溢れている。
人類は日々、浸食してくる魔物たちの領域から、人の地を守り広げようと、ずっと戦っているんだ。
でね、その最前線を担っているのがセスの一族なんだ。
僕たちは、以前、北の大陸に行ったときに、そのセスと出会った。ていうか、ドクの故郷がセスで、まぁ里帰りに付き合った感じだったんだけどね。
そこで、日々魔素の浸食と戦っているところ、僕のある魔法がこれに有効なんじゃないかって思える事件が起こったんだ。それが白い大地、ってお話し。
でも、その魔法を上手く操れなくて、事故みたいなものだったから、今後研究して、いつかは役に立つためにセスに行くよ、ってなってるんだ。そんな僕のことをセスの長老さんはじめ、みんなが一族に迎える、なんて話しになって、まぁ、名誉市民みたいなもん?
ただね、1つ大事なこと。
セスの一族は、とっても強い。
軍事的にとっても大切な人達なんだけど、都会を離れて愚直に境界線を守っているんだ。
そんなセスは戦力として当てにされながらも、田舎者として馬鹿にされている存在だ。そんな彼らは、国にあって特殊な立ち位置にあり、だから一種の自治権が与えられてるみたいになってるんだ。
そんなこともあって、セスには国とは別の考え方があり、内緒事も多い。
セスの人達は僕を仲間として認めてくれながらも、僕をそこに留めたりせずに、僕の夢を応援し、気長に魔法の完成を待っていてくれている。
で、僕のことはトップシークレット扱いにしてくれているんだ。
だって、僕の力が分かっちゃったら、大陸の浄化のために、僕を確保しようとするだろうから、って。
僕の髪色だけでも、すごい魔導師になりそうだから確保したい、なんていう人がいっぱいいる。
ナスカッテ国はエルフとかが幅をきかせていて魔法に関しては、かなり強いんだ。 でも、そんな中でも、僕の髪に興味を持って抱き込もうとする人達がいる。
だけどね、もし、僕が、魔素を取り除き、魔物の侵攻を防ぐことが出来る、なんて思われたら、どんなことをしてでも捕まえようとするだろう、そうセスは考えて、僕のことは国には内緒にする、って言ってくれたんだ。
そこで、ライライさんの話しになる。
ライライがあの国の偉い人のところの子供だってことは、僕を捕まえようとしている人かも知れないでしょ?側に置いておくのは危険なタイプ、だよね?
だけど本当の意味で僕がそういうことをやった人、とまでは知られてないと思う。
これはセスの長老から聞いたんだけど、昔は精霊って言われる存在もナスカッテにはいっぱいいて、一緒に魔素の浄化を行ったり、魔物と戦ったりしていたんだって。でも、数百年生きる大人のエルフはともかく、短命の種族や新しい世代の人からは、そんな精霊がおとぎ話の類いだって思われ始めてるんだ。
だけど、精霊はいる。
実際、僕はナスカッテ国で花の精霊と出会って、その分体とでもいえる妖精のエアが仲間になった。エアを通して精霊様ともお話しできるんだ。
「のうアレク、そのお嬢ちゃんは、アレクを精霊の愛し子なんじゃないか?と言ったのじゃろ?」
「うん。」
「おそらくは、エアも完全に視認したわけじゃなく、気配を感じたのじゃろうな。エアのような姿はおとぎ話でも見たことはなかろうて。」
「ああ・・・」
確かにそうみたい。
セスの一族である仲間のアーチャが言ってた。
そもそもエアは妖精って聞いて僕がイメージした姿を取ったんだって。
妖精は精霊の眷属っていうの?精霊の子供みたいなもんで、精霊と深いところで常に繋がっている精霊の一部、みたいなもんなんだって。
で、精霊もイメージなら妖精もイメージ。
エアは僕についてきたいっていってくれた妖精で、僕のところに来た時に僕の思う妖精の姿に生まれ変わったんだ。
産まれる前の世界で妖精っていえば、っていうのを想像しちゃった僕は、羽の生えた可愛い小さな女の子、っていうエアの姿を創り出しちゃったってわけ。
だから、ほぼ完全な人型であるエアの姿をそのまま見たら、魔物の一種だって間違われちゃいそうなんだ。エアが望まない限り普通の人は見えないけど、たまに魔力の強い人とかは見えたりする。そこそこ強い人は感じるだけってところかな?ゴーダンでさえ、自分では視認できない。いるのはわかるらしいけどね。
そんなんだから、エアの姿を見えてないんじゃないかってドクは思ったんだろうね。
「パリミマウムであるならば、外からセスの様子を見て、何らかの変革があったことに気付くじゃろうて。それにのぉ、精霊については、その存在を広めるように、いろいろ手を打ったじゃろ?じゃから、精霊の愛し子というのは、伝承を合わせて考えられた予測じゃろうな。」
「伝承?」
「ああ。精霊が現れるには、精霊に愛された人が必要じゃとされとる。精霊は人に憑く、とくまでいわれるんじゃ。精霊の噂が立つ以上は、その精霊に愛された人間がいるに違いない。その噂とセスの白い大地。2つを合わせれば精霊の愛し子が精霊に頼んで力を使って貰った、と考えるのが普通じゃと思うがのぉ。」
「それって、僕があれをやったとは思ってないってこと?」
「むしろ、幼子があれをやったという発想は浮かばんじゃろ?」
「それは・・・・そうか。」
あれはもう5年も前の話。
そんな僕が、魔素をごっそりと消した、なんて誰も信じないよね。
「パリミマウムとて、確信があるわけじゃなかろう。いくつかの状況証拠から推測したに過ぎんはずじゃ。」
「でも、ダーがあそこにいたってことは、さすがに掴んでいますよね。」
ラッセイが言う。
「じゃろうな。アレクよ。下手に邪険にしすぎると、かえってやぶ蛇にもなりかねん。常に観察されとる、そう思って行動せねばならんじゃろうて。じゃが、こちらでもできる限り、お嬢ちゃんをおまえさんに近づけないよう采配しよう。皆もそのつもりでのぉ。」
全員、ドクを見て大きく頷いた。
「それはいいとして、アレクよ、おぬし、ちょっとやり過ぎたようじゃのぉ。」
「え?何を?」
「前の襲撃で、見たことのない巨大魔法を使ってるのを見た、と、うちの生徒が大騒ぎしとったぞ。一瞬で道を作ったというから見に行ったら、あれは風と土の組み合わせかのぉ?オリジナル魔法を詠唱なしでぶっ放した、そう騒いでのぉ。お陰で、アレクが討伐隊に参加すると言ったら、参加希望者が溢れて困ったわい。」
「えっと・・・あれは、なんかヤバイって思ったから・・・」
「まぁ、実際、あの魔法がなければ、死人が出てたでしょうしね。」
ラッセイも同意してくれたよ。ホッ。
「ああ、あれらも困ったもんじゃのぉ。」
「あの3人も希望を出しているんですが・・・」
「マジ?」
「ああ。ただ、こっちは参加希望者はそんなに多くないけどな。剣使養成校の参加者は、騎士狙いがほとんどだ。今回迎えの騎士の方がランクが高いやつらだ、って言ったら、帰るってさ。実際、プジョー殿下やポリア殿下も帰還組だし、先に行くうまみはないからな。」
ラッセイが言うけど、でもあのガイガムが?おかしくない?
「ああ、あのぼんくらなぁ。ダーに勝とうと必死っぽいぞ。ダーが行くなら行くと引かないって、リーク殿に愚痴られた。」
バンミがそう言うと、テントの中は苦笑に包まれたよ。
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