第43話 遠征訓練(1)
モーリス先生たちの到着を待つ形で日程が組まれて、いよいよ南部へと出発です。
この頃には、次の生徒も入学したりして、養成校の人達の入れ替えも激しい。といいつつ、治世者養成校の生徒は変わりなし。
えっとね、この訓練で卒業予定って人は多いです。
内緒だけど、僕も、かな?ひょっとしたら現地で卒業もありか、と思ってたりして。やっぱりね、僕としては学校はあまりなじめなくて・・・
治世者養成校ってのも、なじめない理由かも。剣使や魔導師の方なら、多少楽しめたかもしれないけどね。
行軍はね、どうやら剣使養成校の人と魔導師養成校の人を大きく3班に分けるよう。それをそれぞれ一番前、真ん中、一番後ろに配置するんだ。これは、日ごとに入れ替えるみたいだね。
で、前と真ん中の間に治世者養成校の生徒が、真ん中と後ろの間に医療者養成校の生徒が入るんだ。
これは生徒の配置で、引率の先生は自分の生徒の間に適当に入る。まぁ、プジョー兄様なんかは治世者養成校の中だし、モーリス先生とうちのトリオは医療者養成校と一緒。
騎士の5名が、本当の先頭としんがりを受け持ちつつ、適宜移動、みたいな感じです。
えっとね、移動はね、剣使養成校の人は基本は徒歩なんだ。
ただ、荷物用兼へばっちゃった人用に各班に1台ずつ馬車が用意されてる。
魔導師養成校用も同じ。
各班に1台ずつ用意。
ただ、人数的な問題で、体力の弱い人も多い魔導師部隊は無理すれば全員馬車に乗れる感じかな?
一応歩けるだけ歩くってことになってるみたいです。
えっとね、だいたいだけど、剣使養成校の1班は25名前後。魔導師養成校が7名前後って感じ。
ちなみに全員参加の治世者養成校は僕入れて全校生徒9名。これに従者たち。
医療者養成校は参加が3名だって。
でね、治世者養成校、基本は各人1つずつ馬車が必要なんだって。
姉様が家族は一緒でいいって言って、僕と同乗したがったけどね、プジョー兄様が自分が姉様と一緒だって言って、キャパオーバーで分かれました。ホッ。
なお、治世者養成校、もう1組の姉弟であるセメンターレ国から来てる双子が1台。
あと、代官の息子や推薦組なんかは1台。
今で言えば、トレネー領の某都市代官の息子ボナジさんとシーアネマ領某都市代官の息子チヌオイさんが1台。
てことで僕入れれば7台もの馬車が治世者養成校用。
うん。なんていうか、立場によるいろんな違いをまざまざと見せつけられる感じだね。
まぁ、他国の人もいたり、それぞれ暗殺の危険があったり、ってこともあって、巻き込まれての殺傷被害を避けるんだ、的な意味もあるんだよってプジョー兄様が言ってました。だから、僕と姉様を一緒にはできないっていう、シビアな配置、でもあるんだね。いろんな人から狙われやすい僕としては、恐縮です、としかいえないよ、ハァ。
他には、医療者養成校用1台かな?
まぁ、そんな大集団で移動すれば、なかなか魔物も盗賊団も寄ってこないよね。
きっと安全な道中になる、はずなんだ、普通なら。
普通なら、仲間たちだけの馬車だし、気楽に物見遊山の道中なんだろうけどね。
ハハハ。
窓を開けての見学は禁止、なんだって。
王子様が、そんなわちゃわちゃと楽しんじゃダメ、なんだそうです。
せっかくついてる小窓もダメだっていうんだもん。
初めっから僕はちょっぴり不機嫌です。
けど、そんな不機嫌も外に出しちゃダメ、って、ひどいよね。
どうやらナハト先生の、王子様講座は、馬車でも延々続く模様。
休憩中も、治世者養成校の人とじゃないとおしゃべりもダメって言うんだよ。
一応、ウロウロしたきゃ視察か激励のお仕事を兼ねるんだってさ。
僕、決めた。
絶対貴族なんてやらないんだ!!
王都からゆっくりゴトゴト、普通なら1ヶ月かもうちょいかかる旅。
途中上手く町があれば、そこで宿を取り、なければ野宿って感じかな?
本来ならね。
ただ、100名ちょいを泊められる村や町なんてこの道中で多くはない。10名程度なら、僕ら治世者養成校の生徒は宿やなんかに泊まり、他は野営って感じで進みます。
でもね、この人数。しかも不慣れな人も多いということで、2ヶ月はかかるかも、なんて、うんざりする情報が入ってきます。
ここまでたくさんで行う長距離演習は、養成所の歴史でも少ないんだって。
原因は多分、僕ら王族姉弟だろうって。
みなさん、やっぱり騎士団とかに入りたい。ってんで、王族の人とお近づきになれば有利じゃないか、って噂が流れたみたい。
とくに僕は平民出身。一応、奴隷ってのは知られてなくて、冒険者で商人っていう、そっちはそれなりに有名なんだそう。
本当の王族ってわけじゃないから、僕なら簡単にお近づきになれるんじゃないかっていう、まぁ、そんな思惑も人数が増えた理由らしい。
とくに、ガイガム絡みで、どうやら僕のファンクラブ的なものまでできてるぞ、なんて、バフマにからかい半分で教えられました。
そんな人達も入り込んでるみたい。
ちなみに、彼らのような僕に近寄ろうとする人達、ことごとくナハトに追い払われて玉砕してます。
ハハ、バンミやバフマじゃこうはいかないから、そこは感謝、だね。
景色も見られないし、ゴトゴトと退屈な馬車の旅は続きます。
3日もすると、都会感は一切なくなって、大きな街道、って事になってる道も、実際は馬車が行き交うこともできないような道が増えてきて、単なる森の中。
馬車が行き交うから道が出来てる、みたいな道ばっかりになってきて、王都以外知らない人達の足の運びはさらに遅くなっていきます。
都会育ちの人達は、木の種類が変わっても、空気の匂いが変わっても、全然わかんないみたい。
逆に、僕は、視覚が閉ざされている馬車に中でも、香りの変化でちょっぴり旅行感を楽しめるようになってきたけどね。
緑の香りが、ちょっぴり新鮮。
今まで旅したいろんな地域とも、もちろん僕の育ったダンシュタとも違う森の香り。
南下するに従って、土も木も違う匂いで楽しませてくれるんだ。
4日目。
行軍、初めての雨です。
なかなかに、雨の森はやっかいです。まず、馬車はね、車輪がとられちゃう。
だから、小雨ならまだしも本降りになると、休憩するしかないんだよね。
朝からポツポツきた雨が、お昼前には本降りになっちゃった。
「そろそろかなぁ。」
雨ってこともあり早めに、休憩に良さそうな場所で点在するみたいに陣取ってのお昼ごはん+雨宿りになりました。
馬車と各々持ってきているテントとかタープとか、そんなのの中で休憩中。
僕の馬車には、なんだかんだで、先生やってるラッセイとかドクがやってきて、一緒に休憩してる。
先生がいると休憩も気を使うし、特に剣使養成校には人数分馬車がないから、一人でも多く馬車で休憩できるように、自分は遠慮してるんだ、っていうのがラッセイの言い訳です。
でね、雨を見ながらお昼を食べつつこぼしたのか、ラッセイのさっきの言葉。
僕は、「何?」って首をかしげたよ。
「ん。そろそろ脱落者が出るかなってね。」
「脱落者?」
「ああ。野営も行軍もはじめてだとさ、想像と違うって脱落する子が出てくるんだよ。疲れも出るし、夜の見張りははじめてだとかなりきつい。まぁ、ほとんどは3日程度の野営訓練を経験してるみたいだけどね。だからって、1旬どころか6旬かかるかも知れないってなるとさ、終わりが永遠来ないんじゃないかって不安になるもんなんだ。」
「そこに、この雨、ですか。」
バンミが大きく頷いてるよ。
「確かにこれは不安を煽りますね。」
バンミは無理矢理連れ去られた経験があるからね。
知らない大人に連れられて、国境を越えたんだ。そりゃ心細かっただろう。
「雨や、魔物、未知の環境は、疲れた気持ちに、グッときますよね。」
と、ナハト。
ナハトもそれなりの行軍を経験してるから、気持ちは分かるんだろう。
僕?
僕の場合は、赤ちゃんの頃から移動も戦いも日常だったからなぁ。そんなこと考えたこともなかったかも。
うーん、魔物との戦闘の前に、人との戦闘を経験するとね、自然や魔物相手の大変さの方が、精神的にはずっと楽、なんだよね。一番怖いのは悪意を持って命を奪いに来る人間です。
そんな話をしつつ、結局、晴れなかった4日目。
天気を回復した翌日、ぬかるみを考えつつ、午後出発と決定する。
で、そのときには、こっそりと消えてた人、数名。そして、リタイアします、と申告して、卒業または学校に帰った人も数名。
あっという間に、100名を切った行軍になっちゃってたよ。
雨の威力、おそるべし。
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