第46話 遠征訓練(4)
行軍を停止して、小さめ、まぁできるだけ詰めて集合し、状況の把握に努める引率陣。
斥候役の人達が、銀の獣の毛を見つけたところまでは良いけど、先生たちに報告もなく、治世者養成校の生徒たち=指揮官にも報告なく、自分たちだけの判断で攻撃をしかける、斥候としては当然失格だね。
この辺りは、引率陣からのお小言を全員に言うとして・・・
問題は今の状況だ。
かなりの数討伐したとはいえ、逃がしたヤツらも多い。
それに・・・
攻撃方法やあの遠吠えを考えると、リーダー的な個体が絶対にいる、というのは共通認識。まぁ、冒険者たちのってことだけどね。つまりは宵の明星の。
僕らは何度かランセルの討伐派経験しているし、普通の群れなら問題ない。この数の曲がりなりにも訓練されてる生徒たちなら、なんとか対応できるだろう。
でも、特殊個体が率いてるとなるとなぁ・・・・
特殊個体って言うとね、まぁ特殊な個体なんだけど、魔物って、突然変異かなんかで変わり種がたまに産まれるんだ。上位個体ってだけならいいんだけどね、あくまで突然変異。同じように変異するわけじゃないんだ。
まだ僕が1歳で初めての討伐に関わったときも、ランセルの群れが現れて、特殊個体が出てきた。あのときは、普通よりも無茶苦茶大きな個体だったんだ。
これは僕が出会ったのじゃないけど、同じくランセルで、テツボみたいに火を吐く奴がいたらしい。一時期冒険者ギルドで話題になっていた。
そんな風に、どう特殊になってるか、まだ出会ってないからわかんないんだよね。
少なくとも、かなり頭の良い個体だろうな、ってバンミとかと話しているんだけど・・・
うん、これからの対応を引率している人達が話し合っている。
で、一応生徒たちは待機、なんだけどね、さっきプジョー兄様の従者の人がポリア姉様に伝言を持ってきて、先生たちの話し合いの間の安全確保体制その他必要なことを治世者養成校の生徒がリーダーとなってするように、って言ってきたんだ。
正直、僕はそんな授業なんて受けてないし、関係ないや、と、バンミと外の気配を探りつつ、さっきみたいな話をしていたんだけどね。
しばらくなにやらみんなで話をしていたんだけど、
「アレクもちゃんと話に入りなさい。」
って、ポリア姉様に手招きされちゃった。
「でも、僕何もわかんないし、外の警戒でもするよ。」
「だめ。前からねこんなことがあったときのためにプジョー兄様からの指示は貰ってたのよ。いい?参加している生徒たちを1つの遠征軍としアレク、あなたを軍の総大将=将軍とします。私はあなたの参謀役。そして各隊の隊長として、年長者を中心として配置、剣使や魔導師たちの指示を行うこと。」
「は?なんで僕が・・・」
「まずは、身分ね。」
「それなら姉様が・・・」
「聞きなさい。成人したときにどうするかはそのときの話よ。今はあなたは正式にタクテリア家の王子です。それにね、あなたには戦いのノウハウがあるわ。違う?」
「それは、冒険者としてだけだよ。それだって、全然見習いで・・・」
「あなたは、このランセルだっけ、シルバーウルフと戦ったことがあるのよね?そんな生徒、どこにいるの?少なくとも治世者養成校の中にいないでしょ?」
みんなが頷く。
確かにヤツらの習性については僕の方が知ってるかも、だけど・・・
「だったらみんなの命を救うために編成しなさい。」
僕は困っちゃったよ。
僕がここにいるのは王子としてじゃない。あくまで宵の明星の依頼としてだ。
姉様以外ここにいる人たちは知らないはずだけど、でも僕の中では優先事項は決まってる。
「それって、兄様の命令だよね?ごめん。僕には無理だよ。人を動かす経験なんて、僕、ないし・・・」
だから、ドクやラッセイに相談に行こう、って思って、僕は治世者養成校の集まるテントから出ようとしたんだけど・・・
「お待ちを。」
そのとき、なぜか外からナハトが入ってきたよ。
で、生徒のみんなに中断したことを謝って、「失礼」と言ってから僕の耳にささやいた。
「博士からの伝言です。警備の必要があるから、とりあえずはプジョー殿下の指示に従うように、と。迎撃時と同じ感じで良いから、何かあったらすぐにこちらに伝えるように、とのことです。」
「僕に将軍のまねごとをしろって?」
「その方が手っ取り早いってことです。どう考えてもまともに迎撃できないんじゃないですか、生徒たちは。」
「・・・形、だけだからね。」
ナハトはニコッと笑って姉様に向いた。
「アレク王子は説得できましたので、どうぞお勉強を続けてくださいませ。」
「・・・あ、そう。それは助かるわ。じゃあアレク・・・」
「あ、うん。でも僕、本当に何もわかんないんだ。さっきプジョー兄様が指示した戦闘班で交代に巡回に当たってもらえる?」
「アレク・・・いえ、将軍。口調を変えてください。命令の仕方は分かりますね?」
姉様がはぁ、っとため息をついて言ったよ。
そんなこと言っても、ねぇ。
なんて思ってたら、ナハトが僕の肩に手をおいて、グッと下に押してきたよ。
なんだよ!って思って見たら、笑顔だけど目が怖い。先生してるときの目だよ。
もう。なんでこんなときにお勉強?
ヘルプ、って思ってバンミを見たら、肩をすくめて、首を横に振った。
ほんと、肝心なときに助けにならないんだから。
「っ、分かったよ。隊長はさっき迎撃時に扱った生徒をそれぞれ自分の隊にし、まずは怪我人等の把握。心身とも問題ない人を各々3,4名のチームにして周囲の警戒をしてもらう。確か6隊に分かれてたよね。あ、姉様も持ってたから姉様どけたら5隊?各隊から1チームずつ出す形にできる?姉様が担当していた人達も隊長たちで分けて人数融通し合って。」
「はっ!」
パタパタパタ、と姉様以外出ていったよ。従者たちも一緒について行ったから、テントは急に静かになっちゃった。
「姉様、僕には本当に無理だから・・・」
みんなが行っちゃった後、僕は言った。
「騎士の戦い方はわかんない。僕がそんな授業受けてないの知ってるよね?今回だけは、ドクが僕にやれって言うからやるけど、兄様から言われたからじゃない。ごめんね。僕はプジョー兄様は好きだけど、戦いに関して、仲間以上に身を預けられるわけじゃない。こんな僕に指揮を任せようとするんだ。まったくもって戦いのセンスを信じられないよ。」
「でも、あなたは王子として・・・」
「・・・ごめん。」
何か言おうとしてる姉様。
でもね、僕はそれを聞くつもりはないんだ。ごめんね。
ただ、僕にはこの遠征を作り出した責任がある。
最初の計画とは違っても、彼らの同行を認めたのは僕ら宵の明星だ。
だから、彼らの安全を確保することも、僕らの仕事に違いない。
そう自分に言い聞かせ、僕は自分の馬車の屋根に乗った。
大きく索敵のために魔力を広げていく。
そっと、バンミとバフマ、それにナハトもその僕の後ろに静かに立った。
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