第48話 遠征訓練(6)
ナハトと一緒に引率の人達が会議するテントに行くと、なかなかに険呑な様子だった。
どうやらラッセイとプジョー兄様でもめてる?って感じ。
中には2人の他に、プジョー兄様の従者が3名。ドクにリネイ。どうやら各引率に加え騎士代表としてリネイがいるようだね。
僕が入ると、プジョー兄様が僕に顔を向けて言った。
「アレク。指揮をお願いしたはずですが、持ち場を離れていましたね。」
正直、はぁ?って感じ。
プジョー兄様が嫌いってわけじゃない。むしろやさしいしいろいろ教えてくれるし、多分僕のことを気に入ってくれてもいるんだろうけど、いつだってなんか本当の大事なところをはぐらかしてるんじゃないかな、って思うような話し方をする。それが王族として正しいコミュニケーション方法なのかもしれないけど、僕は苦手かも。
だから、僕はいつだって正攻法だ。
「誰でも出来ることは任せて、僕にしか出来ないお手伝いに行ってたからね。」
ちょっぴり兄様の額に、縦のお皺が入ったよ。
感情を表に出すのが珍しいだけに、この僕の発言はさすがにいただけないのかな。ナハトも、後ろから背中を軽く小突いてくるし、きっと不正解の回答なんだろうけど・・・
「誰にでも出来る、とは聞き捨てなりませんね。」
「だってそうでしょ。僕は指揮なんてやったことない。授業すら受けたことないよ?それなのに指揮だ将軍だって言われても困っちゃう。まともな教育を受けていない平民の10歳のガキにそんなことをしろなんて、それでOKだったら、結局誰でも良いって事だよね?ただ立って見てるだけの簡単なお仕事、ってこと?だったら人の命がかかっていて、僕なら助けられるかもしれない、そんな現場を優先するのは当然でしょ?」
「一兵卒と全体の指揮、比べるのもおこがましい、とは思いませんか?」
「人の命とお飾りの人形。僕にとってはそうとしか判断ができない。人形の方が大事っていうのが王族なら、僕にはまったく向いてないって証明が出来たよね。」
「私は君が王の器だと・・・」
「王の器なら指揮を優先するのでしょ?だったら僕には絶対ムリだ。そもそも大事なもんが違うんだ。」
兄様は、こいつ何を言ってるんだろうって思ってそう。僕を説得?納得?そんなことをしようと一生懸命頭を悩ませてるんだろう。
僕に王の器なんてない。
だって、僕が大事なのはいつだって、目の前の人、手の届く範囲の人だけなんだもの。
そもそも王になるのは兄様で、仮にそうじゃなくてもパクサ兄様だって優秀だ。いやなら姉様。別にこの国は男優先じゃないんだから。
なのになんでこんなに僕の王族らしさにこだわるのか、正直理解出来ないんだ。
って、これは姉様にも言えることだけどね。
「まあそのへんにしなさい。プジョー王子もラッセイの言葉を少しは理解したんじゃないかね?」
そこに口を挟んだのはドクだ。
見回すとプジョー兄様とその従者以外はこっちの身内みたいなもの。完全アウェーでも、王子としての矜持でか、しっかりと意見が言えるってのはたいしたもんだとは思うよ。
で、ラッセイの言葉って何?
「優先順位の問題だ、とラッセイ卿はおっしゃっていたのですよ。アレクの行動はアレクの中の優先順位で正しいもので、そのことに口を出すのは最初の契約と異なるってね。」
そうですか、アレクの優先順位ですか・・・なんて、兄様は口の中でブツブツと言っている。
「そうですね。陛下がお認めになっている。これ以上私が立ち入ることは出来ないのでしょう。分かりました。今回のアレクの行動は目を瞑ります。ですが、アレク、あなたは成人したら領主になるのですよ。そのときに同じ事が言えるのでしょうか?」
ああ。ひょっとしてそのことを心配してくれてるのかな?
王族云々関係なく領主となれば領民に対して責任を持つことになる。
僕は成人したらナッタジ公爵ってなるんだって。で、今、王都の直轄地として僕が治めていることになっている領地がそのままナッタジ領となる。
別に領地なんて必要ないんだけどね、領民が、別の領主様が来たらやだって言うから、それは受けることにしてる。まぁ、他にもひいじいさん絡みとかで受けた理由もあるんだけどね。
ただね、兄様は知らないんだろうなぁ。
僕の領地、他とは随分趣が違う。
そもそも、僕は統治の必要すらないんだよね。
君臨すれども統治せず、っていうのは、どこのお国の言葉だったっけ?
「えっと、まだ5年先の話ですけどね、そっちの心配はいらないです。兄様は僕が代官の直轄領に来たことがないですよね?フフ、来れば分かると思いますよ?ねぇみんな?」
まぁそうだよなぁ、なんて感じで、うちの身内は頷いてるよ。
だいたい、そこら辺の領地は僕が扱うことになる前から特殊な政治形態なんだ。領主がなくても十分回るようになっている。
兄様は納得はできないけど、ここはいったん引くって感じ。
後日、視察に行く、と約束させられちゃったけどね。
まぁ、来たらビックリするよ。陛下がOKしてるし、文句は言わせないけどね。
領地はどっちでもいいんだけど、そこに住む人は僕にとって大切な人に成りつつある。だから、ちゃんと守りたいって思ってはいるよ。そこだけは安心して欲しい。
「では先ほどの話の続きじゃ。アレクも聞きなさい。」
なんとなく収まった場に、ドクが言った。
考えてみたら、この集団の総責任者って、ドクだっけ?
兄様もラッセイも新任教師。かたやドクなんて何年選手?しかも学長だよ。
身分はさておき養成所の訓練として考えたら、ドクが一番手だって、なんだか、今この瞬間に思い出しました。
で、何?
「先ほどの襲撃時、王都に簡単な連絡をしておる。」
ああ、確か、陛下とも通じるんだったよね、モールス信号を使った魔道具で。
「そこで一個小隊ぐらいじゃとは思うが、騎士が派遣されてくることになった。まぁ、もう出発はしてるじゃろうて。ここまでは、この人数と不慣れなことでこれだけかかったが、アレク、お前さんならシューバを単騎駆けで何日でここまで来る?」
「え、単騎?シューバの能力次第だけど、道が問題なけりゃ、2,3日もあれば大丈夫だと思うけど。」
そうなんだ。
ここまで一体何日かかっただろう。
当初どおり宵の明星だけなら、数倍のスピードで移動してる。
今の進みじゃ、普通の商隊よりずっと遅いもん。
実際、商隊に何度抜かれたか。
そういうのを先に通したりして余計に遅くなってるってのもあるけどね。
「儂の見込みもそんなもんじゃ。とりあえずはこの場で騎士が到着するまで待機する。そして、到着後隊を2つに分ける。このまま進む隊と戻る隊じゃ。戻る隊はプジョー殿下にお任せする。進むのは我々だけ、と言いたいところじゃが・・・」
ドクが言いよどむなんてめずらしい。
僕が来るまでになにやら交渉があって、ってことなんだろうね。
誰か、一緒に行くのかな?姉様とかはちゃんと返して欲しいけど。
だいたいランセル出現が正直想定外過ぎるんだ。
南部に到着するまでに、僕が前に出るように言われることがあるなんて考えてもいなかったし。
もちろん、情報収集の結果だよ?
そこをサボるほど、僕ら宵の明星は素人じゃないもん。
出そうな魔物も出そうな場所もちゃんと調査していたんだ。
まぁ、確実、なんてものはないのも分かっていたし、いつだって想定外が起こるのは想定の範囲内、と思ってはいるから、あらら来ちゃったか、ぐらいの気持ちだったんだけどね。
僕にとって本当の想定外だったのは、戦いの勉強をしている優秀な人達、のはずの、養成所の生徒たちが簡単にパニックに陥ったこと。
だって、この前の第7の件も入れれば、ダンジョン未経験者、いないみたいなんだよ?魔物、当然、戦ってきたよね?
いったい何の勉強してたんだか。これじゃあ、駆け出し冒険者と変わらないよ?
けど、そっか。
ほぼ帰るってことでいいのかな?
「まぁ、プジョー殿下の言うとおり、希望者は連れて行こう。ただし討伐隊参加者のうち希望者のみ、じゃ。こんなところでつまずくようでは南部ではお荷物にすぎんからな。」
え?
討伐?
ハハハ・・・
どうやら・・・
例のランセルの特殊個体であろうボス。騎士を待つ間に討伐するんだって。
メイン街道に放置するのは危なすぎるし、ただ待ちぼうけも芸がないでしょってことみたい。
でね、この討伐隊に参加することを条件にすることで、先に進む人をふるいにかけるんだってさ。
希望者全員を参加させたいプジョー兄様と、当初の計画に近い形で進みたいラッセイとの間で争った後の落としどころがそこって、まぁ、面倒が追加、って思う僕は悪くないと思う。
だってさ、生徒を参加させたら、その人たちを守るっていう余計な仕事が増えちゃうんだもん。
でもこれは僕が来る前にほぼほぼ決定していたらしい。
僕が来たときにはね、僕が行くか戻るかってもめてたんだって。
兄様は僕を戻る隊の隊長っていうか責任者にしたかったみたい。ラッセイは当然進行組に参加させるって争っていたらしい。
僕だって宵の明星なのに変なこと言ってたんだね、兄様は。
まぁ、そんなこんなで、迎えの騎士たちが到着するまで、ランセル討伐隊が結成されることになりました。
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